*

『シン・ゴジラ』まだ日本(映画)も捨てたもんじゃない!

公開日: : 最終更新日:2021/01/01 アニメ, 映画:サ行

映画公開前、ほとんどの人がこの映画『シン・ゴジラ』に興味がわかなかったはず。かく言う自分もこの作品は観るつもりもなかった。でも公開が始まってすぐ、ネットではこの映画を褒め称える声でいっぱいになった!

しかも絶賛しているのはクリエイターや評論家たち。いわゆるプロやツウがみんなこぞって評価してる。公開日はガラガラだった劇場が、週明けには満員御礼になるなんてとこもあったらしい。これはちょっとした社会現象。そうとなったら自分の目で確かめなくちゃと劇場へ駆け込んだ。

なんともこれは観たこともない映画だ! でも、いまもっとも観たかった映画‼︎ 怪獣映画を観に行ったはずなのに、印象として残っているのは、登場人物の顔ばかり。そう、これは働く大人がカッコイイ映画なのです。

政治家や閣僚、各部門の専門家がたくさんでてきます。みんな「こんな人いるいる!」のオンパレード。リアリティがありすぎて、終始ニヤニヤしてしまった。ここで登場するのは、その道のトップ、エリート中のエリート。だから変わった人ばかり。その人たちの独特の特徴を誇張しているのだから意地悪だけど、基本的にあらゆる職業人に対してのリスペクトを感じる。あの政治家は誰をモデルにしてるのかと想像するのも楽しい。無個性と言われがちの日本人の、なんともまあキャラクターの豊かなこと。

かつて漫画家の松本零士さんやスティーブン・スピルバーグ監督なんかが言っていたと思うけど、SFやファンタジーでやってはいけない表現は、政治家がずっと会議をしている場面を観せること。作品がつまらなくなるから。その普通に考えればタブーになる描写を延々観せられる。それが面白い!

自分達は311の大地震を経験している。いつ首都直下型の大地震が起きても不思議でない状況下にある。ニュースではキナ臭い情報が毎日のよう流れ、日本もいつ世界のどこかの戦争に巻き込まれかねない。SFやファンタジーは、世に警鐘を鳴らしたり、風刺や批判をするジャンル。ゴジラというメタファーを利用して、最悪の事態を完全シミュレートしている。

最近の日本では、ニュースやメディア、ネットでも、カッコ悪い大人しか見かけなくなってしまった。大丈夫か日本? この国の未来に多くの人が憂いはじめている。その最中にこのカウンターパンチ! 日々の仕事を一生懸命することがここまでカッコイイとは‼︎ 仕事に疲れた日本人に、いま必要なカンフル剤的映画。本作に登場する人物の仕事の末端で働くであろう人々は、自分の知り合いや身内かもしれない。もしかしたら自分もこの群像劇のひとりなのかも知れないということ。

いま、現実の日本もかなりキツイ状況にきている。日本映画も然り。日本のあらゆる産業も然り。

日本でゴジラの新作を制作すると聞いたとき、イヤな印象しかなかった。ハリウッド版の成功にあやかろうとしているし、うつ病だった庵野秀明さんを無理矢理担ぎあげているようにも感じた。このネームバリューがあればと、企業の商魂ばかりが伝わる。きっと防衛省も全面協力して、宣伝に利用する。まあ結果としてはそうなのだろうけど、ここまでカッコイイ映画に仕上がったのなら許せちゃう。

庵野秀明総監督の脚本は、普通の映画の何倍もあるであろう情報量。でもそれらをいちいち細かく理解する必要はない。作り手も分からせるつもりも毛頭ない。パッパといさぎよく編集でかっ飛ばしちゃう。重要なのは雰囲気。

有事が発生したとき、国のトップはどう動くのか? いつ未曾有の災厄が起こりかねない今の日本だからこそ、ゴジラは怖い。でもやっぱり怪獣映画なので、邪悪なゴジラのデザインにきゃあきゃあ言いながら楽しめるのがなにより救い。バカバカしい笑える要素があるからこそ、エンターテイメントは成立する。

最近の日本映画はすっかりマンガ原作や、ティーン向けの恋愛モノばかりになってしまって、観るものがなくてさみしいな〜と諦めかけている矢先の骨太映画でした。元気がでる映画。これで日本映画や日本が景気付けばいいけど。まあ欲を言えば、完全オリジナルの企画でこれくらいの作品が観たいものですが……。

映画の終盤では、なんだか泣けてきた。ドライな演出だからこそ、迫るものがある。

最後に映画のセリフを拝借しましょう。
日本も、日本映画も、まだまだ捨てたもんじゃありませんね!

 

関連記事

no image

『猿の惑星: 創世記』淘汰されるべきは人間

  『猿の惑星:創世記』。 もうじき日本でも本作の続編にあたる 『猿の惑星:新世

記事を読む

『スタンド・バイ・ミー』 現実逃避できない恐怖映画

日本テレビの『金曜ロードショー』のリクエスト放映が楽しい。選ばれる作品は80〜90年代の大ヒ

記事を読む

『マッドマックス フュリオサ』 深入りしない関係

自分は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が大好きだ。『マッドマックス フュリオサ』は、そ

記事を読む

no image

『スター・トレック BEYOND』すっかりポップになったリブートシリーズ

オリジナルの『スター・トレック』映画版をやっていた頃、自分はまだ小学生。「なんだか単純そうな話なのに

記事を読む

no image

日本企業がハリウッドに参入!?『怪盗グルーのミニオン危機一発』

  『怪盗グルー』シリーズは子ども向けでありながら大人も充分に楽しめるアニメ映画。ア

記事を読む

no image

『ピーターパン』子どもばかりの世界。これって今の日本?

  1953年に制作されたディズニーの アニメ映画『ピーターパン』。 世代を

記事を読む

『エターナルズ』 モヤモヤする啓蒙超大作娯楽映画

『アベンジャーズ エンドゲーム』で、一度物語に区切りをつけたディズニー・マーベルの連作シリー

記事を読む

『マイマイ新子と千年の魔法』 真のインテリジェンスとは?

近年のお気に入り映画に『この世界の片隅に』はどうしも外せない。自分は最近の日本の作品はかなり

記事を読む

『ベイマックス』 涙なんて明るく吹き飛ばせ!!

お正月に観るにふさわしい 明るく楽しい映画『ベイマックス』。 日本での宣伝のされかた

記事を読む

『ゴジラ-1.0』 人生はモヤりと共に

ゴジラシリーズの最新作『ゴジラ-1.0』が公開されるとともに、自分のSNSのTLは絶賛の嵐と

記事を読む

『ウェンズデー』  モノトーンの10代

気になっていたNetflixのドラマシリーズ『ウェンズデー』を

『坂の上の雲』 明治時代から昭和を読み解く

NHKドラマ『坂の上の雲』の再放送が始まった。海外のドラマだと

『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!

『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自

『ボーはおそれている』 被害者意識の加害者

なんじゃこりゃ、と鑑賞後になるトンデモ映画。前作『ミッドサマー

『夜明けのすべて』 嫌な奴の理由

三宅唱監督の『夜明けのすべて』が、自分のSNSのTLでよく話題

→もっと見る

PAGE TOP ↑