『スター・トレック BEYOND』すっかりポップになったリブートシリーズ
オリジナルの『スター・トレック』映画版をやっていた頃、自分はまだ小学生。「なんだか単純そうな話なのに、難しそうにやっているな〜」と、淀川長治さんが解説しているテレ朝の『日曜洋画劇場』の放送を、眠い目をこすりながら観ていたものです。
2009年から始まったこのリブートシリーズ。パラレルに時代が遡り、カーク船長もスポックもすっかり若返った。J.J.エイブラムスが監督した新シリーズは、初めて『スター・トレック』を観る人にも敷居が低く、従来のファン・トレッキーも納得ができるような、オリジナルシリーズへの配慮も行き届いていた。分かりやすいけど、硬派な匂いも残している斬新な続編。まあ今となっては、J.J.が演出するなら、そうなるのは至極当然なのだろうけど。
まさかだったのは、その後J.J.が『スターウォーズ』の新シリーズの監督にもなったこと。
『スター・トレック』と『スターウォーズ』は、公開当時から比べられ、「あなたはどっち派?」と、ファンも対立していた。そんな類似したビッグシリーズの再起動作を、両方監督してしまうJ.J.。ファンのなかでの論争も、製作者側から「くっだらねー」って一蹴された感じ。
J.J.は、新しい解釈で人気シリーズにフックをかけるのが得意。リブートの方向性を上手く築いている。土台ができれば、後続していくのはやりやすいもの。このシリーズ最新作『スター・トレック BEYOND』は、J.J.こそは演出していないが、ポップなノリはさらにパワーアップして継承している。今回は、もうオリジナルシリーズの硬派な感じは、すっかり薄らいでしまった。これは好みが分かれそう。
気になったのは、70〜80年代の日本のSFアニメのオマージュが多かったこと。古い宇宙船が大地を割って浮上したり、スペースコロニー内でのバトルがあったり、歌が武器になったりと、どこかで観たようなイマジネーションの連続。パブリック・エナミーなんて、久しぶりに聴いたぞ! これはSFと言うよりは、サブカル・ジェットコースタームービーといったところ。最近、宇宙空間でナツメロかけるのが流行りみたいね。
今回はとくにSF作品というより、エンターテイメント色が強かった。サブカル好きなオタク監督が、自分の影響受けたものを詰め込んだ感がある。『スター・トレック』であって『スター・トレック』でないような。ただの映画好き(というか映画オタク)が映画を作ると、世界観が偏ってつまらなくなりがちなもの。果たしてこのシリーズはどうなっていくことやら。
初代スポックを演じたレナード・ニモイが亡くなった。新シリーズでもカメオ出演していた。このシリーズのスポックは、未来の自分の死を知ることになる。これはかなりSF的。
そういえばこのシリーズが始まるとき、J.J.は「三部作になるだろう」とか言っていたような? これだと今後、いっくらでも続きが作れそうだなぁ。この『BEYOND』も評判が良ければ続編が作られるだろうし、人気がなければ、このままフェイドアウトしてしまうのかしら? でもやっぱり『スター・トレック』は、延々続いていくのが、いちばん『スター・トレック』らしいのかも。
殺伐とした世の中だからこそ、せめて映画くらいは能天気で軽いタッチのものが観たくなってしまう。『スター・トレック』も時代に合わせて変化したのだろう。
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