*

『バトル・ロワイヤル』 戦争とエンターテイメント

公開日: : 最終更新日:2022/04/24 映画:ハ行,

深作欣二監督の実質的な遺作がこの『バトル・ロワイヤル』といっていいだろう。『バトル・ロワイヤル2』の撮影中に深作監督が亡くなったため、途中から息子の深作健太監督にメガホンをバトンタッチしている。この映画が2000年公開なのでもう15年も前になる。R15指定の暴力映画で、殺人ゲームに強制参加させられた中学生同士が殺し合うというもの。後のハリウッド映画で『ハンガーゲーム』やら『キルビル』など、内外さまざまな作品に影響を与えた。

深作欣二監督は戦争の理不尽さを世の若い子に知ってもらいたくてこの作品を作ったと言っているが、その意図は殆ど観客には届いていない。なんとなく世の中が戦争に向かいつつある現実をふまえると、残念ながら深作欣二監督の発言とは裏腹に、戦争気分へアクセルを踏ませるタイプの映画になってしまっただろう。

自分はこの作品は原作小説から読んでいる。高見広春さんの小説は賞レースで物議をかもし、内容があまりに不道徳でショッキングという事で、賞から外された。それでも「下品だが面白い。売れるだろう」と出版へ至ったらしい。人殺しや暴力、ホラーやお涙頂戴ものなどは精神的にはすべてポルノに属する刺激のジャンルだと思う。戦争の死体の写真をSNSでシェアする心理も、正義感というよりはポルノ的な快楽を感じる。自分はこの分厚い原作を一気に読んでしまった。やはりポルノ的な興奮がここにはある。

原作の面白かったところは、先ず最初に殺人ゲームに参加させられた生徒たちのアイデンティティーをこと細かく紹介する。その人となりを読者が掴んだところで殺されるというくだり。戦争で殺したり殺されたりした人たちが、読者である自分たちと同じだと感じさせる為の工夫だと思う。

原作者の高見広春さんは映画化で、上映時間を3時間にしてでも人物紹介に時間を割いて欲しいと頼んだそうだが、やはりそれはかなわず、殺人場面のオンパレードの映画となった。自分は公開当時劇場で観たが、観客もヤンキーばかりだったのを覚えている。ホラー映画を観るようなワイワイしたノリだった。

日本の戦争映画の特徴として、殺されたり爆弾を落とされたりする立場の視点のものが多いのだが、戦争が恐ろしいのは殺される恐怖だけではなく、人を殺さなければならないということ。自分が殺されたくない、怖いから人を殺してしまう。そして戦争が始まる。

この映画は戦争について語っているが、作中でどう戦争批判をしてみても、観客には馬の耳に念仏。原作小説を賞レースから外した審査員を、当時は頭が固いと思っていたが、今となっては正しい選択をしていると感じる。エンターテイメントに高尚なテーマは相性が悪い。

社会問題を提起するのもエンターテイメントの役目。本来の意図と制作上の意図、観客の受け取り方と、なかなか純粋に伝わりにくいのが映像作品の難点。映像作品には、多くの人が関わるから致し方ないことなのだろう。

関連記事

『メダリスト』 障害と才能と

映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自分は萌えアニメが苦手なので、絶

記事を読む

no image

『モモ』知恵の力はディストピアも越えていく

ドイツの児童作家ミヒャエル・エンデの代表作『モモ』。今の日本にとてもあてはまる童話だ。時間泥棒たちに

記事を読む

『パイレーツ・オブ・カリビアン』 映画は誰と観るか?

2017年のこの夏『パイレーツ・オブ・カリビアン』の新作『最後の海賊』が公開された。映画シリ

記事を読む

『火垂るの墓』 戦時中の市井の人々の生活とは

昨日、集団的自衛権の行使が容認されたとのこと。 これから日本がどうなっていくのか見当も

記事を読む

no image

『やさしい本泥棒』子どもも観れる戦争映画

人から勧められた映画『やさしい本泥棒』。DVDのジャケットは、本を抱えた少女のビジュアル。自分は萌え

記事を読む

no image

『団地ともお』で戦争を考える

  小さなウチの子ども達も大好きな『団地ともお』。夏休み真っ最中の8月14日にNHK

記事を読む

『ベルリン・天使の詩』 憧れのドイツカルチャー

昨年倒産したフランス映画社の代表的な作品。 東西の壁がまだあった頃のドイツ。ヴィム・ヴェン

記事を読む

『薔薇の名前』難解な語り口の理由

あまりテレビを観ない自分でも、Eテレの『100分de名著』は面白くて、毎回録画してチェックし

記事を読む

『T・Pぼん』 マンスプレイニングはほどほどに

Netflixで藤子・F・不二雄原作の『T・Pぼん』がアニメ化された。Netflix製作とな

記事を読む

『ふがいない僕は空を見た』 他人の恋路になぜ厳しい?

デンマークの監督ラース・フォン・トリアーは ノルウェーでポルノの合法化の活動の際、発言して

記事を読む

『ケナは韓国が嫌いで』 幸せの青い鳥はどこ?

日本と韓国は似ているところが多い。反目しているような印象は、歴

『LAZARUS ラザロ』 The 外資系国産アニメ

この数年自分は、SNSでエンタメ情報を得ることが多くなってきた

『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』 みんな良い人でいて欲しい

『牯嶺街少年殺人事件』という台湾映画が公開されたのは90年初期

『パスト ライブス 再会』 歩んだ道を確かめる

なんとも行間の多い映画。24年にわたる話を2時間弱で描いていく

『ロボット・ドリームズ』 幸せは執着を越えて

『ロボット・ドリームズ』というアニメがSNSで評判だった。フラ

→もっと見る

PAGE TOP ↑