*

『真田丸』 歴史の隙間にある笑い

公開日: : 最終更新日:2021/10/03 ドラマ,

NHK大河ドラマは近年不評で、視聴率も低迷と言われていた。自分も日曜の夜は大河ドラマを観るという習慣を久しく忘れていた。しかし、ぼんやりつけていた大河ドラマ『真田丸』がおもしろくて、ついつい魅入ってしまった。まさに中途参戦。最近では家族で『真田丸』を観るのが楽しみになってきた。

この『真田丸』は真田幸村を主人公に、三谷幸喜さんがオリジナルの脚本を書き下ろしたもの。大河ドラマの史実に基づく格調高い作りは受け継いではいるものの、どことなしにコメディタッチ。ここがいちばんの魅力。

三谷幸喜さんは以前『新撰組!』でもオリジナル脚本で大河ドラマの脚本を担当している。そのとき、史実にないオリジナルエピソードを劇中に入れると、視聴者からクレームがきて大変だったと仰っていました。のちの大河ドラマ『龍馬伝』でも、創作エピソードがあったり、史実をアレンジしていたりした場面があっても、誰も文句を言わなかったとのことで「不公平だな〜」と言っていたような。

この『真田丸』の最近の展開は、城中の閉ざされた空間で進んでいる。戦国時代は男尊女卑のホモソーシャル。殿様の逆鱗に触れたら、命はない縦割り社会。そこで生きていく人間はどんなであったか? 悲喜こもごも、噂や思惑が飛び交い、大の男達がオロオロしてる。人を殺すことは平気で出来るくせに、側室の本心を聞くのが怖くてしょうがない。あーでもないこーでもないと思索を練りつつ、鶴の一声ですべて水の泡になる。そんな姿がユーモアたっぷりに描かれている。決してその社会で生きたくないけど、他人の不幸は蜜の味とばかり、視聴者を笑わせ楽しませてくれている。ありそうでなかったシチュエーションコメディ。まさに三谷幸喜さんの得意の分野。

歴史ものというのは仮説で作られているのは暗黙の了解。実際にその場にいた人が描いているわけではないので、伝承されたものや史実を基にはしていても、そこには作家のオリジナルな考えがついてくるもの。困るのは、作家が描いたイメージがあまりに強烈で、ときにはそれにひっぱられて、史実が刷新されてしまうこともある。そもそも伝承だって誰かの主観が入っている。伝え継がれていくうちに、いちばんインパクトが強かったものが、それになってしまうことも起こりうるはず。そうなると事実なんて神のみぞ知るのみ。

大河ドラマ『真田丸』はとても面白くて斬新だ。大河ドラマで本格的なコメディが観れるとは思ってもいなかった。イギリスのドラマでは王宮コメディなんかも定番なのだから、日本でそれに近いものがあってもおかしくない。近年の大河ドラマでは、新進気鋭の役者やスタッフを招いて描いてはいたものの、なかなかはじけた作品は誕生せず、不人気ばかりが報道されていた。どんなに個性的な配役やクリエーターを起用しても、「大河ドラマはこうあるべき」という枠組みに当て込んでしまっては、適材適所として能力は発揮しづらい。今回の『真田丸』は、三谷幸喜さんらしい作品となっていて、焦点が絞られたほぼ毎回1話完結の45分が、あっという間に過ぎてしまう。まさか大河ドラマで、こんなに笑えるなんてね。

大河ドラマはどうしても戦国時代か幕末時代が舞台となってしまう。「またこの場面か〜」と、視聴者も飽きているのは事実。でも視点を変えれば、まだまだ触れていないところはある。戦をしていないときの城中の様子なんて、想像しただけで楽しくなる。型にはまって考えなければ、ニッチな道はいくらでもある。これは作品づくりに限らず、なにごとにも当てはまることだろう。

 

関連記事

no image

『ジャングル大帝』受け継がれる精神 〜冨田勲さんを偲んで

  作曲家の冨田勲さんが亡くなられた。今年は音楽関係の大御所が立て続けに亡くなってい

記事を読む

no image

ある意味アグレッシブな子ども向け映画『河童のクゥと夏休み』

  アニメ映画『河童のクゥと夏休み』。 良い意味でクレイジーな子ども向けアニメ映画

記事を読む

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラゴン』が実写化された。アニメの

記事を読む

no image

『スノーデン』オタクが偉人になるまで

スノーデン事件のずっと前、当時勤めていた会社の上司やら同僚がみな、パソコンに付属されているカメラを付

記事を読む

『ゴールデンカムイ』 集え、奇人たちの宴ッ‼︎

『ゴールデンカムイ』の記事を書く前に大きな問題があった。作中でアイヌ文化を紹介している『ゴー

記事を読む

no image

『電車男』オタクだって素直に恋愛したかったはず

  草食男子って、 もう悪い意味でしか使われてないですね。 自分も草食系なんで…

記事を読む

no image

『バトル・ロワイヤル』 戦争とエンターテイメント

深作欣二監督の実質的な遺作がこの『バトル・ロワイヤル』といっていいだろう。『バトル・ロワイヤル2』の

記事を読む

『白洲次郎(テレビドラマ)』自分に正直になること、ズルイと妬まれること

白洲次郎・白洲正子夫妻ってどんな人? 東京郊外ではゆかりの人として有名だけど、恥ずかしながら

記事を読む

『銀河鉄道の夜』デザインセンスは笑いのセンス

自分の子どもたちには、ある程度児童文学の常識的な知識は持っていて欲しい。マンガばかり読んでい

記事を読む

『死ぬってどういうことですか?』 寂聴さんとホリエモンの対談 水と油と思いきや

尊敬する瀬戸内寂聴さんと、 自分はちょっとニガテな ホリエモンこと堀江貴文さんの対談集

記事を読む

『動くな、死ね、甦れ!』 過去の自分と旅をする

ずっと知り合いから勧められていたロシア映画『動くな、死ね、甦れ

『チェンソーマン レゼ編』 いつしかマトモに惹かされて

〈本ブログはネタバレを含みます〉 アニメ版の『チ

『アバウト・タイム 愛おしい時間について』 普通に生きるという特殊能力

リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム』は、ときどき話

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラ

『世にも怪奇な物語』 怪奇現象と幻覚

『世にも怪奇な物語』と聞くと、フジテレビで不定期に放送している

→もっと見る

PAGE TOP ↑