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『家族を想うとき』頑張り屋につけ込む罠

公開日: : 映画:カ行

 

引退宣言をすっかり撤回して、新作をつくり続けるケン・ローチ監督。市井の人々の生活から社会問題を描いていく作風は、観客にショックを与える。悲しいかな現実は、ケン・ローチが題材にしなければならない問題がまだまだ山積している。

ローチ監督の前作は、孤独な老人の貧困を描いた『私はダニエル・ブレイク』。どんなに老いていて無職だからといって、人の尊厳を認めなくなってしまったら、その社会は破綻していく。貧しきものたちの自助共助だけではどうにもならないところまで、社会の格差は及んでいる。

今回の『家族を想うとき』も、真面目に生きている家族が、頑張れば頑張るほど不幸になっていく姿を通して、社会のシステムを問う作品となっている。

イギリスが舞台のこの映画の主人公たちは、世界中どこにでもいそうな、父母と高校生の兄と小学中学年の娘とで構成された4人家族。職を失った父親は、慌ててフランチャイズの配送会社に登録してしまう。その配送業務を通してどんどんワーキングプアになっていく。家庭がじわじわ崩壊していく。本来仕事を持つということは、自分の人生を豊かにしていくためのもののはずだったのに。

フランチャイズや個人事業主とは聞こえがいいが、企業からの保証が一切ない状態で、企業の注文に盲目的に従わなければならない、労働者にとって不利しかない搾取システム。仕事に必要な備品も自腹で揃えなければならない。配達業に不可欠な車も、社用車ではなく自家用車。突然の休暇やら遅刻に対してのペナルティも大きい。そもそも個人事業者なら、休日も自分でコントロールできるものだ。何かがおかしい。働けば働くほど、拘束時間も増えてペナルティの賠償金も増えていく。頑張るほどドツボにハマっていく不条理な状態。真面目だったり責任感があればあるほど、心身を壊していく。日本でも同じような問題がニュースになっている。

家庭崩壊の始まりは、子どもたちから現れてくる。息子が万引きなどの非行に走る。娘は10歳くらいなのに夜尿症になったり精神的不安定になる。親からしてみれば、「こんな忙しいときに、なんで子どもたちは仕事の邪魔をするんだ!」と思ってしまう。でも原因はすべて親の選んだ仕事のせい。

両親は、肉体的に過酷な仕事と、経済的な将来の不安で精神的にもやられてる。疲弊しきって荒んだ両親の姿を見て感じて、子どもたちが最初にSOSを発信している。「こんな生活は嫌だよ!」って。

ものごとがうまくいかない時は、すべてがうまくいかない。でも案外、原因となるものはひとつだけだったりする。根本的な問題点を取り除くことで、魔法がかかったかのようにものごとの流れが改善したりするものだ。

理屈はそうであったとしても、沼にハマった当事者は必死だから、そんな客観性は持てるはずもない。この悪質な搾取システムから逃れることが第一なんだけど、そこから逃れるためには、契約違反の莫大な違約金を払わなければならない。

我々は社会生活を営んでいる限りは、なんらかの搾取システムに属さなければならない。自給自足で成り立つはずもない。

ならばせめて自分の属する搾取システムがどのようなものなのか、自分自身で考察していかなければならない。働けば働くほど貧乏になっていくシステムの一部になってはいけない。歯車の部品になるにしても、全体の仕組みは把握していないと、最悪人生がめちゃくちゃになってしまう。

この映画の中では、これといった解決は用意していない。観客はやるせないままこの映画を終わらせなければならない。映画の目的は問題提起。映画が終わって取り残された我々観客は、どうかこの不幸な家族に幸せになってほしいと祈りに近い気持ちになる。

でもこの問題は他人事ではなく、いま現代の我々一人ひとりの問題でもある。「自分だけは関係がない」と言っている人のほうが危ないところにいたりするものだ。

真面目や一生懸命なだけでは生きていけない社会というのはどうしようもない。このコロナ禍で、社会のシステムを見直すきっかけが生まれればいいのだが。自分はほのかな期待を抱いているのだが、さて現実は如何に?

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