『トップガン マーヴェリック』 マッチョを超えていけ
映画『トップガン』は自分にとってはとても思い出深い映画。映画好きになるきっかけになった作品。10代の頃、バイトして初めて買ったレーザーディスクがこの映画だった。ギター部の友人が、この映画のテーマ曲をエレキで弾いていたのも懐かしい。
コロナ禍が落ち着いてきて、公開延期が重なっていた映画業界が一気に活気づく。満を持して『トップガン』の続編『トップガン マーヴェリック』が日本でも公開された。ここのところの日本の映画業界では『ウルトラマン』や『ガンダム』の新作映画など、30年以上前のシリーズ作品の新作公開が並んでいる。これらのコンテンツを喜ぶ客層はおじさん。いま映画業界ではおじさんが狙われてる? おじさん層は映画館に最も足を運ばなそうな世代。それでも『トップガン』の新作は、劇場のほとんどがおじさん客ばかりなのは想像がつく。
とにかくみんな疲れている。エンターテイメントを心の支えに、日々の辛い日常を乗り越えているようなもの。でも、新しいものが入ってくる余裕はない。もともと知っているものや親しみのあったものの延長線でいい。金曜ロードショーで過去作品の再放送の方が評判がいいのも頷ける。軒並み古い作品の続編やリブートが続くのは、映画業界にアイデアが枯渇しただけの理由ではなさそうだ。我々客側も、斬新なアイデアに順応できるほどのパワーを失ってしまっている。
それを知ってか、『トップガン』の続編は、あたかも前作の80年代にタイムスリップしたかのような既視感に襲われるような映画だった。オープニングが前作の完コピなのがいい。しかも現代の最新技術の高画質高音質。スタッフ紹介のフォントも同じで徹底している。ふと監督の名前がトニー・スコットではないことに寂しさを感じる。そうかこれは2022年の新作だったんだ。
BGMにデヴィッド・ボウイの『レッツダンス』なんてかかるから、ますます80年代に引き戻される。まるで80年代に制作された未見の映画を、今になって観ているような感覚。そういえば『トップガン2』ってずっと見逃してたっけ?みたいな。
日本語字幕は久しぶりの戸田奈津子さん。字幕スーパーは昔懐かしのシネマフォント。戸田さんの相変わらずの飛躍した意訳が炸裂する。「talk to me Goose」と、マーヴェリックはことあるごとにかつての相棒に語りかける。「グース応答せよ」と直訳すればそれまでだけど、戸田翻訳はさまざまなバリエーションでこの言葉を表現する。
ご都合主義、予定調和、先が読める、全てが丸く収まる……。『トップガン マーヴェリック』の特徴を書き連ねると、なんだかつまらなそうに聞こえてしまう。しかしそれがこの映画の面白いところ。かつて映画はこんな特徴の作品ばかりだった。とくにブロックバスター映画と呼ばれていた当時のハリウッド映画は、ストーリーの雛形はほとんど同じで、主演スターや主人公の職業を入れ替えてフォーマット化されたような作品ばかりだった。でもそんな映画は楽しかった。
「くだらない映画」と一蹴してしまえばそれきり。くだらなくても気持ちのいいカタルシスのツボを押さえていれば、極上のエンターテイメントになる。思えば最近は、難しくこねくり回した映画ばかりに観るようになってしまった。『トップガン マーヴェリック』ぐらいシンプルな映画は、現代となってはとても新鮮。疲れた心身には、これくらい何も考えずに、ただ圧倒させられるだけの映画が欲しかった。
『トップガン』は、トム・クルーズの出世作。あの頃からのトム大好き熱は冷めることはない。前作から36年。その年月は、少年をおじさんに変えた。あの頃は将来何にでもなれると思っていた。結局、何者にもなれずに小さくまとまってしまった自分がいる。寂しくもなるが、それはそれで良かっとこともある。でもトム・クルーズ=マーヴェリックは、36年経った今も飛び続けている!
7月3日には60歳になるトム・クルーズ。中年以降のおじさんたちは、頑張っている彼の姿をみて元気をもらう。「まだまだ俺たちも大丈夫」と思って、安心してしまってはいけない。彼がここまで元気でムキムキなのは、彼自身の努力があるからだ。トムから学ぶものは、日々の努力の蓄積。実際トム・クルーズというスーパースターはどんな人物なのだろう?
トム自身『トップガン』は好きだろうし、マーヴェリックというキャラクターに自分を重ねているところもあるのではないだろうか。マーヴェリックは一言でいえば「飛行機バカ」。バイクで滑走路を爆進、戦闘機が並走して離陸したら挨拶せずにはいられない。脳内麻薬が噴き出てる。元気だから彼女もつくるけど、彼の本命は飛行機しかない。どうやって早く飛ぶか、高い技術を身につけるか、そんなことしか考えていない。好きなことばかり考えて、それが成立するなんてとても羨ましい。だからこそマーヴェリック=トム・クルーズは俺たちのスーパーヒーローでアニキなんだ!
時代が進んで、戦闘機も無人化が進んでいる。命懸けのパイロットの仕事も、そろそろ終焉を迎えている。それでも操縦技術にこだわるマーヴェリック。若い奴らに「スゲエ」と言わせることができるのは彼しかいない。ここは現代の不甲斐ないおじさんたちへのカタルシス。
かつての優等生だったマーヴェリックが教師となる。生徒たちは相変わらずマッチョな輩ばかり。仲間のミスをみつけては、相手をおちょくる性格の悪さは昔も今も変わらない。ただあの頃と違うのはメンバーに女子やオタクくんがいること。当然この二人もムキムキマッチョなのは変わらないが、他のメンバーより評価されているところが興味深い。肉体的な能力は、他の男たちの方が優っているのはわかる。この2人が他と違うのは、感覚的な鋭さが大きいのだろう。レーダーやコンピューターが察知しない機影や状況の変化にすぐさま気づく。そんな直感的な能力が優れていることが想像できる。現代、多様性が求められているのは、こういった才能を埋もれさせないためもあるからだろう。
オタクのトップガン生徒のボブを演じるのはルイス・プルマン。『インデペンデンス・デイ』で、元パイロットの大統領役のビル・プルマンの息子さん。ルイス・プルマンが、どこか馴染み深い顔をしていると思ったら、そうゆうことだったのか。奇しくも親子揃って飛行機乗りの役を演ることになるとは。なんとまあ時代の流れの早いことか。
そういえばヴァル・キルマーも歳を取っても前作とあまり変わらない。ムキムキマッチョで鍛えている人は、老けないのだろうか?
「考えるな行動しろ」とマーヴェリックは語る。考えて考えて、結局ファースト・インプレッションがベストな選択だったりすることがある。ならば先入観のない自分の直感を信じた方がいい。考えてしまうのは、周りの目や世間体、同調圧力を気にしてしまうから。一匹狼のマーヴェリックは、他人の目なんか関係ない。でも現実の我々がそれを真似したら、一瞬で淘汰されてしまう。主人公が実現不可能なことを乗り越えてしまうからこそ、映画は面白い。こうして日々のストレスを解消して、観客は家路に着く。そして明日からまたおとなしく、仕事に励んでいくのであった。
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