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核時代の予言だったのか?『ストーカー』

公開日: : 最終更新日:2019/06/14 映画:サ行

 

この映画のタイトル『ストーカー』は
いま世間的に流布している
特定の人につきまとう
行為や人の意味ではないのです。
発音も違うし。

これは旧ソ連時代の1979年の
アンドレイ・タルコフスキー監督のSF作品。

以前になにがしらの大きな事故があって、
立ち入り禁止区域になった場所にある
『部屋』にたどり着けば、願いが何でも叶うと言う。
その立ち入り禁止区域『ゾーン』への
道先案内人を『ストーカー』と呼ぶ。

この映画は自分は10代の時、
深夜のテレビで観ていた。

タルコフスキーの演出は観念的で、
ワンカット長回し。
陰鬱ながらも美しい映像と、
延々水のしたたる音がしているような
静かな映画。
眠くならない訳がない。

自分もこの映画、いまだに夢だったのか
実際に映画の中にあった場面なのか、
記憶がごちゃ混ぜになっている。

宮崎駿監督もどうやらこの映画の
テレビオンエアを観ていたらしく、
インタビュー集『風の帰る場所』のなかでも、
「凄い映画だと一瞬で分かりました。
でも全篇は観てない。
凄いのが分かったので、もういいんです」
と言っています。

実際この映画、
全篇通して観ようが、部分的に観ようが、
分かると言えば分かるし、
分からないと言えば分からない。
そんな不思議な映画。

この『ゾーン』と呼ばれる立ち入り禁止区域。
こんなものはSF設定の世界のみと
当時の自分は思っていたのだが、
この映画の後、1986年にチェルノブイリの事故が起こり、
本当に旧ソ連では立ち入り禁止区域が出来てしまった。

タルコフスキーはインタビューでも
「自分自身の存在が芸術だ」と語っています。
何かの予兆を感じて
この映画を作ったのかも知れません。

タルコフスキー作品は
政治的な意味合いの映画もあり、
旧ソ連にはいられなくなり、
晩年は海外を流転しながら作品を
作っていたタルコフスキー監督。

当時の旧ソ連の状況からすると
命がけの芸術表現だったことでしょう。

そして日本も福島原発事故で、
所謂『ゾーン』が生まれてしまった。

いつのまにか原発事故もなかったかのごとく
報道されなくなってきましたが、
チェルノブイリの影響は、
事故の5~6年後に
人々の体に表れてきたとのこと。

福島原発事故が2011年3月11日なので、
この2015年から2016年ぐらいから
発病なり奇形児なりが生まれてくる事になる。
何事も無いことを祈りたい。

芸術家たちが放つビジョンは、
良い事も悪い事も
現実になっちゃうことが多いので、要注意です。

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