『湯殿山麓呪い村』即身仏、ホントになりたいの?
先日テレビを観ていたら、湯殿山の即身仏の特集をしていた。即身仏というのは僧侶が死に至るまでの荒行をして、そのミイラ化した亡がらを仏として祀るというものである。語弊があるかも知れないが、遺体を飾って晒しているように感じてしまい、なんとなく野蛮な風習だなと思ってしまった。
この取材されていた場所が湯殿山ということで、子どもの頃映画館で観た角川映画の『湯殿山麓呪い村』をすぐ思い出した。渡辺典子主演のアイドル映画『晴れ、ときどき殺人』との併映だった。友達に『湯殿山麓鈍い村』観に行こうと誘われて、近所の映画館へ赴いたのだが、ホラーが基本的に苦手な自分には「語るなかれ、聞くなかれ」というキャッチコピーも怖過ぎて、同時上映の『晴れ、ときどき殺人』を心の寄る辺として観に行った記憶があります。でも印象に残っているのはこの『湯殿山麓呪い村』の方ばかりなので、こっちの方がそうとうインパクトがあったのでしょう。
映画では謎の即身仏に関わった人たちが全員不慮の死をとげていくというものでした。そこでの即身仏の姿は、閉じ込められて逃げようとして、もがき苦しんで死んだ姿でミイラ化した恐ろしい姿。即身仏というような悟りの姿はそこにはなく、「助けてくれ!!」と今にも聞こえてきそうなミイラの姿。そりゃ呪いも起こるだろう。
即身仏を特集した番組では、自分はなんとなく不快になってきたので途中でやめてしまった。なんでだろう? 先ほども書いたが、即身仏といえどもミイラ化した遺体を晒して崇めるという風習があまり好きになれなかった。テレビでは即身仏になる修行をした僧侶のエピソードを紹介していた。なんでも修行の途中で超能力が身に付いてきて、民衆から慕われていたとか。その超能力というのが、なくしものをして困っていた人にその在処をピタリと言い当てたとか、さらわれそうになった女の子を助けにきて「不穏な雲が見えたから来た」と言ったりしたとのこと。でも語り継がれた奇跡のエピソードにしてはちと弱くない? これくらいの能力、誰でも備わっているのではと思ってしまう。直感力というヤツ。なくしものを見つけるのだって、その困っている人の人柄や行動から察すればだいたい見当がつくし、不穏なものはたいてい一瞬で見分けがつくものだろう。これは超能力というよりは想像力といっていい。
例えばシャーロック・ホームズが依頼人に「あなたは田舎からわざわざお越し下さったのですね」と言い当てるエピソード。それは依頼人の靴に泥がついていたからに過ぎない。ロンドンは舗装されているので泥はつくはずがないという推理。この推理だって想像力が生み出すもの。相手の気持ちや行動を考える当然の能力だと思う。
そうなるとこれしきの能力で「超能力」と言ってしまうのは、当時の周りの人たちも相手を思いやる想像力が欠けていたのではと邪推してしまう。如何に自分勝手な人間が多かったのかと。そうなると確かに人々を救いたいと純粋に修行した高僧もいただろうが、ただ人に尊敬されたい、注目をされたいが故に修行した僧侶もいたのではないだろうか? 人が仏や神になろうとするところに傲慢はないか? そもそも神や仏ってなんだろう? 即身仏といわれる僧侶が本当に救われていたのだろうか? 『湯殿山麓呪い村』のように、無念のあまり呪いの心を現世に残してしまう方がしっくりきてしまう。制作者達もそう感じたからこそ、こんな作品に昇華したのかも知れない。
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