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『万引き家族』親がなければ子は育たず

公開日: : 映画:マ行

カンヌ国際映画祭でグランプリにあたるパルムドールを受賞した『万引き家族』。是枝裕和監督の作品は海外で評判がいい。

先日NHKの『クローズアップ現代+』で、是枝監督とイギリスのケン・ローチ監督との対談が放送された。ケン・ローチの作品のテーマは常に社会的弱者を描くこと。是枝監督の作風と同じ。是枝監督は、ケン・ローチ監督に大いに影響を受けたとのこと。脚本を役者に読ませずに、生のリアクションを撮っていく手法もそっくり。もちろん技術を猿真似しただけでは、面白いことにはなるはずもない。

ケン・ローチ監督も、前作『わたしはダニエル・ブレイク』で、パルムドールを受賞している。こちらも貧困を抱えた社会的弱者が、支え合って生きていく姿を描いた作品。

両作とも国際的に権威ある賞を獲得しているにも関わらず、自国では「国の恥を晒すな!」とバッシングされてしまう。日本政府も、本作の海外での評価をあからさまに歓迎しなかった。むしろ国内では蓋をしたい話題だったのだろう。そんな逃げ腰で凱旋どころではない理不尽な扱いを受けた映画だが、かえってそれが宣伝効果になり、国内でもヒットした。

しかし『万引き家族』とはいいタイトルだ。映画は、貧しさのあまり軽犯罪をしながら生活しているひとつの家族をつづっている。映画を観ていくと、どうやらこの家族、血は繋がっていないらしい。そんなことも直接的にセリフで言ってしまうのではなく、ミステリー作品の伏線のように、家族のヒントが散りばめられている。作品が終わる頃には、かりそめの家族のそれぞれの事情がわかってくる。貧困という重いテーマでありながら、エンターテイメント作品として楽しませようと工夫が凝らしてある。

是枝監督作品に登場する子どもたちは、いつも生き生きとしている。どこからか拾われてきたであろう子どもたちは、野良猫のように、そのときどきの事情によって名前が変わる。

長男役の城 桧吏くんの知的な目ヂカラがこの映画のキモ。底辺の生活のため、軽犯罪をしなければ生きていけない少年を、哀しい目で演じている。妹に万引きさせたくないがため、「足手まといだ」とわざと意地悪を言って、自ら悪役になって突き放す姿が痛々しい。長男は、どこからか拾ってきた国語の教科書を愛読書としている。

長男がレオ・レオニの『スイミー』の話をしようとしたら、「父ちゃん、英語わかんねぇや」とはぐらかされてしまう。読書好きな長男は、歪んだ世界でも倫理観を保とうとしている。

「読書は人生を豊かにする」とよく言われる。トラブルが起こりやすい人の特徴として、読書量が著しく少ないことも最近は言われている。ひとえに読書といってもいろいろある。読めば読むほど悪害しかない書物だって世の中にはあるから、どんな本を選ぶかはその人のセンス。きっと読書によって刺激される「想像力」が、人生のトラブル回避の力となっていくのかもしれない。脳のストレッチみたいなものなのではないだろうか?

ケン・ローチが印象深い場面としてあげていた、安藤サクラさん演じる母親が、警察に捕まって尋問されるシーン。刑事は、凡庸な一般論で母親を責める。彼女が責められるような人ではないことは、観客である我々は知っている。その彼女が正論で侮辱されている姿は、胸を締め付けられる。とても悔しい。

でもこれは昨今のネットやワイドショーで起こっている、正論を武器に、同調圧力で誰か個人を吊るし上げて攻撃する風潮と同じ。知らず知らずに我々も、弱者を責める加害者になっているかもしれない。まさに不寛容社会。

「親はなくても子は育つ」という言葉があるが、果たしてそうなのだろうか? そりゃあ時がたてば、子どもは成長して大人のなりにはなるだろう。でも人間らしく成長するには、保護者の愛情は絶対不可欠。

戦中戦後や、貧しい人が多かった時代に、親を早々に無くした孤児たちが、何年かしたら大きくなっていた姿を見て、子どものたくましさをたたえた言葉がそれだったのだろう。

しかしやはり人は人として生まれたからには、人間らしく生きなければならない。その「人間らしく生きていく術」は、ただなりばかりが成長すればいいというものではない。

現代社会で生きていくには、そこでのルールがある。映画を観ていると、普段我々が正しいと思って従っている社会常識も、この家族から見たらずれているようにも思えてしまう。果たして人が人らしく、尊厳を持って生きていくには、どうしたらいいのだろう?

映画『万引き家族』は、かりそめの家族が形成され、それがバラバラになっていくところで終わっていく。家族のメンバーのそれぞれの問題は、まだどれも解決していない。家族が解散して、各々別のステージに移っただけだ。そこではまた別の問題が起こるだろう。

観客である我々は、この家族を他人事としてはみれなくなる。明日は我が身。映画は都合のいい答えを用意してはくれない。やるせない思いをした観客は、問題意識を持たずにはいられなくなる。

エンターテイメントだけど社会派というのは、映画としてとてもカッコいい。

是枝監督は左派の監督だが、この映画を製作しているのは右派のフジテレビ。ハリウッドでもFOXやディズニー自体は会社は右派だけど、世界に向けての作品は、リベラルなテーマのものが多い。偏った思想の作品だと、世界標準では客が集まらないのを熟知している。日本のメディアも、どこまでそれを意識しているかわからないが、フジテレビが是枝監督作品をずっと作っているのは興味深い。

バランスを考えて作品を作る。商魂的でもあるが、これはこれで嫌いじゃない製作スタイルだと思う。

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