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『幸せへのキセキ』過去と対峙し未来へ生きる

公開日: : 映画:サ行, 映画館, 音楽

外国映画の日本での宣伝のされ方の間違ったニュアンスで、見逃してしまった名作はたくさんある。この映画『幸せへのキセキ』も危うく見逃しかけた作品だ。

『幸せへのキセキ』。なんともインパクトの薄いタイトル。日本版のポスターも、なんだかオシャレ風お涙頂戴感動作みたい。こりゃあ自分とはまったく関係のない映画だと、チラシやポスターを見てもちっとも印象に残っていなかった。

映画公開当時、ショッピングモールで買い物してレジで並んでいると、ふと設置してあるモニターからこの映画の予告編が流れていた。なんだろう? 出てくる映像や役者さんの面構えが、どれもこれも好みのタイプ。それは好きな役者が出演しているという意味とはちと違う。ファッションはもとより、出演者みんなの表情が好きなのだ。どの役者さんも好きな顔。

これは何かあると、画面を凝視していると、監督名が小さくクレジットされる。「キャメロン・クロウ」。……なるほど! 『ザ・エージェント』や『あの頃ペニー・レインと』の大ファンだった自分に合点がいった。こりゃ観なくてはと、劇場に駆け込んだ。実際に観た本作は、宣伝からくるウエットな印象はなく、センスよくドライな演出の映画だった。

音楽ライターの経験もあるキャメロン・クロウ監督。本作でも選曲のセンスがバツグンに冴えている。キャメロン作品にはかかせなかったナンシー・ウィルソンとも、私生活で破局してしまったせいか、今回はシガー・ロスのヨンシーが劇伴を担当。自分はシガー・ロスの曲を耳にしただけで、本作の場面が浮かんでくるくらいパブロフの犬状態。ラジオでシガー・ロスを聴いたのをきっかけに、久しぶりにまたこの映画を観たくなってしまった。

家でこの映画を観ていると、ウチの小さな子どもたちがワサワサ集まってきた。そして一緒になって最後まで夢中になって観ていた。確かに同年代の子どもも出てくるし、動物も出てくる。この映画がファミリー向けのウェルメイドな作品だとあらためて気づかされた。

本作の原題は『We Bought a Zoo』。『私たち、動物園買いました』とでもいったところ。原作はライターのベンジャミン・ミーの実体験を元にしている。タイトル通り、主人公が動物園のオーナーになるお話。

半年前に妻を亡くしたシングル・ファザーのベンジャミン・ミー。悲しみを紛らわせるため、以前よりも仕事量を増やし、心を閉ざす。生前妻と一緒に行った場所には、もう立ち入るまい、もう女性とは話もしたくないと制限は増えるばかり。逃げるように引っ越した先が、動物園付きの住居。小さな娘が、動物たちと触れ合って喜んでいる姿を見たベンジャミン、動物園のオーナーというムチャな選択を衝動的にしてしまう。

ベンジャミンはわざと忙しくして、妻を失った悲しみを忘れようとする。身近な人を亡くしたとき、ひとりぼっちになるのも大切だ。また逆に、仕事など関係のない場所でいつも通りに忙しくしたりするなどもある。悲しみを乗り越える方法はさまざま。ベンジャミンは仕事を忙しくするのをエスカレートさせてしまう。そうするといろいろ問題が起きてくる。辛い現実に蓋をしてしまったことへの危険信号。小さな娘はいいけど、思春期真っ盛りの息子とは溝が深まるばかり。この息子が放つSOSは、ベンジャミン自身のものとまったく同じ。

過去に身近な大切な人を失った傷は、本人が思うより深かったりする。あのときああしていれば良かった、こうしてあげていれば良かったと、過ぎ去った過去に対して後悔の念ばかりがつのってしまう。でも実際にはいろいろな要素があったはず。失敗もあったろうが、良かったこともある。とかく後悔の念にとらわれて、良き思い出すら閉じ込めてしまいがち。悔いの記憶と向き合うことは辛いことだが、それと対峙することでみえてくるものがある。それで涙するのも第一歩なのかもしれない。そうして後悔の過去を清算するのも、実際の心の病の治療法としてあるらしい。仏教の「成仏する」という表現が近そう。

映画のクライマックスで、動物園が再オープンする日が7月7日。まさに今日。親近感を感じてしまう。

アメリカ作品では、911のテロ以降、身内を失った人が、その喪失感から立ち直っていくような作品が多くなったような気がする。登場人物たちがさまざまな方法で、辛い現実と向き合い、立ち直って、明日へ向かって再スタートする姿には勇気をもらえる。あたかも作り手も観客も励ましあっているよう。

主人公のベンジャミンは、亡くなった妻の記憶と対峙して、新しい恋の予感を感じさせる。それは妻を忘れようと逃げることではなく、それらをすべて受け入れて次のステップへ、自分自身の人生を先に進め出しただけのこと。生きている限り人生は続いて行く。あたりまえだけどあたりまえじゃない。

キャメロン・クロウの演出は、登場人物に愛情込めた優しさがある。彼が書いた脚本には、登場人物の口癖すら意味がある。言葉遊びのセンスが楽しい。そんな登場人物たちのふとした口癖が伏線となり、最後にスッとまとまるところにカタルシスを感じる。

「Why not⁉︎」

映画は終わりを迎えるが、登場人物たちの未来はまだまだ続いてく。フィクションの人物の未来も感じるのだから、現実の自分たちもしっかり人生を歩まねば!

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