『クラッシャージョウ』 日本サブカル ガラパゴス化前夜

アニメ映画『クラッシャージョウ』。1983年の作品で、公開当時は自分は小学生だった。この作品はなかなか単体ではソフト化されず、レンタルもされてなかった。渋谷のTSUTAYAにVHSがひとつ置いてあるだけだった。最近ではCSやらネットテレビやらで観れるようになったけど幻の作品でもあった。当時の宣伝は「『機動戦士ガンダム』のサンライズが送る最新作!!」と煽っていたっけ。自分も一回観たきりだった。
『クラッシャージョウ』は高千穂遙さんのスペースオペラ小説を原作としている。『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイン兼作画監督をしていた安彦良和さんが挿絵を描いていた。自分は安彦さんの絵が好きだったので、それだけで自分はその小説を読んでいた。映画版はその安彦さんが監督を務めている。
確か観たのは今、新宿バルト9がある新宿東映だったと思う。でも調べると『クラッシャージョウ』は松竹系の映画。どうして東映の映画館でやっていたのだろう? 新宿松竹(現・新宿ピカデリー)との勘違いかな? 『機動戦士ガンダムⅢ/めぐりあい宇宙(そら)』を同級生の小学生と一緒に観にいった時、ギリギリまで「行く、行かない」と友達が騒いでいたので、もうめんどくさいからとひとりで観に行くことにした。いまでは小学生がひとりで都心をうろつくなんて物騒だけど、まだそこまで親も意識がなかったのでなんとなく許されていた。当時はまだ映画を観るには窓口でチケットを買うしか方法がない。大入りの映画では、行列をなして開場を待たなければならない。ひとりで待ちましたよ。周りには自分よりはるかに年上の大学生くらいのお兄さんばかり。あの頃の自分にはみんなオジサンにしかみえない。小学生がひとりでならんでいるので、周りの大人がちょくちょく声をかけてくれていた。
『クラッシャージョウ』は、当時の日本映画には珍しくドルビーステレオで制作されていた。モノラル音声の映画しか観たことのなかった自分は、この音響だけでもえらく感激してしまった。
最近になってこのアニメ映画を観直してみた。アトラクション的にエピソードを詰め込んだ面白さは再確認できた。メインキャラクターたちはどんなピンチがきても無傷で乗り越えられるが、モブキャラはことごとく安易に殺されるご都合主義も、まあ許しましょう。でもやっぱりひっかかるところがある。33年前の公開当時には許されていたのかもしれないけど、今の倫理観には合わないところ。もしかしたらソフト化が積極的でなかったのはそんなところもあるのかも?
まずは主人公のジョウ。19歳の設定なのに酒ガンガン飲んじゃってる。公私ともにパートナーのアルフィンなんかは17歳。未成年飲酒。いまならそれだけでR指定。あとは全体に流れる女性蔑視。直接的な性描写はないにせよ、女性が陵辱されている場面が多すぎる。自分は小学生の公開当時、「女の人は男に辱められてたいへんだな〜。自分は男で良かった」って思っちゃったもの。アニメ=男のものって構図がすでにできあがっていた。
当時アニメの鉄則みたいので、冒頭に女の裸を描けば掴みはオーケーみたいなものがあった。どんどん観客もエスカレートしていって、美少女キャラのヌードシーンを望むようになってくる。実際安彦さんの絵も、カワイイ女の子描きたいってパワーでみなぎってる。需要と共有が見事にマッチ。でも同じ女の子の絵が目的でも、描く方と観るだけの方とでは差が生まれて来る。絵を描くという能動的な行動と、ただ観たいだけの受動的なもの。人は能動的だとパワーを発揮するが、受動的なままだと、どんどん陰にこもってしまう。湧き水も流れれば清流になるが、同じところに溜まったままだと腐ってしまうように。
影響受けたものを呼び水にして、自分も表現者になるくらいにならないと、自分自身が苦しくなってしまうだろう。まさにオタクという言葉がまだ世になかった頃のこと。この映画は楽屋落ちネタも多いので、アニメファンでない、いちげんさんにはわかりづらい。そんな単体で観れないところも、アニメが一般のエンターテーメントになりづらかった要因だろう。
あまり語られることのない『クラッシャージョウ』。ちょっと調べたら、去年くらいからファンの集いみたいなものをあちこちでやっている。自分も急にこの作品を観たのも、なにがし縁があったのかも。当時は王道のエンタメ作品かと思っていたけど、今観るとかなりマニアックな作品だったことが判明してしまった。
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