『風立ちぬ』 招かざる未来に備えて

なんとも不安な気分にさせる映画です。
悪夢から覚めて、夢の内容は忘れても、
ただただ不安な気分が残るような、そんな映画。
主人公は天才航空設計士。
天才は時にして空想と現実の境目がなくなる。
それを映画にするとこんな感じ。
どこが現実でどこが空想か分からなくなるのは
フェリーニの映画を観ているかのよう。
先日テレビ放送をあらためて観て、
やはりその観賞後の印象は変わらなかった。
これは御涙頂戴の映画ではないなと。
公開当時はまだ作品の意図など
理解も出来なかったけれど、
今の世の中の流れを肌で感じていると、
なんとなく以前より見えてくるものがある。
公開当時宮崎駿監督は、
「10年後20年後に
この作品の真価を問われるだろう」
のような意味深の言葉を放っていたと思う。
「地震のあとには戦争がやってくる」とは
忌野清志郎氏の言葉。
この映画も関東大震災から始まり、
第二次世界大戦をむかえて終わります。
宮崎監督が関東大震災の場面の
絵コンテを描いているときに、
3.11震災が起こったと聞きます。
運命的です。
推測ですが、この映画は
依頼されて作ったのではないかと。
これから世の中が
戦争へむかっていきそうなので、
戦争にまつわる映画をつくってくれないかと。
宮崎監督としては、
戦争礼賛の映画はつくる訳にはいかないが、
設計士の話ならつくれるだろう。
そしてメロドラマも交えれば、
エンターテイメントとして成立し、
100%プロパガンダ映画にはならないと
工夫をされたのではないだろうか?
引退宣言には年齢的な問題も
当然あるでしょうが、
これからは自由な映画が作れない時代が来るなと
監督が感じていたのかも知れません。
映画に出てくる若者たちは
「戦争はイヤだ」とは絶対に口にしない。
当時の人間の潔さを感じる。
大きな時代のうねりの中では、
個人ではもうどうしようもない。
この映画の不安感は、
やがて近い未来にやってくるかもしれない、
暗闇に覆われた日本の姿。
映画はそんな時代がきたとしても、
「生きねばならぬ」と言っている。
{
関連記事
-
-
『RRR』 歴史的伝統芸能、爆誕!
ちょっと前に話題になったインド映画『RRR』をやっと観た。噂どおり凄かった。S・S・ラージャ
-
-
『ケイコ 目を澄ませて』 死を意識してこそ生きていける
『ケイコ 目を澄ませて』はちょっとすごい映画だった。 最新作『夜明けのすべて』が話題に
-
-
『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』 みんな良い人でいて欲しい
『牯嶺街少年殺人事件』という台湾映画が公開されたのは90年初期。その頃映画小僧だった自分は、
-
-
『となりのトトロ』 ホントは奇跡の企画
先日『となりのトトロ』がまたテレビで放映してました。 ウチの子ども達も一瞬にして夢中になり
-
-
『かもめ食堂』 クオリティ・オブ・ライフがファンタジーにならないために
2006年の日本映画で荻上直子監督作品『かもめ食堂』は、一時閉館する前の恵比寿ガーデンシネマ
-
-
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』アメコミみたいなアイツ
トム・クルーズが好きだ! 自分が映画を観るときに、監督で選ぶことはあっても、役者で決めることはほとん
-
-
『async/坂本龍一』アートもカジュアルに
人の趣味嗜好はそうそう変わらない。 どんなに年月を経ても、若い頃に影響を受けて擦り込ま
-
-
『風立ちぬ』 憂いに沈んだ未来予想図
映画『風立ちぬ』、 Blu-rayになったので観直しました。 この映画、家族には不評
-
-
『リメンバー・ミー』 生と死よりも大事なこと
春休み、ピクサーの最新作『リメンバー・ミー』が日本で劇場公開された。本国アメリカ公開から半年
-
-
『ボス・ベイビー』新しい家族なんていらないよ!
近年のドリームワークス・アニメーションの作品が日本では劇場公開されなくなっていた。『ヒックと
