*

『さよなら、人類』ショボくれたオジサンの試される映画

公開日: : 最終更新日:2020/03/03 映画:サ行, 音楽

友人から勧められたスウェーデン映画『さよなら、人類』。そういえば以前、この映画のポスターを見て、「これは観なくては!」と思ってそのままになっていた作品だ。ポスターではショボくれたオジサン二人が、暗い表情でうつむきながら歩いてる。疲れたオジサン好きからすると、ほっとけない。自分自身がまさにそれなので。

最近疲れているせいか、映画のレーダーが鈍くなった。売れ線の大々的な宣伝をした派手な映画ばかり観るようになってしまって、人生の機微に触れる作品からすっかりご無沙汰。普段あまり観ることのないスウェーデン映画だし、期待してしまう。

邦題の『さよなら、人類』と聞いてしまうと、自分のような中年世代はまっさきに日本のバンド『たま』を思い出す。妖怪のようなルックスで、哲学的な歌を演奏する彼らが好きだった。もちろんそのたまの曲から邦題はいただいているだろう。コメディとはいえ哲学的な匂いがしてしまう。

なんでも日本で先行上映された東京国際映画祭では、原題を直訳した『実存を省みる枝の上の鳩』というタイトルで上映されたらしい。サッパリ意味がわからない!

なんでもこの映画はロイ・アンダーソン監督の『リビング・トリロジー』の完結編とのこと。てことは、あと二作関連作があるってことなのね。

コメディというと、なんだかドアバタなおバカな作品を連想してしまうが、この『さよなら、人類』はちょっと趣が違う。なんだかとても芸術的。テーマも「死」や「孤独」を扱っている。登場人物たちは、みんな青白い顔にメイクされ、暗い表情を浮かべてる。ワンシーン・ワンカットで撮っていて、ものすごく凝った演出。意外なところでお金がかかっている。

ロイ・アンダーソン監督の意図は「動く絵画」だと思うのだけれど、自分は舞台劇を鑑賞しているように感じた。計算された据え置きフィックスの画面の中に、大勢の役者が揃うこともある。画面の中の誰が気になるかは、観客に委ねられる。笑いやおかしみのツボはひとつではない。観客はみな同じ画面を観ていても、その中の別の登場人物を追いかけていたら、人それぞれ作品の印象が変わってきそうだ。そこには愛憎や偽善も潜んでる。映画『さよなら、人類』は、できるだけ大きな画面で鑑賞することを想定してる。

そんな理屈を並べていると、とても難解な映画のように思えてしまうが、この映画はコメディ。むしろボケばかりでツッコミがない映画。観客が心の中でツッコミを入れたくなるような、放置状態の笑い。テーマが人の死だったり、シニカルな笑いなので、とてもセンスが試されるけど、そういった風刺は世の中に必要だ。たとえば葬式なんかで、みんながしんみりしていると、無性に笑えてくるような感覚に近い。

ポスターにでてるショボくれたオジサン二人の職業は、おもしろグッズのセールスマン。こんなの誰が買うんだろ? おもしろグッズなのにプレゼンが暗すぎるだろ? ネガティブな人が近くにいたらイヤだけど、遠くから眺めるとこんなに楽しいものはない。さあ、どこからツッコメばいいの!

しかしスウェーデンの映画って、みんなこんな感じなのか? それともたまたまこの映画だけが異質な匂いを放っているのか? もし前者なら、スウェーデンの人ってなんて大人なセンスなのだろう。感心してしまう。いや大人のセンスというより老成かな。

はたまた、こんな映画の企画がもし日本であがったとして、とてもメジャーシーンでは通るとは思えない。そもそもこんなタイプの映画の意図を理解できる出資者がいるとは思えない。

日本の映画プロデューサーで、まったく映画を観ない人のなんと多いことか。エンターテーメントを志すには、映画だけではなく、さまざまな芸術に造詣がないと難しい。まずは、わからないものを読み解こうとする力がないと何もできない。カッコ良さそうだとか、儲かりそうだとか、目立ちそうとかそんな理由で映画づくりにたずさわってしまうと、かえってカッコ悪い結果になってしまう。

『さよなら、人類』みたいなシニカルなコメディの企画が、世界標準で展開していくスウェーデンってすごいなと思う。

笑うという行為は、人間だけの特権。もちろん動物にも、人間の笑いに近い感情表現はあるが、人間の笑いの感情は多岐にわたる。泣きたくなるような暗いテーマでも、知的に芸術的に笑いにつなげる感覚は、ものすごいオシャレ。

そう、この『さよなら、人類』というコメディ映画は、知的センスがとってもオシャレなのだ。この人生観のセンス、見習わないと。

関連記事

『スワロウテイル』 90年代サブカル・カタログ映画

岩井俊二監督の『スワロウテイル』。この劇中の架空のバンド『YEN TOWN BAND』が再結

記事を読む

『ダンダダン』 古いサブカルネタで新感覚の萌えアニメ?

『ダンダダン』というタイトルのマンガがあると聞いて、昭和生まれの自分は、真っ先に演歌歌手の段

記事を読む

『犬ヶ島』オシャレという煙に巻かれて

ウェス・アンダーソン監督の作品は、必ず興味を惹くのだけれど、鑑賞後は必ず疲労と倦怠感がのしか

記事を読む

no image

自国の暗部もエンタメにする『ゼロ・ダーク・サーティ』

  アメリカのビン・ラディン暗殺の様子を スリリングに描いたリアリスティック作品。

記事を読む

『千と千尋の神隠し』子どもが主役だけど、実は大人向け

言わずもがなスタジオジブリの代表作。 フランスのカンヌ映画祭や アメリカのアカデミー賞も

記事を読む

『オッペンハイマー』 自己憐憫が世界を壊す

クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』を、日本公開が始まって1ヶ月以上経ってから

記事を読む

no image

『ビバリーヒルズ・コップ』映画が商品になるとき

  今年は娘が小学校にあがり、初めての運動会を迎えた。自分は以前少しだけ小中高の学校

記事を読む

『鑑定士と顔のない依頼人』 人生の忘れものは少ない方がいい

映画音楽家で有名なエンニオ・モリコーネが、先日引退表明した。御歳89歳。セルジオ・レオーネや

記事を読む

『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』 特別な存在にならないという生き方

立川シネマシティ[/caption] 世界中の映画ファンの多くが楽しみにしていた『スター・ウ

記事を読む

『tick, tick… BOOM! 』 焦ってする仕事の出来栄えは?

毎年2月になると、アメリカのアカデミー賞の話が気になる。エンターテイメント大国のアメリカでは

記事を読む

『ナミビアの砂漠』 生きづらさ観察記

日曜日の朝にフジテレビで放送している番組『ボクらの時代』に俳優

『サタンタンゴ』 観客もそそのかす商業芸術の実験

今年2025年のノーベル文化賞をクラスナホルカイ・ラースローが

『教皇選挙』 わけがわからなくなってわかるもの

映画『教皇選挙』が日本でもヒットしていると、この映画が公開時に

『たかが世界の終わり』 さらに新しい恐るべき子ども

グザヴィエ・ドラン監督の名前は、よくクリエーターの中で名前が出

『動くな、死ね、甦れ!』 過去の自分と旅をする

ずっと知り合いから勧められていたロシア映画『動くな、死ね、甦れ

→もっと見る

PAGE TOP ↑