『カメレオンマン』嫌われる勇気とは?
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最終更新日:2019/06/12
映画:カ行
ウッディ・アレンの『カメレオンマン』。人に好かれたいがために、相手に合わせて自分を変化させてしまうという男のニセドキュメンタリー(モキュメンタリー)映画。そのプロットを聞いただけで「観たい!」と興味をそそられる。ただこの映画、DVD化はされたものの、レンタル店にはほとんど置いていなかった。1983年の作品だが、2016年の日本ではやっと実感が湧くブラックジョークの映画だ。こういった風刺コメディは自分は大好物。
好かれたいがために、相手に合わせて自分を変えていくというのは、社会で生きていくためには最低限必要な処世術。でも行き過ぎるとオール・イエスマンになってしまう。かつて日本人は海外で「なんでもイエスという人種」と揶揄された時期もある。支配欲の強い人からは自分に都合のいいだけの人は、いっけん好かれるかも知れない。だが道理がわかっている人からは、当然信用されなくなってしまう。まあ長く続く不景気で、職を失いたくないばかりか、ただただ出世したいためか、上司や社長の顔色ばかりを伺って、イエスマンの腰巾着になってしまうなんて、よくある話。
この映画の主人公レナード・ゼリグはもっと行き過ぎている。自分の思想が、相手によって真逆に変わるくらいならまだしも、容姿まで変幻自在に相手と同化する。黒人と話せば黒人に、中国人と話せば東洋人に、太っちょと話せば太ってくる。相手が医師なら自分も完全に医師になりきる。話す言葉も相手の母国語がペラペラに喋れるようになっちゃう。いろんな姿に変化するゼリグを演じるウッディ・アレンに終止笑えてしまう。画面はものすごくバカバカしいのに、このクソまじめな、まるでカメレオンマンが実在したみたいなリアリティある神妙な演出。もうイジワルの極み!
体の様々な健康に影響を与えている腸内細菌『腸内フローラ』。種類が三種類で『善玉菌』と『悪玉菌』、『日和見(ひよりみ)菌』とある。善玉菌を多く持てば健康になれるのはなんとなくわかる。悪玉菌はその逆だってことも。で、日和見菌って何よっていうと、善とも悪ともいえない、そのとき優勢な方に味方するという、なんともズルい菌らしい。要するに善玉菌を大事にすれば、日和見菌が後に続いて、健康になるのがはやくなるということらしい。もちろん逆も然り。日和見菌、とても人間的で笑えちゃう。ほとんどの世論なんて日和見菌みたいなもの。己の考えをひたかくしに、いちばん有利な方へついて、口裏合わせちゃう。
この映画の主人公ゼリグは立派な精神病患者。人に合わせるがあまり、自分の意見を持つ勇気がなくなってしまう。そして話す相手がいなくなると、空虚でなにもすることがなくボーっとしてしまう。なんとも切ない。人と生きるのはストレスだけど、人の中でなければ生きていけない。そもそも自分なんてない。もっとも個性を隠す方法は、集団に埋もれればいい。その究極が独裁政治下に雲隠れすること! 相手の理想に合わせて自分を作っていくからどんどん好かれて、ナチスの幹部にまでなりあがっちゃう。ヒットラーの横でのウッディ・アレンの小芝居に抱腹絶倒!!
ゼリグは自分の精神科医と恋をして、己の意見を言い始める。そのとたんに世の中から反感を買い始める。今でいうなら炎上。でもそれがいちばん人間的な生き方。昨今日本でも『アドラーの嫌われる勇気』みたいな本が流行るくらいだから、イエスマンになったはいいものの、生きづらくて仕方がない人が多いのだろう。本当に幸せな人生が送りたいなら、自分に嘘をつくような生き方はしない方が良い。当たり前すぎるくらい当たり前のこと。正直に生きていくのは難しい世の中になってるのかしら? だったらそりゃあ病気にもなる。でも居場所が悪いだけのことなら、そこから動けばいい。
正直に生きていれば、嫌われることもあるだろうけど、味方になる人も現れてくることもある。なにごとも折り合いをつけなける努力は必要。誰に好かれたいのか、どんな人が自分の人生に必要なのか、きちんと見定め行動する。それはやっぱり勇気のいることなのかも知れない。
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