『猿の惑星:聖戦記』SF映画というより戦争映画のパッチワーク
地味に展開しているリブート版『猿の惑星』。『猿の惑星:聖戦記』はそのシリーズ完結編で、オリジナル第1作に繋がるという。
自分は社会風刺のある地味系SFが大好物なので、これは無視することはできない。このシリーズ、内容も地味だけど、日本での興行もなかなか地味。三部作構想は最初から言われていたが、途中で未完結のまま消滅してしまうのでは?と心配していた。この完結編も結構な制作費がかかってる。よくまぁこのスケールで最後まで辿り着けたと、いちファンとしては肩をなでおろす。
リブートシリーズ完結編『猿の惑星:聖戦記』は、SF映画というよりは、60〜80年代の戦争映画のパッチワーク映画だった。『猿の惑星』シリーズの特徴だった社会風刺色はすっかり薄まり、シンプルな戦争エンターテイメント映画になった。映画鑑賞後は『猿の惑星』1作目から観直すより、過去の有名戦争映画を観直したくなる。
『猿の惑星:聖戦記』は、わかりやすいプロットと豪華な作りで、エンターテイメントとしてはレベルが高い。観客に寄り添って作られている贅沢な映画。
でもなんでだろう? なんだか物足りない。
もともとSFは社会風刺のエンターテイメント。社会に対する警鐘を鳴らせて、シビアなテーマを扱っている。『猿の惑星』も人種問題や環境問題、ハイパーテクノロジーの顛末を予想した悲観的な未来への警告が描かれている。だからこそ見応えがあった。どんなに悲劇的な展開でも、人間が猿を演じているというバカバカしさで笑い飛ばすこともできる。実録ものとは違った救い。
最近の『キングコング』リブート版も、『地獄の黙示録』のオマージュ映画だった。今回の『猿の惑星:聖戦記』も同じ映画からの引用。なんだか猿の映画は『地獄の黙示録』と縁があるらしい。
今、世界中にキナ臭い雰囲気が漂っている。こんな時代に、戦争を扱ったSF映画で社会風刺をしないのはもったいない。過去の戦争映画に懐古趣味でのほほんと浸るのはちょっと時代錯誤。最悪の現実をシミュレーションするくらいの問題作もつくれたろうに。なんともガッツのない。
『猿の惑星』リブート第1作『創世記』は、風刺が効いたSF映画だった。今回の完結編は完成度こそは高いけど、鑑賞後すぐ忘れてしまいそうなブロックバスタームービー。まあそれはそれで面白かったけど。はぐらからされたように感じるのは、こっちが勝手に思い描いていたものと違っただけのこと。
オタクに走りすぎると、世の中が見えなくなる。映画のネタは、過去の映画の中よりも、今足元にある現実の中にこそ山ほどある。時代の流れが読めないと、名作もつくれない。オマージュもやり過ぎると、ただの同人作品。楽屋落ちじゃあちと寂しい。地味でも上質だった『猿の惑星』は、広げた大きな風呂敷を、やはり地味に静かに畳んでくれた。
さて、それでは久しぶりに『大脱走』やら『戦場にかける橋』でも観直そうかしら。おっとそれもはぐらかしの現実逃避か。
関連記事
-
-
『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』妄想を現実にする夢
映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』は、女性向け官能映画として話題になった
-
-
『スイス・アーミー・マン』笑うに笑えぬトンデモ・コメディ
インディペンデント作品は何が出てくるかわからないのが面白い。『スイス・アーミー・マン』は、無人島に一
-
-
『黒い雨』 エロスとタナトス、ガラパゴス
映画『黒い雨』。 夏休みになると読書感想文の候補作となる 井伏鱒二氏の原作を今村昌平監督
-
-
『ケナは韓国が嫌いで』 幸せの青い鳥はどこ?
日本と韓国は似ているところが多い。反目しているような印象は、歴史とか政治とか、それに便乗した
-
-
『3S政策』というパラノイア
『3S政策』という言葉をご存知でしょうか? これはネットなどから誕生した陰謀説で
-
-
『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』 映画鑑賞という祭り
アニメ版の『鬼滅の刃』がやっと最終段階に入ってきた。コロナ禍のステイホーム時期に、どうやって
-
-
『さよなら、人類』ショボくれたオジサンの試される映画
友人から勧められたスウェーデン映画『さよなら、人類』。そういえば以前、この映画のポスターを見
-
-
『斉木楠雄のΨ難』生きづらさと早口と
ネット広告でやたらと『斉木楠雄のΨ難』というアニメを推してくる。Netflix独占で新シーズ
-
-
原作への愛を感じる『ドラえもん のび太の恐竜2006』
今年は『ドラえもん』映画化の 35周年だそうです。 3歳になる息子のお気
-
-
『サウルの息子』みせないことでみえてくるもの
カンヌ映画祭やアカデミー賞など、世界の大きな映画祭で、賞をとりまくっていたハンガリー映画『サウルの息