『CASSHERN』本心はしくじってないっしょ
先日、テレビ朝日の『しくじり先生』とい番組に紀里谷和明監督が出演していた。演題は『日本映画界から嫌われてしまった男』。この番組は一時期一世風靡したような人で、メディアから姿を消してしまった人が、自らの失敗談を語り、次のプロジェクトの告知をするような番組。したたかに次の作戦の宣伝をしているので、講師の殆どは自分がしくじっているとは感じていない。番組の意図としては、失敗している人を上から目線で批判しようとするものなのだろうが、やはり自分の名前を看板に活躍していた人は、常に次のことを考え行動しているように思える。
紀里谷和明監督といえば、元宇多田ヒカルさんの旦那というイメージがいちばん強い。彼女のPVを監督してして、そのビジュアルセンスのカッコ良さと、楽曲のイメージに合った映像づくりができていてスゴいと思ったものです。そのフォトグラファー出身の紀里谷監督の長編デビュー作『CASSHERN』は、70年代アニメ『新造人間キャシャーン』の実写映像化。当時はまだ漫画アニメ原作の実写化ブーム前夜、子どもの頃観ていたアニメがどうスタイリッシュに実写化されるのか、もの凄く期待して映画館に行ったものです。いつもはガラガラの郊外のシネコンも大入りでした。
で、蓋を開けてみたら、全然面白くないのこの映画。こっちは『スパイダーマン』や『マトリックス』みたいな映画の日本版が観れると思っていたのに、登場人物達がコスプレで延々戦争論を語ってるの。もっとバカバカしいものが観たいのにナニコレ?って感じ。そりゃあ『新造人間キャシャーン』は人間に奴隷のように扱われていたロボット達が、人間に反旗を翻す戦争の話だから、とうぜん差別問題や侵略戦争なんかを作者が調べるのはあたりまえのこと。でも結局娯楽作品なので、そこで深刻に捉えてしまって、ひっぱられてしまってはいけない。シビアなバックボーンはあれど、バカをやっていく器、なんとなくブレてしまって大物になりきれない残念感がした。
この映画は6億というメジャー作品にしては低予算で、15億稼いだらしい。これは立派なヒット作。それでも紀里谷監督は評価されず、日本映画界からほぼ抹殺されようとしたらしい。『しくじり先生』の番組では「日本映画の悪口を言い回ったから、業界から嫌われた」と言っていたが、問題はそればかりではなさそう。ちなみに日本では酷評だった紀里谷監督もハリウッドからスカウトされたらしい。ただリーマンショックと重なって白紙になったとか。なんと運のない男なのだろう。
才能がなければ始まらないが、その人が成功するには運も必要。この『しくじり先生』では紀里谷監督の態度ばかり責めていたが、とんがっていなければ新しいものは絶対に生まれない。この運のない理由が、番組の紀里谷監督の言葉で理解できた。フォトグラファー時代、一気にトップに躍り出て、ちょこっとシャッター押すだけで何百万とギャラが入って来たとき、彼は天狗になって遊びまくっていたそうです。本来そのときこそストイックにブラッシュアップすべきだったのに、仕事に集中できなかったのでしょうね。運がないというよりは、運が逃げていったという感じ。
紀里谷監督のハリウッド作品、観たかったな〜と思っていたら、なんでもモーガン・フリーマン主演の新作が公開されるとか。な〜んだ、『しくじり先生』とか言っておきながら、全然しくじってないじゃん。果たして紀里谷監督のハリウッド作品はどんなものになるのだろう?
関連記事
-
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』 長いものに巻かれて自分で決める
『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズの劇場版が話題となった。『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』というタイトルで
-
『BLUE GIANT』 映画で人生棚卸し
毎年年末になると、映画ファンのSNSでは、その年に観た映画の自身のベスト10を挙げるのが流行
-
『風立ちぬ』 招かざる未来に備えて
なんとも不安な気分にさせる映画です。 悪夢から覚めて、夢の内容は忘れても、 ただただ不安
-
『ゴジラ(1954年)』戦争の傷跡の貴重な記録
今年はゴジラの60周年記念で、 ハリウッドリメイク版ももうすぐ日本公開。 な
-
『リリイ・シュシュのすべて』 きれいな地獄
川崎の中学生殺害事件で、 真っ先に連想したのがこの映画、 岩井俊二監督の2001年作品
-
『めぐり逢えたら』男脳女脳ってあるの?
1993年のアメリカ映画『めぐり逢えたら』。実は自分は今まで観たことがなかった。うちの奥さん
-
『ルックバック』 荒ぶるクリエーター職
自分はアニメの『チェンソーマン』が好きだ。ホラー映画がダメな自分ではあるが、たまたまSNSで
-
『清洲会議』でおいてけぼり
現在公開中の新作『ギャラクシー街道』も好調らしい三谷幸喜監督の前作にあたる『清洲
-
『ロッキー』ここぞという瞬間はそう度々訪れない
『ロッキー』のジョン・G・アヴィルドセン監督が亡くなった。人生長く生きていると、かつて自分が影響を受
-
『ドライヴ』 主人公みたいになれない人生
ライアン・ゴズリング主演の『ドライヴ』は、カッコいいから観た方がいいとよく勧められていた。ポ
- PREV
- 『沈まぬ太陽』悪を成敗するのは誰?
- NEXT
- 『サクリファイス』日本に傾倒した核戦争の世界