*

『ひつじのショーン〜バック・トゥ・ザ・ホーム』人のふり見て我がふり笑え

公開日: : アニメ, テレビ, 映画:ハ行

なにこれ、おもしろい!

NHK Eテレで放送しているテレビシリーズ『ひつじのショーン』の劇場版『バック・トゥ・ザ・ホーム』。このシリーズ初の長編だ。

そもそも『ひつじのショーン』はスピンオフ作品。イギリスのアーマンド・スタジオでつくられた『ウォレスとグルーミット』シリーズのゲストキャラだった「ひつじのショーン」が主人公になった、別設定のストーリー。今では母体の『ウォレスとグルーミット』より大きな作品に育ってしまった。

テレビの『ひつじのショーン』は、一話10分弱の短編シリーズ。全編セリフはなく、リアクションや呻き声だけでストーリーを進めていく。ショートコントみたいなもの。海外に配給しても、吹き替えによるニュアンスの違いが発生しない。

作り手にはたいへんな苦労がうかがえる。セリフがないということは、すべてキャラクターの芝居だけで状況を伝えなければならない。それもただ動けばいいというのではなく、笑わせなければならない。ハードルはめちゃくちゃ高い。シナリオスタッフのコメディセンスも問われるし、アニメスタッフの人間観察力も高くないと成立しない。イジワルな視点が必要。さすがイギリス。キャラクターがかわいいだけじゃない。

このシリーズ初の長編映画『バック・トゥ・ザ・ホーム』は、劇場公開時から評判を耳にしていた。テレビの『ひつじのショーン』は、ウチでは親子共々大ファンだったので、気にはなっていた。ただこの作品のおもしろさは、短編だからこそ成立するものだと思っていた。短編をダラダラ繋げれば長編になるわけではない。

映画やドラマ、演劇や小説などは、物語の最初の方で、観客に「この作品はどんな作品なのか」を理解してもらわなければならない。どんな世界観のどんな主人公が、何をするのか? それらを観客はわかった上でないと、どんなにアトラクション的な仕掛けが劇中にあっても、誰もおもしろいとは感じない。

長編作品の強みで、普段あまり語られることのなかった、ショーンを始めキャラクターたちの紹介まで丁寧にされる。むしろこの作品から初めて『ひつじのショーン』に触れたほうがいいくらい。で、長編なのでショーンたちになにか冒険の動機もなくてはならない。映画序盤でこの作品のルールがすべてハッキリする。その上での小ネタの数々。こりゃたまらなくおもしろい!

ひつじのショーンや番犬のビッツァー、牧場主の仕草がいちいち笑える。「こんなことしちゃうよね」のオンパレード。これがイギリスだけでなく、世界中で通じる笑いなのだから、人というものは国境や文化を超えてみな共感できるものなのだろう。お芝居のおもしろみがよくわかってらっしゃる。

キャラクターたちの芝居でおもしろくみせるのはアニメーション作品の醍醐味。人間をよく理解していなければ、楽しい芝居の演出なんて出来やしない。

「自分の趣味は人間観察です」なんて言う人がいる。なんだか高みの見物してるみたいだけど、自分が人を見ているのと同じように、自分も人から見られていることを忘れちゃいけない。真の人間観察の達人は、自分観察ができる人。自虐に走るのではなく、自分自身にすら、ちょっぴりイジワルな視点を持つ。かなりのハイレベルなギャグセンス。

イジワルな指摘は時としてズレた方向へ独走している人へのブレーキにもなる。他人をただ批判するのはよくないが、ときにはそれも必要。とくに強引な権力者や年長者には。歳をとるほど幼稚になるようでは、どうしようもない。人から批判されたくなければ、まず己の襟を正すこと。人の話も耳を貸さずにふんぞり返るのは、大人なんかじゃない。日本人は、人への適切な指摘は非常に苦手。だからただただ口をつぐんでストレスを溜め込みがち。日本人よ、オトナのウィットとはこのことだ!

『ひつじのショーン〜バック・トゥ・ザ・ホーム』は、余計な場面がどこにもない。どのシーンも笑える。ワンシーンワンシーンが珠玉なのに、一本の長編映画としてつながっている。まさにドリームムービー。

ウチではしばらく子どもたちの間で、この映画がヘビーローテーションされていた。最近は倫理観のズレた、ヘンなアニメが多いので、そんなものを観るよりはこっちの方が遥かに良い。知らないうちにウィットなセンスが磨かれていたりして。学校では絶対教えてもらえないことだしね。

関連記事

『シンドラーのリスト』極端な選択の理由

出典:ajshawler.blogspot.com[/caption] テレビでナチスのホロ

記事を読む

『まれ』劇伴作曲家の新しい才能・澤野弘之氏

NHK朝の連続テレビ小説の 春の新番組『まれ』。 はやくも好評ですね。 今週は少女

記事を読む

はやいことに三代目『いないいないばぁっ!!』『みいつけた!』

小さい子どもがいる家の 朝の定番番組はNHK Eテレ。 ホントは朝はニュースとかみた

記事を読む

『トランスフォーマー/ロストエイジ』最新技術のお披露目の場

ドルビーアトモスのAVアンプを探していると、この『トランスフォーマー/ロストエイジ』の見せ場の映

記事を読む

実は主人公があまり活躍してない『あまちゃん』

NHKの視聴率稼ぎの看板番組といえば 『大河ドラマ』と『朝の連続テレビ小説』。 『大

記事を読む

『NHKニッポン戦後サブカルチャー史』90年代以降から日本文化は鎖国ガラパゴス化しはじめた!!

NHKで放送していた 『ニッポン戦後サブカルチャー史』の書籍版。 テレビの放送もとて

記事を読む

『東のエデン』事実は小説よりも奇なりか?

『東のエデン』というテレビアニメ作品は 2009年に発表され、舞台は2011年の近未来(当

記事を読む

マンガ原作でも世界中の大人が評価した『アデル、ブルーは熱い色』

日本とフランスの文化は似てる。 カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルムドールを受賞した『

記事を読む

『ベルサイユのばら』ロックスターとしての自覚

©︎池田理代子プロダクション[/caption] 「あ〜い〜、それは〜つよく〜」 自分が幼

記事を読む

『ハクソー・リッジ』英雄とPTSD

http://www.hacksawridge.movie/[/caption] メル・ギブ

記事を読む

『チョコレートドーナツ』ホントの幸せってなんだろう?

http://bitters.co.jp/choco/[/capti

『プロジェクトA』ジャッキー映画でちょっと強くなった気になる

ジャッキー・チェンの映画を観たあとは、観るまえよりちょっとだけ

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』映画監督がアイドルになるとき

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの監督ジェームズ・ガ

『わたしは、ダニエル・ブレイク』世の中をより良くするために

http://www.longride.jp/danielblake

『マザー!』観客はそれほど高尚ではない?

http://paramount.nbcuni.co.jp/moth

→もっと見る

PAGE TOP ↑