*

『グレイテスト・ショーマン』奴らは獣と共に迫り来る!

公開日: : 最終更新日:2019/06/10 映画:カ行, 音楽

映画『グレイテスト・ショーマン』の予告編を初めて観たとき、自分は真っ先に「ケッ!」となった。「『ラ・ラ・ランド』のスタッフと、『レミゼラブル』のヒュー・ジャックマンが贈る最新ミュージカル映画です」って。近年の評判の良い素材を集めました。皆さん好きでしょう? あざとい商魂がモロわかり。

でも映画公開が始まると、あちこちでで好評の声が聞こえてくる。ラジオから聞こえてくる映画のサウンドトラックは、どれもテンションが上がる楽しいものばかり。これは観ないわけにはいかなくなった。

映画『グレイテスト・ショーマン』は、オープニングの掴みもバッチリ。いきなりハイテンション。カッコよく音楽とダンスと映像の総合演出で、グイグイ観客の心を惹きこませる。強引なくらいのパワーがある。

ミュージカルは、なによりも音楽先にありき。良い楽曲さえあれば、ストーリーなんてあってないようなもの。曲をひきたたせるために、演出や脚本だって変更する。

あの『アナと雪の女王』だって、一番最初にに出来上がった、雪の女王であるエルサの心情を歌った『Let it go』があまりに良かったため、当初悪役の予定だったエルサを善人に変えてしまったくらい。無理くり変更したから、脚本的には整合性取れない部分もあるけど、それを凌駕するくらい作品にパワーがあった。ミュージカルでプロットの粗探しをするのは野暮ってもの。

この『グレイテスト・ショーマン』は一応伝記映画でもある。サーカスや見世物小屋の創始者P.T.バーナムがモデル。バーナムをヒュー・ジャックマンが、爽やか中年スマイルで演じてるから、おどろおどろしい感じがまったくしない。バーナムがこんな善人なわけがない。サーカスのもつ魑魅魍魎なイメージを刷新してしまった。

作中でバーナムの放つ興行を、評論家が批判する。それに対してバーナムは、「でも、観客が笑ってくれている」と応える。この映画『グレイテスト・ショーマン』事態、映画評論家の反応は芳しくなかったが、一般観客側からはSNSをはじめ、口コミの話題でもちきりになった。

ミュージカルといえば、日本なら女性ファンが多いものと思いがちだが、世界的にはゲイカルチャーの代表ジャンルでもある。映画を作るにあたって、いちばんのお得意様であるLGBT層をかなり意識している。映画の起源は、サーカスを描きたかったからではなく、美意識の高い、豪華絢爛のゲイカルチャーの再現だ。サーカスやバーナムは素材でしかない。そして、虐げられているフリークスたちのやるせない心情に、己を重ねるもよし。

ミュージカルの楽曲は、クラッシックやオペラに近いものが多い。作品のスパイス的にポップスやロックなど、違うエッセンスの曲調が入ってくるような印象。『グレイテスト・ショーマン』の楽曲は、耳あたりの良いポップスに絞られている。一貫性があって、とても聴きやすい。映画鑑賞後は、作中のミュージカル曲が、頭の中でヘビーローテションしてしまうくらい。時折オーケストレーションが入ってくると、違和感を感じるくらい。

「あなたの歌は聴いたことがない。でもあなたと仕事がしたい。自分の耳より、世間の評価の方が確実だ」劇中でのバーナムの歌手への口説き文句。これはこの映画のプロデューサーのそのまま本心だろう。

2時間に満たない上映時間は、ミュージカルは長尺だという慣例もとっぱらっていて良い。卑賤の者を見て笑う見世物小屋のサーカスや、ネットで罵詈雑言を書き連ねるより、楽しいだけのミュージカル映画に、ひととき心を委ねた方が、心身の健康には遥かに良い。

いま、世界中が疲れている。軽くても薄っぺらくてもいいじゃない。お客さんに優しい、軽やかな映画も必要だ。今という時代だからこそウケた『グレイテスト・ショーマン』。2時間弱のほんのひととき、夢をみさせて貰いましょう。

ちなみに、あまりに映画が良かったので、子どもたちと再度鑑賞。みんなノリノリで、ずっと映画の歌を口ずさんでる。『グレイテスト・ショーマン』好きな小学生とはシブすぎる。サントラご所望だそうです。

関連記事

no image

『ダンケルク』規格から攻めてくる不思議な映画

クリストファー・ノーランは自分にとっては当たり外れの激しい作風の監督さん。 時系列が逆に進む長

記事を読む

no image

『グランド・ブダペスト・ホテル』大人のためのオシャレ映画

  ウェス・アンダーソン監督作といえば オシャレな大人の映画を作る人というイメージ

記事を読む

no image

マイケル・ジャクソン、ポップスターの孤独『スリラー』

  去る6月25日はキング・オブ・ポップことマイケル・ジャクソンの命日でした。早いこ

記事を読む

no image

『母と暮せば』Requiem to NAGASAKI

  残り少ない2015年は、戦後70年の節目の年。山田洋次監督はどうしても本年中にこ

記事を読む

『鬼滅の刃 無限列車編』映画が日本を変えた。世界はどうみてる?

『鬼滅の刃』の存在を初めて知ったのは仕事先。同年代のお子さんがいる方から、いま子どもたちの間

記事を読む

no image

坂本龍一の即興演奏が光る『トニー滝谷』

  先日、自身のがんを公表し、 演奏活動はしばらく休止すると 発表した坂本龍一氏

記事を読む

『レディ・プレイヤー1』やり残しの多い賢者

御歳71歳になるスティーブン・スピルバーグ監督の最新作『レディ・プレイヤー1』は、日本公開時

記事を読む

no image

何が来たってへっちゃらさ!『怪盗グルーのミニオン危機一発』

  世界のアニメ作品はほぼCGが全盛。 ピクサー作品に始まり、 母体であるディズ

記事を読む

no image

『ジャングル大帝』受け継がれる精神 〜冨田勲さんを偲んで

  作曲家の冨田勲さんが亡くなられた。今年は音楽関係の大御所が立て続けに亡くなってい

記事を読む

no image

『ロッキー』ここぞという瞬間はそう度々訪れない

『ロッキー』のジョン・G・アヴィルドセン監督が亡くなった。人生長く生きていると、かつて自分が影響を受

記事を読む

『鬼滅の刃 無限列車編』映画が日本を変えた。世界はどうみてる?

『鬼滅の刃』の存在を初めて知ったのは仕事先。同年代のお子さんが

『パラサイト 半地下の家族』国境を越えた多様性韓流エンタメ

ここのところの韓流エンターテイメントのパワーがすごい。音楽では

『ターミネーター/ニュー・フェイト』老人も闘わなければならない時代

『ターミネーター』シリーズ最新作の『ニュー・フェイト』。なんで

『家族を想うとき』頑張り屋につけ込む罠

  引退宣言をすっかり撤回して、新作をつくり続

『もののけ姫』女性が創る社会、マッドマックスとアシタカの選択

先日、『マッドマックス/怒りのデスロード』が、地上波テレビ放送

→もっと見る

PAGE TOP ↑