*

『ヒトラー 〜最期の12日間〜』 負け戦には精神論

公開日: : 最終更新日:2021/09/13 映画:ハ行

「欲しがりません勝つまでは」
戦後70年たった今となっては、こんな我慢ばかりを要求する言葉が行き交うということは、戦争に負けている証拠だと冷静にとらえることができます。もちろん当時の日本人だってまったく気づいていなかった訳ではないと思います。戦に負けている時などはとかく精神論に人はすがり始めます。「誇り」とか「名誉」とか軽々しく口から出てくるようならば、かなり追いつめられている状態といっていい。

当時の日本での我慢を要求する状況というのは、自分も学校の教科書にも載っていたのでよく知っているのだが、このドイツ映画の『ヒトラー 〜最期の12日間〜』でも、終戦間際の地下要塞に追いつめられたヒトラーとその家臣たちの姿はまさにそれで、精神論ばかりがヒステリックに飛び交っている。どこの国も最期は同じなのだなと感じた。

この映画はパロディも多く、追いつめられて必死な人間の姿は、客観的には笑いを誘うものである。
今回の大阪都構想の選挙についてのパロディも登場していたくらい。今回もパロディ動画が拡散された。映像と言葉はオリジナルの映画のままで、字幕だけが変更されている。その字幕がなぜかヒトラーが大阪都構想にからんでいたという展開。あまりに映像や言葉とシンクロしているので、大爆笑必至。

よくブラック会社と言われるところや、本当に辛い仕事をしている職場では耐えず「自分の仕事に誇りを持て」とか「もう少しの我慢だ」などのセリフが呪文のように登場する。自分の仕事に誇りを持つという概念は自分には理解できない。それなら「仕事が楽しいか」という言葉の方がしっくりくる。本来仕事というのは生活の糧を得るためのもの。それでも自分の特技で報酬を得たり、自分が面白いと思ったことを突き詰めることで商売になればと、少しでも楽しめる道を模索するもの。いの一番に「仕事に誇り」を意識することはない。

周囲を見渡して、目に見えないものを妄信し始めたり、精神論ばかりを言い出す人が多い職場なら、もしかしたらその船(会社)は沈みかけているのかもしれない。荷物をまとめて逃げる準備もしておいた方が良さそうだ。ネズミみたいにね。

 

関連記事

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』 あらかじめ出会わない人たち

毎年年末になるとSNSでは、今年のマイ・ベスト10映画を多くの人が発表している。すでに観てい

記事を読む

no image

『ピーターパン』子どもばかりの世界。これって今の日本?

  1953年に制作されたディズニーの アニメ映画『ピーターパン』。 世代を

記事を読む

『ブータン 山の教室』 世界一幸せな国から、ここではないどこかへ

世の中が殺伐としている。映画やアニメなどの創作作品も、エキセントリックで暴力的な題材ばかり。

記事を読む

『THE FIRST SLAM DUNK』 人と協調し合える自立

話題のアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』をやっと観た。久しぶりに映画館での

記事を読む

『炎628』 戦争映画に突き動かす動機

『炎628』は日本では珍しい旧ソビエト映画。かつて友人に勧められた作品。ヘビーな作品なので、

記事を読む

no image

『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』妄想を現実にする夢

  映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』は、女性向け官能映画として話題になった

記事を読む

『否定と肯定』感情を煽るものはヤバい

製作にイギリスのBBCもクレジットされている英米合作映画『否定と肯定』。原題は『Denial

記事を読む

『ハリー・ポッター』貧困と差別社会を生き抜いて

映画版『ハリー・ポッター』シリーズが日テレの金曜の夜の枠で連続放送されるのがすっかり恒例にな

記事を読む

『博士と彼女のセオリー』 介護と育児のワンオペ地獄の恐怖

先日3月14日、スティーヴン・ホーキング博士が亡くなった。ホーキング博士といえば『ホーキング

記事を読む

『プライドと偏見』 あのとき君は若かった

これまでに何度も映像化されているジェーン・オースティンの小説の映画化『プライドと偏見』。以前

記事を読む

『トクサツガガガ』 みんなで普通の人のフリをする

ずっと気になっていたNHKドラマ『トクサツガガガ』を観た。今や

『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』 黒歴史を乗り越えて

カナダ映画の『アイ・ライク・ムービーズ』がSNSで話題になって

『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』 映画鑑賞という祭り

アニメ版の『鬼滅の刃』がやっと最終段階に入ってきた。コロナ禍の

『ひとりでしにたい』 面倒なことに蓋をしない

カレー沢薫さん原作のマンガ『ひとりでしにたい』は、ネットでよく

『舟を編む』 生きづらさのその先

三浦しをんさんの小説『舟を編む』は、ときどき日常でも話題にあが

→もっと見る

PAGE TOP ↑