『デッドプール』映画に飽きた映画好きのためのスパイス的映画
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最終更新日:2019/06/11
映画:タ行
映画『デッドプール』は、劇場公開時に見逃してからずっと観たかった映画。小さな子どもがいる我が家では、R指定のこの映画はなかなか観づらい。マーベルヒーローものだし、子どもが興味を持つ要素が多すぎる。そう、この映画は大人の年齢になっても、精神年齢はおこちゃまな、自分のようなサブカル人間がどストライク。
本来ヒーローものや怪獣もののような映画は、子どもが観れてなんぼ。ファミリー映画が少ない昨今、子どもがメインで家族も楽しめるようなジャンルであって欲しいのが本音だ。
『デッドプール』のような映画が受け入れられるバックグラウンドには、抑圧された現代社会で自分を殺して、無理矢理大人にならざるを得ない人たちが、いかに多いかが見受けられる。映画ぐらいはハッチャケておこちゃまになりたい。まさに現実逃避! いまどきのサブカルの位置づけは、そんなところか。
実は自分はこの『デッドプール』は、もっと一般的な映画なのかと思っていた。予想以上にサブカルネタが多い。楽屋オチは同人誌的ノリ。それでもカルトムービーにならずに、一般映画として大ヒットした。
デッドプールは超人的なパワーがありながら、正義の味方ではない。自身の復讐だけに行動し、下ネタばっかり言って悪ふざけばかりしてる。ときには卑怯な手口で、平然と人を殺したりする。
主演を務めるライアン・レイノルズは、この映画『デッドプール』の製作も兼任している。彼のデッドプールというキャラクターへの熱烈な愛情こそが、この映画化への結実だろう。『X-MEN』シリーズにデッドプールが初登場したときは、同じ役者にも関わらず、まったく別人のようなキャラクターだったらしい。ライアン・レイノルズは『グリーン・ランタン』でもヒーローもので失敗している。たび重なるヒーロー役の失敗に懲りることなく、「こうすればおもしろくなるのに!」と野望を募らせていたのだろう。
自分のルックスも善人というよりも悪役が向いているのをよく分かっている。スパイダーマンやアイアンマンに通づる赤いコスチュームは、デッドプールの場合はちとどす黒い。なんでも返り血を浴びたときに目立たないからとか。ムッチリしたスーツもカッコよさやセクシーさよりも、キモさ優先。よっ、ダークヒーロー!
昨今のスーパーヒーローブームで、我々観客は、幾度となくヒーロー誕生のエピソードを見せられ続けた。ヒーローが生まれるタルいストーリー展開には、もう辟易してる。この『デッドプール』は、ヒーロー誕生の第1話だけど、時系列をぶっ壊したストーリー構成でのっけから観客を惹きつける。
開幕は暴力的なアクションシーン。大暴れしてるデッドプールの様子から映画は始まる。「コイツは何者?」観客の興味をくすぐる。アクションシーンと並列しながら、デッドプール誕生秘話へと場面は同時進行。中盤までぜんぜんストーリーが進んでないのにも関わらず、まったく観客を飽きさせない。脚本トリックの妙。
この映画の間口は広い。プロットはいたってシンプル。サブカル臭プンプンのトガった雰囲気でも、ストーリーは王道中の王道。どんなにサブカルネタが氾濫して、元ネタがわからなくても、スルーできる工夫。マニアックになり過ぎてない。
スーパーヒーローものはもちろん好き。王道のメジャー映画も大好き。でもなんとなくパターン化されたそれらにちと飽きた。正義の戦いでも、平気で人が殺される矛盾も引っかかる。そんなときにこの映画『デッドプール』の登場だ。大義名分があったとしても残虐なものは残虐。毒はあるけど、観客をおいてけぼりにしない。ハメを外しているけど、きちんと計算されている。おもしろい映画は正確なリズムを持っている。
パート2の製作も決まり、日本人キャストも参戦するとか。変化球を投げてるけど、正攻法で勝負してる不思議な映画。この狂ったフリした計算高い、したたかな作品の後日談をどうやって構築するのか? 続編が作りやすそうで作りにくい。一歩間違えば凡作、うまくいってもカルトムービー。さて如何に!
でも近頃自分は、トンがった表現や残虐描写にすこし凹むようになってきた。むかしは大喜びではしゃいでいたのに。これは老いの始まりなのだろうか? 丸い人間になってきたからからか、はたまたつまらない人間になったからか、自分でもよくわからない。まあどーでもいいことだけど。
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