*

『はじまりのうた』音楽は人生の潤滑油、勇気をくれる映画。

公開日: : 最終更新日:2019/06/12 映画:ハ行, 音楽

 

この『はじまりのうた』は、自分の周りでも評判が良く、とても気になっていた。当初は「どうせオシャレ女子向けの映画でしょ」と、なんとなく自分とは関係のない映画だと思っていた。メインビジュアルも、アイルランド映画の名作音楽映画『ONCE ダブリンの街角で』にそっくり。ハリウッド豪華キャストにしたパクリ映画かと。でも『はじまりのうた』の監督は『ONCE~』と同じジョン・カーニーと後で知り、そりゃあ似ているのは当然だ、むしろ世界配給になってもブレていないのだからエライ!

『ONCE ダブリンの街角で』は、以前親しい友人が勧めてくれた映画。まったく前知識がないまま観た。「映画に神様が宿る」というと眉唾っぽくなるが、良い制作現場には相乗効果が働いて、そのクリエーターが本来持ってる能力よりももっと優れたものが生まれたりする。まるで神様が力を貸してくれるみたいに。そういった魔法が作用してると感じる映画だった。この『はじまりのうた』もきっと同じ力が働いている。それは映画の神様か、音楽の神様かわからないけど、そんなものを呼び寄せてしまうジョン・カーニー監督の力は、才能といっていい。

映画では、かつては有名だったがすっかりしょぼくれた音楽プロデューサーが、傷ついた女性シンガーの歌を聴くところから始まる。誰にも相手にされない彼女の歌が、ダメダメプロデューサーの心に響く。それはお互い人生のどん底にいたからこその共鳴。この映画の原題は『Begin Again』、邦題の『はじまりのうた』と、どちらもなかなか良いタイトル。

登場人物たちの人生を狂わせたのは、富や名声。好きで音楽を始め、才能故に評価されたが、いつの間にかビジネス中心で創作せざるを得なくなる。パッとしない音楽青年が、一曲のヒットで突然豪邸暮らしのスターになる怖さ。

劇中では象徴的に『Lost Stars』という曲が使われている。良い曲だなと思っていたら、マルーン5のアダム・レヴィーンじゃない! しかも本人が出演してる!! マルーン5の曲めちゃめちゃ良いけど、ルックスがね〜っていつも思ってた。(ファンの方スイマセン)でもそれを逆手にとって演じている。本編中ではさまざまなアレンジでかかるこの曲、商業的に計算されたってバージョンがホントにヒドくて、逆に巧さを感じてしまった。

アダム・レヴィーンは本人が本物のスターだし、キーラ・ナイトレイや、『アベンジャーズ』でハルクを演ってるマーク・ラファロもみんなスター。そのスターたちが迷い、それぞれの道を選んでく。役と演者のもつ雰囲気が醸し出す効果。

演奏場面がどれも楽しくて幸せなので、永遠に聴いていたくなるほど。音楽によって複雑な時系列の構成の物語もすんなり観れるし、ねじれた人間関係もスルリとほどけていく。なんとも気持ちが良い。

彼らが欲しかったのは、富や名声ではなく、エキサイティングな気持ち。人間、日々の生活のため、仕事はしなければならない。エキサイティングとまでは言わなくとも、楽しい要素が仕事には必要。バレエ教室の演奏を生業にしてるピアノマンが、誘われて即決で仕事を辞めてしまう場面がある。チャンスを待ってくすぶってるクリエイターのいかに多いことか。「仕事に誇りを持て」なんて精神論はどーでもいい。スタジオを借りるお金がなければ、街なかでゲリラ録音すればいい。街の喧騒も楽曲の一部。できない理由を探すより、できることから始めよう!

偶然集まった人や環境の長所をつかんで、自分のものとして取り込んでいく。そうなると偶然はもう必然になる。きっとこの映画もそうして作られていったのだろう。

エンターテイメントはショウビジネス。経済が絡んでくるのは当然だし、儲からなければ生活も次回作もできない。作り手は芸術家であるが、商売人ではないことのジレンマ。

エンタメとの適切な付き合い方の好例を、この映画が示してくれている。

関連記事

no image

『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』ブラックって?

  ネット上の電子掲示板『2ちゃんねる』に たてられたスレッドを書籍化した 『ブ

記事を読む

no image

『怪盗グルーのミニオン大脱走』あれ、毒気が薄まった?

昨年の夏休み期間に公開された『怪盗グルー』シリーズの最新作『怪盗グルーのミニオン大脱走』。ずっとウチ

記事を読む

no image

『ジャングル大帝』受け継がれる精神 〜冨田勲さんを偲んで

  作曲家の冨田勲さんが亡くなられた。今年は音楽関係の大御所が立て続けに亡くなってい

記事を読む

no image

『ホームレス ニューヨークと寝た男』華やかさのまやかし

  ドキュメンタリー映画『ホームレス ニューヨークと寝た男』。映画公開時もとても

記事を読む

no image

『ダンケルク』規格から攻めてくる不思議な映画

クリストファー・ノーランは自分にとっては当たり外れの激しい作風の監督さん。 時系列が逆に進む長

記事を読む

no image

戦争は嫌い。でも戦争ごっこは好き!! 『THE NEXT GENERATION パトレイバー』

  1980年代にマンガを始めOVA、 テレビシリーズ、劇場版と メディアミック

記事を読む

no image

『ひつじのショーン〜バック・トゥ・ザ・ホーム』人のふり見て我がふり笑え

  なにこれ、おもしろい! NHK Eテレで放送しているテレビシリーズ『ひつじ

記事を読む

no image

坂本龍一の即興演奏が光る『トニー滝谷』

  先日、自身のがんを公表し、 演奏活動はしばらく休止すると 発表した坂本龍一氏

記事を読む

no image

『モアナと伝説の海』ディズニーは民族も性別も超えて

ここ数年のディズニーアニメはノリに乗っている。公開する新作がどれも傑作で、興行的にも世界中で成功して

記事を読む

no image

『プロジェクトA』ジャッキー映画でちょっと強くなった気になる

  ジャッキー・チェンの映画を観たあとは、観るまえよりちょっとだけ気が大きくなる。な

記事を読む

no image
『サトラレ』現実と虚構が繋がるとき

昨年、俳優の八千草薫さんが亡くなられた。八千草さんの代表作には、たくさ

no image
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』考えずに依存ばかりしてると

クエンティン・タランティーノ監督の最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・

no image
『映像研には手を出すな!』好きなことだけしてたい夢

NHKの深夜アニメ『映像研には手を出すな!』をなぜか観始めてしまった。

no image
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』子どもとオトナコドモ

小学二年生の息子が「キング・オブ・モンスターズが観たい」と、劇場公開時

no image
『しあわせはどこにある』おじさんが旅に出る理由

サイモン・ペッグが観たい! ハリウッドのヒットメーカーであるJ.J.

→もっと見る

PAGE TOP ↑