『バケモノの子』 意味は自分でみつけろ!

細田守監督のアニメ映画『バケモノの子』。意外だったのは上映館と上映回数の多さ。スタジオジブリが新作を作らなくなって、そのまま客層が細田監督(スタジオ地図)作品に移行したおもむき。この『バケモノの子』はそれこそスタジオジブリの焼き直しのような、現実世界のリアルな描写と主人公が紛れ込んだパラレルワールドの活写からはじまる。でも影響を受けているのはどうやらスタジオジブリだけではない。児童文学やファンタジー映画、他のアニメ作品と世界あまたにあるファンタジーの名作からの要素がこれでもかとパッチワークされている。だから終止「これ観たことある、読んだことある」のオンパレード。悪く言ってしまえば新鮮みがないのだけれど、日本のメジャー作品のしがらみの多い中、よくもここまでひとつの作品としてパズルをくみたてたものだ。この映画は面白いと思われるアイディアの要素がこれでもかと入り込んでいる。『壁ドン』まで使うあざとさ!! 作り手はアニメ作品を作るというよりは映画作品を作ろうとしている意気込みを感じる。もちろん世界進出も視野にあるようだが、果たして……。
基本となるテーマは「コミュニケーションの大切さ」。これは細田監督のすべての作品に共通するテーマ。今回は父と息子や師弟関係に絞られる。師匠にだって弟子を選ぶ権利はあるし、弟子も師匠を選ぶ権利がある。お互い見込みがなければ師弟関係は成立しない。親子関係にしてみれば、単純に子どもが生まれたら親になるのではなく、子どもとの生活の中で親にさせてもらっているワケ。物事を修練したならばそれを伝えることによって、教師もまた新たに学んでいく。孤独な登場人物たちが、人と行動をともにすることでその楽しさを知っていく。
主人公の少年は武術の修練とともに、知的欲求もめばえてくる。知性とイコールで恋愛感情が登場する。コミュニケーションの最大のメタファー。そう、相手と向き合う恋愛はもっとも知的なコミュニケーション。勇敢で正義感の強い少年少女が、心の闇と闘う姿は古今東西のファンタジーの最大のテーマ。
この選りすぐりのメタファー素材の元ネタを探ってみるのも楽しいかも知れないが、きっとそれには意味がない。ファンタジーのかけらのパッチワークにはこれといった哲学はない。制作者がいままで印象に残って、ただ好きだったから使ったまでのものにすぎない。これは宮沢賢治の『注文の多い料理店』の序文の通りだと思う。「これらは、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません」。観る人の年齢やおかれた環境の違いで、見どころが変わってきそうな映画。作中のセリフを引用するなら「意味は自分でみつけろ」。
宮沢賢治作品もそうだが、スタジオジブリ(宮崎駿監督作品)やこのスタジオ地図・細田守監督作品すべてに共通するのは、これでもかというほどのセンチメンタリズム。ここまで切ない世界にどっぷりハマると、現実世界に戻って来れなくなってしまいそう。舞台となる大都会渋谷に集まる人間の多さ、誰もが無関心で虚無や虚像の具現化と言っていい。そんな都会の隙間に別世界の入口があるのが、やけにリアリティがあったりもする。都会はファンタジーの闇のメタファーにはもってこいなのだ。
関連記事
-
-
『花束みたいな恋をした』 恋愛映画と思っていたら社会派だった件
菅田将暉さんと有村架純さん主演の恋愛映画『花束みたいな恋をした』。普段なら自分は絶対観ないよ
-
-
『となりのトトロ』 ホントは奇跡の企画
先日『となりのトトロ』がまたテレビで放映してました。 ウチの子ども達も一瞬にして夢中になり
-
-
『オデッセイ』 ラフ & タフ。己が動けば世界も動く⁉︎
2016年も押し詰まってきた。今年は世界で予想外のビックリがたくさんあった。イギリスのEU離脱や、ア
-
-
『LAMB ラム』 愛情ってなんだ?
なんとも不穏な映画。アイスランドの映画の日本配給も珍しい。とにかくポスタービジュアルが奇妙。
-
-
『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』 マイノリティとエンターテイメント
小学生の息子は『ハリー・ポッター』が好き。これも親からの英才教育の賜物(?)なので、もちろん
-
-
『ブラック・レイン』 松田優作と内田裕也の世界
今日は松田優作さんの命日。 高校生の頃、映画『ブラックレイン』を観た。 大好きな『ブ
-
-
低予算か大作か?よくわからない映画『クロニクル』
ダメダメ高校生三人組が、未知の物体と遭遇して 超能力を身につけるというSFもの
-
-
『さよなら銀河鉄道999』 見込みのある若者と後押しする大人
自分は若い時から年上が好きだった。もちろん軽蔑すべき人もいたけれど、自分の人生に大きく影響を
-
-
『リップヴァンウィンクルの花嫁』カワイくて陰惨、もしかしたら幸福も?
岩井俊二監督の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』。なんともややこしいタイトル。
-
-
『ジュブナイル』インスパイア・フロム・ドラえもん
『ALWAYS』シリーズや『永遠の0』の 山崎貴監督の処女作『ジュブナイル』。
- PREV
- 『3S政策』というパラノイア
- NEXT
- 『コクリコ坂から』 横浜はファンタジーの入口
