『とと姉ちゃん』心豊かな暮らしを
NHK朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』が面白い。なんでも視聴率も記録更新しているらしい。たしかにここのところの展開はエキサイティングだ。
ドラマのモデルになっているのは、雑誌『暮らしの手帖』の創始者・大橋鎭子さん。この雑誌は、自分も幼少の頃祖母が愛読していた。当時、幼心に「なんだか昔っぽい雑誌だな〜」と思っていた。いまとなっては、時代が一周りして新しいデザインにみえる。
ホワイトスペースを贅沢にあしらった紙面レイアウトは、雑誌のコンセプトである「心豊かな生活」をそのまま表している。昔も今もまったくブレていない。しかしそれは頑固とは違う。人の本質は永遠に変わらないということ。むしろブレてコロコロ変わっているのは時代の流行の方だ。
ドラマの主人公・とと姉ちゃんは、どんなに悪環境に置かれても、前向きに乗り越えていき、周囲の人たちを味方にしてしまう。
とと姉ちゃんが最初に就職した先は、今で言うブラック企業。男女雇用均等法もない戦前、女性が働くだけで生意気とか言われてしまう。とても原始的な感じもするが、実情のブラック具合は現代とそれほど変わらない。
戦争を迎え、戦後の物資のない世の中。生きていくのもやっとの頃。そのまっただ中で、豊かな生活をイメージしていくのは至難の技。そんなの夢物語だと諦めてしまえばそれきりだが、その夢を大切にしていけば、それはいつか実現していく。目指しているのは、人間らしい生き方。
『暮らしの手帖』が示している生活は、お金をかけた豊かさではない。いかに心が豊かに生きてゆけるかの提示。とてもクリエイティブだ。
バブル時代は、金をいかにかけるかが豊かかと思われていた。とても下品な考えだ。いまでもお金さえかければいいと考えている人も多いのも事実。
オシャレと話題のカフェへ出向いてみたら、混んでて落ちつかず、ただただ高いお茶代を払っただけなんてよくある。むしろ近所の公園のベンチで、水筒に入れてきたお茶を飲んだ方が幸せを感じたりもする。
この不景気な現代、経済ばかりを追いかけるのはとてもダサい。これは人を蹴落としてでも自分だけは金持ちになりたいという利己的な思想。これからのオシャレさんは、いかにお金をかけずに、自分らしく心豊かに生きられるかにかかっている。そうなると物資がない戦後間もなくと現代は近い状況。
ドラマでも描かれていたが、オシャレと話題になると、それを模倣したニセモノが必ず登場してくる。技術的にマネをするのはいくらでもできる。いまさら手垢のついた内容を、いままでと同じ視点でコラージュして記事にしている雑誌なんて数多にある。
ホンモノは、もう次のステップに進んでいるはずだ。仮に同じ素材をあつかっていたとしても、切り口が新たになっている。もちろんそれで読者がついてゆけず失敗してしまうこともあるけれど。
情報を発信する者は、常にどんな人に届けたいか相手の姿をイメージしていなければならない。それは価値観の押し付けではなく、私の好きなものはあなたも好きかしら?と投げかける気持ち。発信者は会ったこともない誰かへ、常にラブレターを送っている。
その真摯な声に気づける自分でもありたいものだ。ニセモノに騙されたらつまらないからね。
関連記事
-
-
大人になれない中年男のメタファー『テッド』
大ヒットした喋るテディベアが主人公の映画『テッド』。 熊のぬいぐるみとマーク・
-
-
『Ryuichi Sakamoto | Opus』 グリーフケア終章と芸術表現新章
坂本龍一さんが亡くなって、1年が過ぎた。自分は小学生の頃、YMOの散会ライブを、NHKの中継
-
-
『メアリと魔女の花』制御できない力なんていらない
スタジオジブリのスタッフが独立して立ち上げたスタジオポノックの第一弾作品『メアリと魔女の花』。先に鑑
-
-
『ノマドランド』 求ム 深入りしない人間関係
アメリカ映画『ノマドランド』が、第93回アカデミー賞を受賞した。日本では3月からこの映画は公
-
-
『プレデター バッドランド』 こんなかわいいSFアクション映画が観たかった
『プレデター』の最新作が公開される。近年日本では洋画が不人気。この『プレデター バッドランド
-
-
『バケモノの子』 意味は自分でみつけろ!
細田守監督のアニメ映画『バケモノの子』。意外だったのは上映館と上映回数の多さ。スタジオジブリ
-
-
『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』 25年経っても続く近未来
何でも今年は『攻殻機動隊』の25周年記念だそうです。 この1995年発表の押井守監督作
-
-
『SAND LAND』 自分がやりたいことと世が求めるもの
漫画家の鳥山明さんが亡くなった。この数年、自分が子どものころに影響を受けた表現者たちが、相次
-
-
『バトル・ロワイヤル』 戦争とエンターテイメント
深作欣二監督の実質的な遺作がこの『バトル・ロワイヤル』といっていいだろう。『バトル・ロワイヤル2』の
-
-
『東京物語』実は激しい小津作品
今年は松竹映画創業120周年とか。松竹映画というと、寅さん(『男はつらいよ』シリ
- PREV
- 『総員玉砕せよ!』と現代社会
- NEXT
- 『ウルトラマン』社会性と同人性
