『犬ヶ島』オシャレという煙に巻かれて

ウェス・アンダーソン監督の作品は、必ず興味を惹くのだけれど、鑑賞後は必ず疲労と倦怠感がのしかかってくる。おそらく映画の情報量があまりに多いので、単純に疲れてしまうのだろう。
このストップ・モーション・アニメ作品『犬ヶ島』は日本が舞台。架空の都市ウニ県メガ崎市で行われる犬対人間の確執と戦い。
この映画、アニメーション作品とはいえ、まったく子どもには訴求していない。そもそもキャラクターが可愛くないし、画面作りの配色もモノトーンに近い。ちょっとアーティスティックで、それでもちゃんと興行を意識しているしたたかさ。トンガったサブカル好きが、好んで食いつきそうな要素でいっぱい。
他のウェス・アンダーソン作品と同じく、この『犬ヶ島』も豪華オールスター・キャスト。誰がどのキャラクターの声をあてているか、気になってしょうがない。これもこの監督の作品の楽しみのひとつなんだけど、やっぱり疲れる原因のひとつだ。
『犬ヶ島』にはさまざまな引用やらオマージュやらが、てんこ盛りに織り込まれている。なんだか「君はどこまでわかるかな?」と知的レベルのテストを受けているみたいで焦ってしまう。
嬉しかったのは、『七人の侍』のテーマ曲がさりげなくかかっていたこと。人の記憶とは不確かなもので、オマージュの美化がうまくいっていると、オリジナルの印象も数段アップしてしまう。
映画が持つ作品のテーマや風刺もあるけれど、それらの要素はものすごい量の情報ですっかり煙に巻かれてしまう。どこまでシリアスなのかジョークなのか、意図的に分かりづらくしてる。
一応日本の文化にリスペクトしているのだろうけど、同時におちょくっているのも感じる。日本スゴイだって? ここが変だよ日本人。Why Japanese People? イジワルな視点も、イギリス人らしい。日本の現状をいちばん理解していないのは、当事者の日本人だったりする。
12月1日から4K8K放送が始まるということで、8K放送のこけら落としは『2001年宇宙の旅』らしい。そのあと4Kにレストアされた黒澤・小津・溝口の作品も続々と放送されるとのこと。その告知番組を観ていてふと思った。レストアに携わるスタジオやスタッフには日本人がいないということ。
『2001年宇宙の旅』は、現在ワーナーが権利を持っているから、そのスタジオで製作するのはわかる。たとえ日本のテレビ局で放送されるコンテンツであっても、最終的な権利は自社で確保したいのはアメリカ的。
気になるのは黒澤・小津・溝口作品のレストア作業だ。彼らの作品がヨーロッパで評価が高いとはいえ、4K化の発起人やスタッフは全員が西洋人。やはり日本の価値は日本人がいちばん理解していないのだろう。これらのクラッシック作品をレストアしても、あまり採算は取れない。目先の金儲けしか興味がなければ、自国の価値あるものも、他国にすべて持っていかれてしまう。
黒澤明監督の晩年は、日本で制作費を出してくれるところがなく、海外出資で映画を作っていた。小津安二郎監督が本格的に評価されたのは、彼の没後。しかも国内での評価ではなく、ヨーロッパからの声ばかりだった。日本人からすれば、「なんでいいのかわからない」と言ったところなのだろう。
ウェス・アンダーソンの映画は、鑑賞後に贅沢な気持ちになるのだが、今回はちょっとふさぎこんだ。政治の腐敗や差別など、『犬ヶ島』で描かれている日本は、まったくファンタジーとも言い切れない。でも原因はそれではない。排他的で不寛容な社会は、なにも日本に限ることでもない。
ストップモーションアニメは、日光を遮断したスタジオで、何日も何日もスタッフが閉じこもって人形とにらめっこして作られる。アーティスティックな作品に携わっていると自身に言いきかせて、作っているスタッフたちの姿が想像できる。きっとその情念が、映像からにじみ出ているのだろう。
自分はグラフィック・デザインを生業としている。日頃レイアウトしていると、英語の文字はなんとなく並べるだけでサマになるのだが、どうも日本語は難しい。ひらがなやカタカナに漢字と、文字のキャラクターもさまざま。非常に揃えにくい。
『犬ヶ島』を観ていると、とてもセンス良く、英語と日本語のフォントが並べられている。スマートに日本語をデザインする方法のヒントをもらった。デザインしている人は、きっと日本語が読めないだろう。知らないからこそできるものもある。
日本人が観ても、これといった大きな違和感がないのが、『犬ヶ島』の凄いところ。ウェス・アンダーソンはイヤミなくらいオシャレなんだと、またつくづく思い知らされた。
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