『バトル・ロワイヤル』 戦争とエンターテイメント
深作欣二監督の実質的な遺作がこの『バトル・ロワイヤル』といっていいだろう。『バトル・ロワイヤル2』の撮影中に深作監督が亡くなったため、途中から息子の深作健太監督にメガホンをバトンタッチしている。この映画が2000年公開なのでもう15年も前になる。R15指定の暴力映画で、殺人ゲームに強制参加させられた中学生同士が殺し合うというもの。後のハリウッド映画で『ハンガーゲーム』やら『キルビル』など、内外さまざまな作品に影響を与えた。
深作欣二監督は戦争の理不尽さを世の若い子に知ってもらいたくてこの作品を作ったと言っているが、その意図は殆ど観客には届いていない。なんとなく世の中が戦争に向かいつつある現実をふまえると、残念ながら深作欣二監督の発言とは裏腹に、戦争気分へアクセルを踏ませるタイプの映画になってしまっただろう。
自分はこの作品は原作小説から読んでいる。高見広春さんの小説は賞レースで物議をかもし、内容があまりに不道徳でショッキングという事で、賞から外された。それでも「下品だが面白い。売れるだろう」と出版へ至ったらしい。人殺しや暴力、ホラーやお涙頂戴ものなどは精神的にはすべてポルノに属する刺激のジャンルだと思う。戦争の死体の写真をSNSでシェアする心理も、正義感というよりはポルノ的な快楽を感じる。自分はこの分厚い原作を一気に読んでしまった。やはりポルノ的な興奮がここにはある。
原作の面白かったところは、先ず最初に殺人ゲームに参加させられた生徒たちのアイデンティティーをこと細かく紹介する。その人となりを読者が掴んだところで殺されるというくだり。戦争で殺したり殺されたりした人たちが、読者である自分たちと同じだと感じさせる為の工夫だと思う。
原作者の高見広春さんは映画化で、上映時間を3時間にしてでも人物紹介に時間を割いて欲しいと頼んだそうだが、やはりそれはかなわず、殺人場面のオンパレードの映画となった。自分は公開当時劇場で観たが、観客もヤンキーばかりだったのを覚えている。ホラー映画を観るようなワイワイしたノリだった。
日本の戦争映画の特徴として、殺されたり爆弾を落とされたりする立場の視点のものが多いのだが、戦争が恐ろしいのは殺される恐怖だけではなく、人を殺さなければならないということ。自分が殺されたくない、怖いから人を殺してしまう。そして戦争が始まる。
この映画は戦争について語っているが、作中でどう戦争批判をしてみても、観客には馬の耳に念仏。原作小説を賞レースから外した審査員を、当時は頭が固いと思っていたが、今となっては正しい選択をしていると感じる。エンターテイメントに高尚なテーマは相性が悪い。
社会問題を提起するのもエンターテイメントの役目。本来の意図と制作上の意図、観客の受け取り方と、なかなか純粋に伝わりにくいのが映像作品の難点。映像作品には、多くの人が関わるから致し方ないことなのだろう。
関連記事
-
-
『乾き。』ヌルい日本のサブカル界にカウンターパンチ!!
賛否両論で話題になってる本作。 自分は迷わず「賛」に一票!! 最近の『ド
-
-
『真田丸』 歴史の隙間にある笑い
NHK大河ドラマは近年不評で、視聴率も低迷と言われていた。自分も日曜の夜は大河ドラマを観ると
-
-
『映画大好きポンポさん』 いざ狂気と破滅の世界へ!
アニメーション映画『映画大好きポンポさん』。どう転んでも自分からは見つけることのないタイプの
-
-
『SLAM DUNK』クリエイターもケンカに強くないと
うちの子どもたちがバスケットボールを始めた。自分はバスケ未経験なので、すっかり親のスキルを超
-
-
『惑星ソラリス』偏屈な幼児心理
2017年は、旧ソ連の映画監督アンドレイ・タルコフスキーに呼ばれているような年だ
-
-
『境界のRINNE』やっぱり昔の漫画家はていねい
ウチでは小さな子がいるので Eテレがかかっていることが多い。 でも土日の夕方
-
-
『ピーターパン』子どもばかりの世界。これって今の日本?
1953年に制作されたディズニーの アニメ映画『ピーターパン』。 世代を
-
-
『パスト ライブス 再会』 歩んだ道を確かめる
なんとも行間の多い映画。24年にわたる話を2時間弱で描いていく。劇中通してほとんど2人の主人
-
-
『メダリスト』 障害と才能と
映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自分は萌えアニメが苦手なので、絶
-
-
『火垂るの墓』 戦時中の市井の人々の生活とは
昨日、集団的自衛権の行使が容認されたとのこと。 これから日本がどうなっていくのか見当も
