『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』 ファンタジーみたいな旅の夢
近年の映画の予告編は、映画選びにちっとも役立たない。この『ダンジョンズ&ドラゴンズ』も、まったく眼中に入ってこなかった。SNSでは「つまらなそうに思えて、めちゃくちゃ面白い映画」と言ってる人が多い。天邪鬼な自分は、こういった王道から外れた意見の方を参考にする。そんな好評の中でも、劇場の客入りは芳しくないらしく、早々に上映回数が減っていた。それでもいつかはこの映画を観てみようと思っていた。2024年は辰年だし、年の初めの映画一本目は、この映画でキメてみよう。幸い、小学生の息子もこの映画は観てみたいと言っていた。
映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ』は、ゲームが原作とのこと。原作のゲームは50年の歴史があるらしい。原作を知らずとも映画は楽しめる工夫のされたつくり。最近は日本のアニメでもファンタジー作品が多い。描かれている世界観は、どれがどの作品だったのか、混乱するくらいにみな同じ。もうアニメだとか実写だとかの区別がつかない。
共通の世界観があるファンタジーものに、はたして著作権は存在するのだろうか。ファンタジーの起源というと、映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作『指輪物語』にまで遡る。はたして『指輪物語』の作者であるトールキンに著作権が発生するのだろうか。『指輪物語』はすでに100年近く前の作品。エルフとか魔法使いとかの概念は、ずっとトールキンの産物なのだとばかり思っていた。
トールキンは小説家でもあり学者でもある。トールキンの作品の起源は、彼が研究していた神話からくるものが多い。トールキンは、神話の世界観を物語に落とし込んだ第一人者。元ネタが神話なら、トールキンに著作権があるはずもない。ファンタジーものは、ある意味著作権フリー。数多に生まれるファンタジー作品は、どこかに許可をもらう必要もなくとも、パクりと訴えられたりしないのだろうか。今ではもうファンタジーの世界が、この世のどこかに存在しているのではないかとまで錯覚してしまう。
さて『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を配信で観ようとする。字幕オリジナル言語版はDolby Atmos仕様で、吹替版はDolby Digital配信。音響的には字幕版が最強。予告編から受ける映画の印象は、情報量が多くて目が回りそう。同じファンタジーものでも、連続アニメと単独映画とでは語り口が異なる。連続ものなら、1話1話少しずつその世界観の設定を説明してくれるだろう。単発映画のアクションものとなれば、スピード感重視。きっと自分は、映画の情報過多で溺れてしまうだろう。これは母国語で観た方が無難。それに吹替版の豪華声優陣も魅力的。子どもと観るというのもあり、吹替版にて鑑賞。
この吹替版、贅沢すぎるくらい人気の声優さんたちを使ってる。死人を一時的に蘇らせて、事情聴取する場面がある。少ししかセリフがない死人役に、主役級の声優さんたちがあてがわれている。巻き戻して確認してしまった。みんな声を変えて演じているので、誰が誰だかさっぱりわからない。無駄に贅沢で笑える。
豪華声優陣の中で異業種の配役は、どうしても演技が違って目立ってしまう。その違和感は否めない。ドリック役の南沙良さんは実写の役者さん。でもこの違和感も、ファンタジーでのさまざまな種族が出てくる世界観の中ではアクセントの効果も出てくる。完璧過ぎない世界観のリアル。これはこれでアリなのかもと思わせる。
今までのファンタジー映画というと、古典的な台詞回しが常だった。この『ダンジョンズ&ドラゴンズ』は、現代語バリバリで演出している。監督脚本は『スパイダーマン ホームカミング』のジョナサン・ゴールドスタインとジョン・フランシス・デイリーの脚本コンビが再結成している。新しいタイプのファンタジー。でももう日本のファンタジー・アニメは、現代語の話し言葉、というかオタク言葉で古典世界を描いている。日本人はその表現にすでに慣れている。『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の軽快な台詞回しは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を彷彿とさせる。
ファンタジーの世界観では、知的生物は人間ばかりではない。さまざまな種族やモンスターも高い知能を持っている。クリーチャーの表現にも流行りがある。『スター・ウォーズ』シリーズで例えるなら、2000年代の新三部ではキャラクターも景色もすべてCGで表現しようとしていた。当時はそれがすごいと思っていた。でも2010年代の続三部作では、着ぐるみキャラの表現に戻っていく。表情だけはCGで付け足す感じ。その『スター・ウォーズ』が辿り着いた続三部作のクリーチャー表現のスタイルを、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』は踏襲している。近年のファンタジー映画の良いとこ取りを、この映画はしれっとやってみせている。単純にこの映画に出てくる鳥人間や猫人間がカワイイ。
ロールプレイング・ゲームは、目指すゴールはひとつ。でも旅の途中はどこに寄り道するかわからない。それが楽しさでもある。敵や旅の目的はわかっていても、そこへ辿り着くまで右往左往していくもの。映画もまるで双六を遊んでいるかのように、あちらこちらへと旅に行かされる。朧げな目標はありつつも、いつも寄り道ばかり。そしてそこで何かを獲得していく。まるで人生の縮図。ツアーであらかじめ組まれた旅では、そんな出会いは起こりにくい。
行き当たりばったりの旅は疲弊するだけだけ。ただ、なんとなく目的地だけ立てておいて、あとは緩く旅をするのはまったりしていて楽しそう。もし次に長い期間で旅をすることがあれば、あまりプランを決めずにダラダラ過ごしてみたい。こんな激しいジェットコースター・ムービーを観ながら、そんなことを考えている。自分の思考は相当バグっているらしい。
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