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『スカーレット』慣例をくつがえす慣例

公開日: : 最終更新日:2020/03/01 ドラマ, 映画:サ行, 音楽

NHK朝の連続テレビ小説『スカーレット』がめちゃくちゃおもしろい!

我が家では、朝の支度をしながら、なんとなくNHKがかかっている。小学生の子どもたちに合わせてEテレをつけているが、子どもたちが学校へ行ってしまったら、総合のニュースにチャンネルが移動する。そのまま朝ドラへ突入する。

慣例となっているので、観たいから観ているというよりは、ただ時計がわりにテレビがかかっていると言った感じ。

そんな関心があまりない朝ドラでも、ホントにつまらなかったり、主人公の性格がどうしても好きになれなかったりして、耐えられなくなることもある。そういったときは、他局へ逃げる。でもその時間帯はワイドショーが多い。芸能人の不祥事とか、吊るし上げゴシップなんか見たくない。朝から心が荒んでしまう。そうなるとEテレに再び戻ってしまう。『おかあさんといっしょ』がホッとする。もう子どもはみんな学校に行ったのに……。

この『スカーレット』も、最初はなんとなくかかっていた。会話が楽しいなとひっかかっていた。たわいないストーリーなのに、気の利いたセリフがさりげなく聞こえてくる。

「今日の肉じゃが、肉入ってるで〜」と朝学校へ向かう妹たちへの、戸田恵梨香さん演じる主人公・喜美子のセリフがジワジワきた。その日は一日中思い出し笑い。このドラマ、地味だけど、なんだかすごい。

ワンシーンがとにかく長いのが特徴。大事な場面では、ワンシーンで3話分またいでくる。朝ドラは1話15分だから、ワンシーンに30分以上時間をとっている。登場人物たちが、出たり入ったりしながら、それぞれの意見を交わしまくる。

以前『あまちゃん』で、1話ワンシーンで話題になったことがあるが、『スカーレット』は、3話分ワンシーン。要するに、三日間同じ時間に同じ絵面で延々と場面が続いてる。演劇的な技法。

以前シナリオ作家養成所に通っていた頃、講師の話を思い出す。朝ドラは、家族を送り出したお母さんが、家事をしながら観ることを想定している。映像を観なくても、耳だけでも話が把握できるように工夫されている。

『スカーレット』の楽しい会話劇は、朝ドラの目指す定番だけど、テレビドラマの表現としては新しい。演劇的な演出をテレビドラマに用いて成功している。

長い場面では、じっくりと笑わせたり泣かせたりする。でもひとたびなにか大きな事件が起こると、急展開して視聴者を驚かす。見せ方の緩急がしっかりしてる。シナリオが丁寧に練り込まれている。

作者の水橋文美江さんの経歴には、ナゴムレコードの事務職というのがある。ナゴムレコードといえば、サブカル中年には若かりし日の思い出がたくさんある。ケラリーノ・サンドロヴィッチさん率いるインディーズレーベル。筋肉少女帯やたま、今年お騒がせだった電気グルーヴのメンバーも所属していた。なんでも水橋さんはケラさんの元カノだったとかなかったとか?

ケラさんといえば、劇作家としても有名。演劇的手法の『スカーレット』のルーツは、そこにあるのかも?

北村一輝さん演じる、喜美子のお父ちゃんと、桜庭ななみさん演じる妹の直子が興味深い。どちらも同じ特性がある。人とうまくやっていくのが苦手で、なんとなくいつも孤立してイライラしている。誰にもわかってもらえない苛立ち。今でこそ、それは発達障害の類でしょ?となる。その生きづらさを緩和させる方法もいくつかありそうだ。

日本は単一的な人材を求められる。出る杭は打たれるどころか、潰される。いかに他人と合わせるかが勝負。天才とナントカは紙一重。革新的な発明をする人は、人並みの行動が難しかったりもする。才能だって、場所が違えばただの障害にしかならない。

水橋さんも、ナゴムレコードやら、多くの才気あるクリエイターたちに触れたりしたのだろう。まさにご本人が生きづらさと戦っているのかもしれない。作中では、日本社会ではみ出してしまう人への敬意が感じられる。観客は、困ったキャラのお父ちゃんにすら、嫌いになるどころか好きになってしまう。

今回の『スカーレット』は、自分にとっては『あまちゃん』以来、ひさびさに毎朝楽しみな朝ドラになっている。朝の支度をしながら観ている朝ドラなのに、最近では放送時間に合わせて準備を済ませるようになってしまった。セリフを聞き逃したくないから、字幕放送にしての鑑賞。ならば録画して、あとでゆっくり観ればいいのだが、やっぱり早く次の話が観たい。

朝のルーティンがすっかり変えられてしまった。『あまちゃん』は、朝ドラにサブカルを持ち込んで、変化球で成功した作品だけど、『スカーレット』は、定番な朝ドラのスタイルを受け継ぎながらも、表現は新しい。実はかなり実験的な試みのドラマだ。

『あまちゃん』以降の朝ドラで、ムリにサブカルを取り入れて、シラけた作品も多かった。ウケた媒体をただ再利用しても、それは面白さとは関係ない。それに多くの人はそれほどサブカルに興味はない。ましてや朝ドラのメイン視聴者は、おじいちゃんやおばあちゃん。

しかしこの『スカーレット』というタイトルが意味が分からなかった。スカーレットといえば、ヨハンソンやオハラが浮かんでくる。まさか外人の名前を安易につけたんじゃないでしょうねと思い、調べてみる。

どうやらスカーレットとは緋色の意味らしい。喜美子のモデルとなった陶芸家の神山清子(こうやまきよこ)さんは、釉薬を使わない自然素材で緋色の表現を発明した人らしい。そうか、喜美子は夢に到達するんだ。なんて壮大なタイトルだろう。

ちなみに神山清子さんは、現在83歳らしい。はたしてこのドラマを楽しんでおられるだろうか。神山清子さんについては、以前にも高橋伴明監督の『火火』で映画化されていて、その時は田中裕子さんが演じている。

このドラマ『スカーレット』のような、ワンシーンワンシーンをじっくり観せる演出スタイルは、もしかしたら今後の朝ドラの演出法を変えてしまうかもしれない。いや、日本ドラマのスタイルすらも?

実は私自身、パッパと短いシーンで繋がれる作品はあまり好きではない。それらは、テンポがいいと評価されることが多い。でも、早い展開ばかりが求められている作品は、感情移入できなくてかえって退屈だ。製作者は、場面をコロコロ変えて、観客を飽きさせまいと工夫しているのに。まったく皮肉だ。こんな情報過多な時代だからこそ、じっくり作品と向かい合いたい。

ドラマや映画はシナリオが勝負だと聞く。どうやらそれは、奇想天外なストーリーが求められている訳ではなさそうだ。地に足をつけた地味な作品でも、しっかりその世界や人物が描かれていれば、多くの人が共感する。

ある意味「ドラマとはなんぞや」と基本に立ち返る、教科書みたいなドラマがこの『スカーレット』なのかもしれない。

さあ、『スカーレット』は折り返し地点にやってきた。今後の展開も楽しみだけど、毎回のなにげない、気の利いた笑える会話劇を楽しみたい。なんだか毎朝起きるのが楽しみになっている。ユーモアのセンスが高いドラマで、自身のユーモアも磨きたいものだ。いま、ちょっとした幸せを感じている。

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