*

『ポンヌフの恋人』ボウイを愛した監督・カラックス

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 映画:ハ行, 音楽

 

デヴィッド・ボウイの訃報はまったく信じられなかった。1月8日のボウイの誕生日に、新作『★(ブラックスター)』が発表されたばかりだし、来年には日本でも回顧展開催が予定されている。大御所健在とばかりの印象だった。ニューアルバムからのMV『Lazarus』のテーマが「死」だったので、「ボウイの死」というニュースは、何かの演出だと思ってしまった。あのパフォーマンスは、自身の死を知ってのものだ。鬼気迫るものがあって当然。本当に脱帽です。心よりご冥福をお祈りします。

先日閉館したシネマライズには、思い出深い作品がたくさんある。『ポンヌフの恋人』も、真っ先にあがる映画のひとつ。監督のレオス・カラックスというと、自分は直結でデヴィッド・ボウイの存在を思い出す。『ポンヌフの恋人』の前作にあたる『汚れた血』では、静かな場面で突如ボウイの『Modern Love』がかかって、主人公が突然走り出すというカッコイイ演出をしている。この『ポンヌフの恋人』は、さらに選曲に磨きがかかる。予告編では、本編使用曲のボウイの『Time will crawl』が、ガンガンにフィーチャーされている。あたかも主題歌のようだけど、この映画は他にもジャンルを超えた音楽が嵐のように使われている! まさにカオス‼︎ ここではロックもクラシックも関係ない。ボウイもシュトラウスも同じ立ち位置。そう! カッコよければいいのだ‼︎ この光と音楽の洪水の映画で、自分はカラックスに教えられた。「◯◯だから好き」というカテゴライズ決めは、自分から殻に閉じこもるような思い込み。それは、世界を小さくしてしまうことなんだと……。

『ポンヌフの恋人』は公開当時、「呪われた映画」と呼ばれていた。膨れあがった製作費が集められず、完成が危ぶまれていた。出資者を求め、プレゼンに奔走せざるを得なかった。でも幸いにも、中盤の見せ場であるフランス革命200年祭の花火の場面は、すでに撮影済みだったらしい。あの場面は映画史に残るものとなった。あの場面を映画館で観れてよかった。満員のシネマライズだった。あの頃、シネマライズには観客の熱気があった。

『ポンヌフの恋人』の頃、ボウイは『ティン・マシーン』なるバンド活動をしていた。今後はこれでやって行くと宣言していた。でも『ティン・マシーン』は不評で、すぐ活動が終わってしまった。自分はそれほど嫌いではなかったけど、やっぱりカラックスの作品には合わなそうだな〜とは感じていたものです。

ボウイは、80年代は映画に関わる仕事が多かった。楽曲の映画への提供はもちろん、自身の映画出演作も多かった。日本で馴染み深いのは、大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』。小学生だった自分は、教授こと坂本龍一さんめあてでこの作品を観て、すっかりボウイのカッコよさに魅了されてしまった。思えばボウイも教授も左利き。左利きは天才肌が多いと、自分は勝手に思い込んでいる。ふたりとも同じ時期にガンと闘っていたのですね。

ショウビジネスとはいえ、芸術的な表現者や、アート作品を扱う場所を、ここのところ立て続けに失ってしまった。世の中が加速度あげて変化しているのがわかる。果たしてこの先に何があるのか、先はまったくみえない。とにかく、後ろを振り返っているヒマはなさそうだ。

 

 

関連記事

『ホームレス ニューヨークと寝た男』華やかさのまやかし

ドキュメンタリー映画『ホームレス ニューヨークと寝た男』。映画公開時もとても気になってい

記事を読む

『ピーターラビット』男の野心とその罠

かねてよりうちの子どもたちがずっと観たがっていた実写版映画『ピーターラビット』をやっと観た。

記事を読む

『否定と肯定』感情を煽るものはヤバい

製作にイギリスのBBCもクレジットされている英米合作映画『否定と肯定』。原題は『Denial

記事を読む

no image

『アバター』観客に甘い作品は、のびしろをくれない

ジェイムズ・キャメロン監督の世界的大ヒット作『アバター』。あんなにヒットしたのに、もう誰もそのタイト

記事を読む

no image

『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』妄想を現実にする夢

  映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』は、女性向け官能映画として話題になった

記事を読む

no image

『her』ネットに繋がっている時間、私の人生は停まっている

スパイク・ジョーンズ監督作品『her/世界でひとつの彼女』は、本格的なSF作品としてとても興味深い。

記事を読む

『MINAMATA ミナマタ』 柔らかな正義

アメリカとイギリスの合作映画『MINAMATA』が日本で公開された。日本の政治が絡む社会問題

記事を読む

『復活の日』 日本が世界をみていたころ

コロナ禍になってから、ウィルス災害を描いた作品が注目され始めた。小松左京さん原作の映画『復活

記事を読む

no image

『光とともに…』誰もが生きやすい世の中になるために

小学生の娘が、学校図書室から借りてきたマンガ『光とともに…』。サブタイトルに『〜自閉症児を抱えて〜』

記事を読む

no image

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でリアル・タイムトラベル

  なんだか今年は80年代〜90年代の人気映画のリブート作やリメイク作が目白押し。今

記事を読む

『君の名前で僕を呼んで』 知性はやさしさにあらわれる

SF超大作『DUNE』の公開も間近なティモシー・シャラメの出世

『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』 変遷するヒーロー像

コロナ禍の影響で、劇場公開の延期を何度も重ね、当初の公開日から

『アンという名の少女』 戦慄の赤毛のアン

NetflixとカナダCBCで制作されたドラマシリーズ『アンと

『MINAMATA ミナマタ』 柔らかな正義

アメリカとイギリスの合作映画『MINAMATA』が日本で公開さ

『ワンダーウーマン1984』 あの時代を知っている

ガル・ガドット主演、パティ・ジェンキンス監督のコンビでシリーズ

→もっと見る

PAGE TOP ↑