『エイリアン』とブラック企業
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最終更新日:2019/06/12
映画:ア行
去る4月26日はなんでもエイリアンの日だったそうで。どうしてエイリアンの日だったかと調べてみれば、エイリアンが見つかった惑星がLV-426という名前に由来しているらしい。5月4日が「May the force(4th) be with you」にひっかけて、スターウォーズの日に対抗してるのかな?
自分が一作目の『エイリアン』を観たのは小学生のときテレビの放送で。当時の吹き替えでは、マザーコンピューターのことを「おふくろさん」と訳していた。ご丁寧に「宇宙で孤独に旅をするクルー達は、コンピューターをおふくろさんと呼び、親しんでいる」とナレーションまで入っていたような。
『エイリアン』といえば、リドリー・スコット監督の第一作から、関連作品はたくさん誕生した。なかでもシガニー・ウィバーが演じるエレン・リプリーが主人公のシリーズがもっとも自分は好きだ。1〜4まであるオリジナルシリーズは、全作とも監督が違う。その監督達はのちに誰もが知っている名作を撮る監督さんへとなっていく。『エイリアン』シリーズは名匠の登竜門かも?
第一作の『エイリアン』は、巨匠リドリー・スコット。のちに『ブレードランナー』や『グラディエーター』を撮る。日本が舞台となった『ブラックレイン』なんて作品もある。SFとホラーを融合させ、HRギーガーのデザインしたエイリアンの造詣をハッキリ映さない、ジラす映像美の演出をした。
『エイリアン2』は、ジェイムズ・キャメロン。『タイタニック』や『アバター』、『ターミネーター』シリーズの生みの親。戦闘ものにアレンジした。女性アクションの代表的な作品。
『エイリアン3』はデビッド・フィンチャー。『セブン』や『ファイト・クラブ』、『ソーシャル・ネットワーク』の監督のデビュー作にあたる。シリーズでもっとも暗く、アメコミ的でペシミスティックな作風になった。
『エイリアン4』はジャン・ピエール・ジュネ。のちに『アメリ』を監督するフランス人監督の初の英語作品。ウィノナ・ライダーの起用は、やっぱり美少女ものへの憧れか? 緑を基調にしたアメコミ風映像美と、コメディ要素が加わっているのがフランスのエスプリ。
どれもが作風が違えど、それぞれの監督ののちの作風のエッセンスがすでに見受けられる。
『エイリアン』シリーズは、とかくエイリアンの造詣に焦点が当たりがちだけれど、実はこの映画、ブラック企業とそこで働いているブラック社員の関係の映画だと自分は思っている。ブラック企業で働いたり関わったるするとヒドい目にあうよって教訓の映画。これ、4作品とも共通のテーマ。『エイリアン vs プレデター』シリーズや、リドリー・スコットがリブートした『プロメテウス』なんかは、その要素がないから、自分は物足りないと感じてしまうのかも知れない。
第一作の『エイリアン』では、宇宙貨物船ノストロモ号のクルー達が、労働条件について文句を言っている場面から始まる。作り手は、当初はそんな大意のない場面のつもりだっただろう。宇宙旅行している人間も、自分たちとそれほど変わらない問題を抱えていると、共感を抱かせるための要素にしかなかったはず。
この映画の企業の指示は、クルーはエイリアンとの遭遇で、その接触を図るのが第一優先とすること。それを無視すればボーナスどころか、給料は支払われないという契約。実は人命は二の次という企業の考え方があとで露呈する。結局クルー達は、関わりたくもないエイリアンと接触して、とんでもない災難に遭遇することとなる。人命度外視の企業は、未開の星に多勢の家族を移住させたり、エイリアンを生物兵器にしようとしたり、利益のためならどんなことでもやってしまう。本当の悪はエイリアンではなくて、人間が作った企業だというのが興味深い。
ブラック企業という言葉は、ここ数年で日本で流行した言葉だ。なんでもこの『エイリアン』にでてくる悪徳企業ウェイランド・ユタニ(湯谷)社は日系会社。『エイリアン3』には「鉄」とかやたら日本語がでてくる。『AKIRA』とかの影響で、単純に「日本語カッコいい!」ぐらいの感覚で日系企業の設定にしているのなら光栄だけど、もし当時の日本の企業の様子が、海外からは悪徳な印象で、その風刺として選ばれたとしたら、完全にいまの日本の状況を暗示していて空恐ろしい。
そういえば第一作で、エイリアンの子どもが腹から出てくる場面で、アメリカでの観客が「オーノー! スシスシ(寿司)!!」と叫んでいたらしいから、案外海外からすると、日本をイメージしやすい作品だったのかも。
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