『SLAM DUNK』クリエイターもケンカに強くないと
うちの子どもたちがバスケットボールを始めた。自分はバスケ未経験なので、すっかり親のスキルを超えてくれた。では有名な『スラムダンク』をみんなで観ましょうということになった。我が家のいちばん下の息子は小学一年生。まだマンガは読みづらいということで、アニメ版での鑑賞。
実は自分は『スラムダンク』を読んだことがなかった。うちの奥さんがリアルタイムで読んでいた。作中でバスケのルールがわかりやすく説明されていて、安心して観れる内容とのこと。
「安心して観れる」というのは、暴力やエロ描写で扇動してないということ。これ重要必須。最近では朝や夕方に放送しているアニメですら、倫理的に子どもに観せづらい作品が多くなっている。
とはいえ『スラムダンク』だってヤンキーマンガ。流血ものの暴力場面はある。原作連載は少年ジャンプ。そこは子どもでもみれる程度の暴力描写に留めている。
驚いたことに、アニメ版は未完結で途中で終わってしまう。なんでもテレビ放送当時にブームが終わって、視聴率が取れなくなり、打ち切りになったとか。有名な作品なので、まさかの顛末。のちに続編も作られなかった。
これでは原作を読まないわけにはいかなくなった。アニメ版を観ているときも、「原作ではニュアンスが違うんだろな。絵も違うんだろうな」と気になっていた。ある意味ストレスだった。ちょうどいいことに表紙や構成が新しくなった新装版が発売されていた。
近所にBL系マンガの専門店がある。(子どもが普通に通る場所にあるので、ちょっと困る)。その店でも大々的に『スラムダンク』の新装版が平積みされていた。BL専門店で少年マンガが売れるのかと訝ったが、イケメン男子ばかりの本作は、女性にも人気が高いらしい。作中に萌えやエロがないのもいいとのこと。『スラムダンク』は、男も女も惚れるような男たちばかりが登場する。
実際はダメ男の集団なのに、みな自信過剰でカッコつけて生きている。どうしてここまで自信があるのか呆れてしまう。敵チームの相手にも、試合中は憎くくとも、優れたところは認め合い敬意を払っている。その関係は清々しい。
主人公の桜木花道は、一目惚れした女の子に誘われてバスケを始める。いつしかバスケに夢中になって、選手として急成長していくおもしろさ。
当時流行だったヤンキーマンガの流れを汲んでいるけれど、何かに夢中になっていくことで、更生していく青年の姿が描かれている。
原作者の井上雄彦さんは、黒澤明監督の作品のファンでもあるらしい。カッコいい男たちが、勢ぞろいする姿の魅力をよく知っている。男らしい男の姿は、いつの時代も魅力的だ。
新装版の表紙に描かれた、新たな彼らの表情をみると、みな獣の目をしている。それでこそ、あの猛々しい行動が頷ける。作者の画力がアップして、本来の登場人物たちがやっと見えてきた。
スタメンみんなが仲が悪いのもいい。専門家一人のアドバイスよりも、集団の判断の方が正しい答えを導きやすいという。逆に、仲良しクラブでは、幼稚な判断しかできない集団になってしまうらしい。
物語は花道が高校入学して、バスケ部に入り、その年の全国大会へ行くまでの4ヶ月ぐらいの短期間で終わってしまう。青春時代はなんとも儚い。きらめきは一瞬だ。儚いからこそ永遠となる。作者はそれをよくわかっている。
本作は人気があったし、いくらでも連載延長や続編の注文がきていただろう。それを断って、構想通りに完結させたことが凄い。きっと作者の井上雄彦さんは、マンガの登場人物たちのようにケンカに強かったのだろう。
周りの意見を聞くことも大切だが、時として譲れないものは絶対に譲らない信念も必要だ。『スラムダンク』が今なお魅力を放っているのは、その潔さあってのこと。拝金主義で垂れ流しの作品が多い中、いま一度クリエイターが肝に銘じなければならない信念が、ここにはありそうだ。
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