『カメラを止めるな!』虚構と現実、貧しさと豊かさ
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最終更新日:2020/03/03
映画:カ行

春先に日テレ『金曜ロードSHOW!』枠で放送された『カメラを止めるな!』をやっと観た。ずいぶんハードディスクに寝かせてしまった。
『カメラを止めるな!』は上映中から自分の周りでも、おもしろいと話題になっていた。でも自分はホラーとかゾンビものとか結構苦手。残酷描写やビックリさせられるのがかなりイヤ。だからこの『カメ止め』放送も、なかなか触手が伸びない。みんながおもしろいと言うのだから、折り紙つきでさぞかしおもしろいとは思うのだけれど。
人から「ゾンビ映画が苦手な人でもおもしろいと思うよ」と言われたのが、重い腰をあげるきっかけになった。ちょっと待って、ゾンビ映画だけどゾンビ映画じゃないの? しかもテレビのゴールデンタイムに、ノーカットで放送できるってことは、あんまり残酷じゃないの? その謎を確かめるだけでも、映画を観る価値はありそうだ。
映画を観てみると、すでに観ている人たちのネタバレ厳禁の口の硬さに感心してしまった。よくもまあ内容に触れずに、この映画の魅力を語れるものだ。映画が好きで、映画づくりを志したことがある人ならば、この作品に流れてる映画愛にすぐに共感してしまう。
『カメラを止めるな!』はインディペンド映画。スター俳優も出て来なければ、派手なCGもない。普段みんなが見慣れている作品に比べれば、驚くほど制作費がかかっていない。
スター俳優がいなくても、こんなにおもしろい役者さんたちがいるなんて! この映画はアイデアもさることながら、役者の魅力で勝負が決まったようなもの。まさにキャスティングの勝利! メジャー映画では絶対に出会えないだろう、身の回りにいそうで絶対にいない個性的な登場人物たち。メジャー映画業界に、人の魅力を見抜ける偉い人が、いかに減ったかということか。
『カメラを止めるな!』のようなインディペンデント映画は、今までならばアート系の単館劇場で、人知れず通の映画ファンに評価されて、静かな熱量で話題になるものだった。監督も次回作にメジャー映画のオファーが来て、スターの出ている次回作から一般的に認められ始めるものだったろう。
時代も変わり、単館劇場も減ってしまった。映画を観るなら近所のシネコンというのが普通となった。だからハリウッド映画だろうが、日本のインディペンド映画だろうが、同じ映画館の同じ窓口から作品を選ぶことになる。そうなると予期せぬ客層が、たまたま時間が合ったからと軽い気持ちで、普段見たこともないジャンルの映画を観ることもある。
そして極めつけはSNSの進歩。どんなに宣伝費をかけて作品を盛り上げるよりも、不特定多数の見知らぬ誰かのネットでの評価の方が信憑性がある世の中になってしまった。ネット上で多くの人が褒めちぎる『カメラを止めるな!』は、時代が味方して、追い風が吹いてくれた。フェアな評価のされ方だろう。いままで、おもしろくても日の目を見ない作品のなんと多かったことか。
スターダムにのしあがることは普通には考えにくい、ブランド性のないインディペンド映画。ホントは観客には先入観などない。有名な誰かが出演してるからとか、有名な原作だからとかは関係ない。その映画がおもしろいかどうかが重要なのだ。
小さな規模のインディペンド映画が、日本アカデミー賞まで獲ってしまう。自分の感覚では、日本アカデミー賞は映画の祭典と言うよりは、映画に投資した企業の祭典というイメージ。この『カメラをとめるな!』のミラクルヒットに、大企業が群がっている姿を想像すると、それもまたゾンビのよう。
上田慎一郎監督は、映画好きオーラが満ち溢れている。日本ではなかなか個人の成功を喜ばない気質がある。まずは企業が潤うことが最優先。上田監督も『カメラを止めるな!』のスマッシュヒットでさぞかし稼げたのでは?と素人考えが先走るが、この収益は配給会社がほとんど持っていってしまう。製作現場にお金がいかなければ、業界が盛り上がるはずもない。
『金曜ロードSHOW!』で、テレビ放送されれば、その収益もあるのでは?となるが、テレビ放送はあくまで作品の宣伝と思った方がいいのかもしれない。自身の監督作品がたまに『金曜ロードSHOW!』で放送される身内がいるが、テレビで放送されたぐらいでは、一攫千金は難しい。上田慎一郎監督も、カメ止め御殿でも建てて、下品なくらい成金ぶりをみせてくれたなら、映画界のジャパニーズ・ドリームもみれて楽しくなる。
経済的には貧しいながら、アイデアは豊か。人間らしい生き方は、心が豊かであることにつきる。
『カメラを止めるな!』は、映画のメイキングを描きながら、そのメイキングもみせている。もうどこからが現実でどこまでがフィクションなのかわからない。完全にケムに巻いてる。
あの映画のあの場面、どうやって撮ったのだろう?と、自主制作映画でマネして同じように撮ってみようと思ってもなかなかその通りにならない。仮にコピーができたとしても、おもしろい場面にならなかったりする。映画は偶然が作用する。作り手の計算していなかったところで、おもしろい映像が撮れたりする。その偶然を味方にできるかどうかも、監督の器量だ。
しっかりとしたブレない演出意図は必須。でも偶然を受け入れられるいい加減さも必要。いや、根幹がしっかりしているからこそ、遊び心も受け入れられるのだろう。
すごい場面だと観客が思っていても、実のところは偶然生まれた、たわいのない撮影だったりするものだ。伝説なんて、周りが後付けで大騒ぎして出来上がったりもする。そんな偶然が呼べるかは、その撮影現場の雰囲気が作り出す。映画の神様が味方したと言うなら、その通りだろう。
上田慎一郎監督は、その映画の神様すら手玉にとっている。どこからが計算で、どこからが偶然かさっぱりわからない。
素直に映画の神様に身を委ねられる上田慎一郎監督は、映画フリークであっても頭デッカチの映画オタクではない。おもしろい映画というものは、俄然製作現場も盛り上がっている。
映画の神様に振り向いてもらった作品は、一目で魅力を放っている。そしてその神がかった力にあやかりたいからこそ、自分も映画を観続けているのだろう。
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