*

『チャッピー』哲学のネクストステージへ

公開日: : メディア, 映画:タ行

from : http://bd-dvd.sonypictures.jp/chappie-movie/

from : http://bd-dvd.sonypictures.jp/chappie-movie/

映画『チャッピー』が日本公開がされる前、この作品に期待の声があちこちから聞こえて来た。自分はこの映画のニール・ブロムカンプ監督とはどうもセンスが合わないらしい。彼のデビュー作『第9地区』を勧める人が多かったにも関わらず、自分はどうしても観る気になれなかった。あのエビ宇宙人のデザインや、血がドバーっとでる悪趣味な描写が生理的にダメだった。ずいぶんたってから観てみると、思っていたよりかなりきちんとした構成の映画だったので、意外とこの監督は生真面目なんだと思ったものです。

そんな前例もあって、この『チャッピー』も地雷臭プンプン。ちょっと距離を置いて様子をうかがっていました。日本公開が始まったと同時に、この映画を期待していた人たちが、皆そろって口を閉ざしてしまった。上映館もすぐに減ってしまったような気がする。ネットの感想では理屈っぽいものが氾濫している。難しい映画なのかな?

この映画の日本公開版は、レーティングを下げるために、若干短縮したバージョンだと聞きました。ならば残虐描写が少し減るのかと思い鑑賞することにしました。自分は完全版じゃなくてもいいよって、珍しいパターンの観客です。

観てみたらけっこう面白かった。予告編の感じから「人間になりたかったロボット」の話なのかと誤解してしまったけれど、そんなの最初の方だけ。物語のテーマはそこに留まらず、魂とはなんぞや、肉体とはなんぞやと哲学的な方向へ向かっていく。センチメンタルな要素はほとんどない。硬派なSF作品だ。

ストーリーはテンポよく、ふんだんのアイディアでどんどん進む。近年のSF作品にある、高度なA.I.には人権が生まれるのではとか、魂の外部化なんかちょっと手あかがついてるけど、それらのアイディアを整理してひとまとめに描いている。高度なA.I.や魂のデータ化は、恐らく今の技術ですでに可能なのかも知れない。でもここには倫理が絡んでくる。可能なら何をしてもいいのかという問題。魂は神の領域なのではという宗教の冒涜にも繋がりそう。

輪廻転生を信じる宗教観では、肉体には老いや病でいつかは滅ぶが、魂は永遠として考えられる。この肉体は現世を生きるための借り物だから、たいせつに扱わなければいけない。自殺や自分を傷つけることはよろしくない。己を大切にして初めて他を尊重できるという考え方は、自分も嫌いではない。ただ昨今の脳科学の流行で、魂の概念も脳がつくりだすまやかしのようにも思えてくる。複雑な人間の脳が、魂のようなものを感じさせるのか? 魂が外部化できても所詮はコピー。オリジナルはやっぱり普通に死んで、消えていくのでは?

とまあ、哲学の新たなステージに上ってしまうわけだけど、そんなめんどくさいこと考えさせるこの映画は、やっぱり青臭くて理屈っぽい。この映画はストーリーはとても面白いのだけれど、なんかノレない。なぜかというと、主人公が不在だから。メインキャラクターがマッドサイエンティストや人殺しのギャングでは、観客はその人たちを主人公として好きになれない。普通の感覚のちょっと先を行っていて、ロボットのチャッピーが主役なんだろうけど、やっぱりロボットに感情移入はしずらい。もう少し登場人物を観客が好きになれそうなエピソードが、冒頭に入れられなかったのだろうか? ブロムカンプ監督は、ストーリー作りには興味があれど、人間には興味がない人なんだろうな。

作中、サイエンティストは、チャッピーに人間らしさを育むために、絵を描かせたり本を与えたり、文化的なものに触れさせる。文化的なものを軽視する昨今の考え方への警鐘だろう。

ギャングの女がチャッピーに母性本能をくすぐられたのか母親がわりになる。そのママがなまった英語を喋っているのに、なぜかチャッピーはなまってない。インプットしたものをアウトするとき、修正されちゃうのかな? そんなところにツッコミをいれて喜んでいるんだから、自分もイジワルだ。

楽しむ要素が多いエンターテイメント作品なのに、観ているうちに眉間にシワがよってくる。知的な映画ではないのに頭空っぽにできないという映画でした。

関連記事

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でリアル・タイムトラベル

なんだか今年は80年代〜90年代の人気映画のリブート作やリメイク作が目白押し。今が2015年

記事を読む

少子化だっていいじゃない!?『40歳の童貞男』

2005年のこの映画『40歳の童貞男』。ふわーっと遠くを見つめるスティーヴ・カレルのポスター

記事を読む

『おやすみなさいダース・ヴェイダー』SWファンもすっかりパパさ

ジェフリー・ブラウン著『おやすみなさいダース・ヴェイダー』。 スターウォーズの暗黒卿ダース

記事を読む

『海街diary』男性向け女性映画?

日本映画で人気の若い女優さんを4人も主役に揃えた作品。全然似てないキャスティングの4人姉妹の話を

記事を読む

サブカルの歴史的アイコン『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』

1995年のテレビシリーズから始まり、 2007年から新スタートした『新劇場版』と 未だ

記事を読む

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』ある意味これもゾンビ映画

(C)2016 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.[/capt

記事を読む

『コウノドリ』で子どもへの目が優しくなれば…… その1

自分はすっかりテレビドラマを観ることがなくなってしまった。というか結婚して子どもができてから、ろ

記事を読む

『とと姉ちゃん』心豊かな暮らしを

ja.wikipedia.org[/caption] NHK朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん

記事を読む

『父と暮らせば』生きている限り、幸せをめざさなければならない

今日、2014年8月6日は69回目の原爆の日。 毎年、この頃くらいは戦争と平和について

記事を読む

『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』夢を現実にした最低で最高の男

©︎東北新社 Lisenced by東北新社[/caption] 芸能界は怖いところだよ。よ

記事を読む

『マグノリアの花たち』芝居カボチャとかしましく

年末テレビの健康番組で、糖尿病の特集をしていた。糖尿病といえば、糖

『銀河鉄道の夜』デザインセンスは笑いのセンス

自分の子どもたちには、ある程度児童文学の常識的な知識は持ってい

『今日から俺は‼︎』子どもっぽい正統派

https://www.ntv.co.jp/kyoukaraoreh

『RAW 少女のめざめ』それは有害か無害か? 抑圧の行方

http://raw-movie.jp/[/caption]

『犬ヶ島』オシャレという煙に巻かれて

http://www.foxmovies-jp.com/inugas

→もっと見る

PAGE TOP ↑