『WOOD JOB!』そして人生は続いていく
矢口史靖監督といえば、『ウォーターボーイズ』のような部活ものの作品や、『ハッピーフライト』みたいな職業紹介ものが多い。この『WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜』は後者にあたる。矢口史靖監督作品にしては珍しく原作付き。でもちゃんと矢口作品らしい映画になっている。原作は三浦しをんさんによるもの。原作小説と監督との相性がとても良い。最近の日本映画では、主人公が成長しないままの作品が多い。未熟なままの主人公だと、ヒットしたとき続編が作りやすいから。でも観客はやっぱり主人公が、いろいろ壁を乗り越えて、たくましくなっていく姿がみたいもの。
『WOOD JOB!』は、自分の居場所をつくっていく主人公の物語。軟弱な青年の視点を通して林業を紹介している。この映画が映画たる意味は、林業を体験している主人公たちの姿が、現場の映像と音の臨場感で疑似体験させてくれること。役者さんが演じていようが、山に入り実際に木を伐採しているのは現実。そこは嘘がつけないドキュメンタリー要素。
有名な役者さんが揃っているにも関わらず、登場人物全員が画面に溶け込んでいて、実際に林業を営んでいる現地の人のよう。この映画はコメディなので、プロの役者さんでなければ演じきれない。コメディは演者のセンスが問われる。
大学受験に失敗した主人公が、ふと目にした職業研修のパンフレットの女の子に一目惚れして、彼女に会いたいだけで、林業の研修に参加する。明らかに男ばかりのガテン系職業案内の表紙に、不釣り合いな女の子のモデルが起用されているのは、こういう理由だったのか⁈ この映画を観て純粋に「林業カッコイイ!!」と進路を選んだ若者もいるだろう。映画は宣伝としても有効だし、人生を変えてしまう力だって持っている。
どんなに怒られても、失敗してても気にせず、そこに居る。そうしているうちに周囲の人たちは、主人公を認めていく。やがて本人もそこの人間になっていく。「大勢の中の1人」ではなく、「かけがえのない1人」となり、必要とされていく。若い男女がくっつくのだって本人たちだけの問題ではない。これは村の子孫が生まれるかもしれない大事なこと。認めてもらうのは大変だが、ひとたび壁を越えれば、村全員で味方してくれる。性についてもおおらか。
自分たちの木が評価される。でもこの木を植えて育てたのは、150年前の顔も知らないひいおじいさんたち。自分がいましている仕事の結果を知るのは、自分がこの世を去った後の曾孫の世代。会ったことない人から人へと受け継がれていく仕事。自然と見えないものへの畏敬の念は生まれてくる。使う機材は車やチェンソーになったかもしれないが、ここでの生活は100年前の人たちも同じようにしていただろう。きっと100年後も同じであって欲しい。見えないけれど同じ。壮大なロマン。
木には神が宿り、その木で日本家屋が造られていく。家を造りそこに住むことは、神様を迎えて共生することなのだとしみじみ感じた。土着信仰を描いていても、従来の日本映画のような暗さや重さはない。これが物足りないと言ってしまえばそれきりだが、現代的に信仰心を描くなら、これくらいポップな方が良い。スタイルは時代とともに変わる。見えないものを敬う気持ちはいつになっても変わらない。結果として映画には、抹香臭さがまったくない。
「男らしさ、女らしさ」という言葉の響きは、最近ではあまり良いイメージがない。「〜らしくあるべき」と、押し付けがましく理屈っぽい印象が強くなってしまったから。でもこの映画の登場人物たちはみな、ステキに男らしく女らしい。あまりに魅力的な人たちばかり出てくるので、映画をもっと観ていたい、ここで疑似生活をずっと続けていたいと思ってしまう。
フィクションとは分かっていても、そこへ行けば、また彼らに会えるような錯覚におちいる。あれからもそこでの生活は同じように続いていて、みんなが厳しいけれど楽しくやっているのだろうと感じてしまう。それはとても幸せな映画体験。映画は終わっても、人生は続いているのだ。
関連記事
-
-
『誰がこれからのアニメをつくるのか?』さらなる大志を抱けたら
「日本が世界に誇るアニメ」などという手前味噌な恥ずかしいフレーズも、すっかり世の
-
-
『健康で文化的な最低限度の生活』 貧しさが先か、病が先か?
「なんか該当しそうな給付制度ありました?」 これは最近パパ友との会話で欠かせないトピック。こ
-
-
『怒り』 自己責任で世界がよどむ
正直自分は、最近の日本のメジャー映画を侮っていた。その日本の大手映画会社・東宝が製作した映画
-
-
『斉木楠雄のΨ難』生きづらさと早口と
ネット広告でやたらと『斉木楠雄のΨ難』というアニメを推してくる。Netflix独占で新シーズ
-
-
『インセプション』 自分が頭が良くなった錯覚に堕ちいる映画
クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』。公開当時、映画館で観たがさっぱり乗れなかっ
-
-
『ダンジョン飯』 健康第一で虚構の彼方へ
『ダンジョン飯』というタイトルはインパクトがありすぎた。『ダンジョン飯』という、なんとも不味
-
-
『欲望の時代の哲学2020 マルクス・ガブリエル NY思索ドキュメント』流行に乗らない勇気
Eテレで放送していた哲学者マルクス・ガブリエルのドキュメンタリーが面白かった。『欲望の時代の
-
-
『嫌われ松子の一生』 道から逸れると人生終わり?
中島哲也監督の名作である。映画公開当時、とかく中島監督と主演の中谷美紀さんとが喧嘩しながら作
-
-
『反社会学講座』萌えアニメも日本を救う!?
まじめなことにユーモアをもって切り込んでいくのは大切なことだ。パオロ・マッツァリ
-
-
『太陽がいっぱい』 付き合う相手に気をつけろ
アラン・ドロンが亡くなった。訃報の数日前、『太陽がいっぱい』を観たばかりだった。観るきっかけは、
- PREV
- 『炎628』 戦争映画に突き動かす動機
- NEXT
- 『真田丸』 歴史の隙間にある笑い
