*

映画づくりの新しいカタチ『この世界の片隅に』

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 アニメ, ドラマ, 映画:カ行,

 

クラウドファンディング。最近多くのクリエーター達がこのシステムを活用している。ネットを通して自分の表現の企画実現のために、一般に投資を投げかけるものである。一般の人でも、共感できるクリエーターのパトロンになれるわけです。そのクラウドファンディング史上最大の3,600万円というお金が集まった『この世界の片隅に』のアニメ化への資金ぐり。この作品を愛している人が多いことが伺われます。

『この世界の片隅に』は、こうの史代さんのマンガが原作。第二次大戦中の広島を舞台に、市井の人々の淡々とした生活を優しいタッチで描いている。こうの史代さんは前作『夕凪の街 桜の国』で原爆にについて描いていました。この作品も名作で実写映画もされました。『この世界の片隅に』は、戦争という暴力の狂気を直接的に描かないという、ものすごく知的な作品です。

静かな作品なので、映像化されるのなら実写だろうと思っていました。そしたら2011年に北川景子さん主演でドラマ化されていたのね。でも雰囲気がちょっと違う。センシティブな作品ゆえ、根幹を掴み損ねると、ただただ退屈な作品になってしまいかねない。諸刃の刃のような作品です。

日本は原作付映像化が大好き。むしろオリジナルで作品を作りたがる欧米とは大違い。原作がヒットしているという保証がなければ、日本の企業はなかなかお金を出してはくれない。原作の揺るぎないヒットがあってこそ、映像化への切符が手に入るのが日本のエンタメ事情なのです。悪く言えばオリジナルで企画を通す勇気が日本にはないのです。自分は原作があるものの映像化、ましてやマンガ原作のアニメ化にはあまり意味を感じないと思っています。両者があまりに似通ったメディアなので、焼き直す意味がよくわからない。

今回、クラウドファウンティングで出資者が多勢集まった。ただ3,600万円では劇場用アニメは作れない。どういった経緯でまずクラウドファンディングから資金集めを開始するのに至ったのか分からないが、『この世界の片隅で』くらいの作品なら、メジャー作品として十分企業がお金を出してくれそうに思えそうなのだが、そうならなかったことに違和感を感じます。

「日本が世界に誇るアニメ・マンガ」とメディアではこぞってあおり立てているけれど、アニメの現場はブラック中のブラックで、今後存続は難しい状況。日本の企業もなかなか作品づくりの企画に耳をかしてはくれていない。だから『この世界の片隅に』ですら、暗礁に乗り上げてしまったのだろう。クラウドファンディングで話題づくりをして、それで企業を動かそうという作戦なのかも知れません。もうそれくらい日本で映画を作るのは難しいことなら、本当に嘆かわしい。

今回、普段制作段階ではなかなか一般に公開されることがない、制作途中の絵コンテやレイアウト画がみれた。原作に忠実な映像化がされそうで、先ほどマンガ原作のアニメ化を否定的に言ったにもかかわらず、期待してしまう。作品の根幹を変えずにいて欲しいものです。

これだけの名作なので、映像化はやっぱり楽しみです。

 

関連記事

no image

『ズートピア』理不尽な社会をすり抜ける術

ずっと観たかったディズニー映画『ズートピア』をやっと観ることができた。公開当時から本当にあちこちから

記事を読む

『家族を想うとき』 頑張り屋につけ込む罠

  引退宣言をすっかり撤回して、新作をつくり続けるケン・ローチ監督。市井の人

記事を読む

『夜明けのすべて』 嫌な奴の理由

三宅唱監督の『夜明けのすべて』が、自分のSNSのTLでよく話題に上がる。公開時はもちろんだが

記事を読む

『キングコング 髑髏島の巨神』 映画体験と実体験と

なんどもリブートされている『キングコング』。前回は『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジ

記事を読む

no image

『バウンス ko GALS』JKビジネスの今昔

  JKビジネスについて、最近多くテレビなどメディアで とりあつかわれているような

記事を読む

『茶の味』かつてオタクが優しかった頃

もうすぐ桜の季節。桜が出てくる作品で名作はたくさんある。でも桜ってどうしても死のメタファーと

記事を読む

『ベニスに死す』美は身を滅ぼす?

今話題の映画『ミッドサマー』に、老人となったビョルン・アンドレセンが出演しているらしい。ビョ

記事を読む

no image

『火花』又吉直樹の飄々とした才能

  お笑いコンビ・ピースの又吉直樹さんの処女小説『火花』が芥川賞を受賞しました。おめ

記事を読む

『ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 』  若手女流監督で人生の機微が!

言わずもがな子ども達に人気の『ドラえもん』映画作品。 『ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団

記事を読む

『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』その扇動、のるかそるか?

『ハリー・ポッター』シリーズのスピンオフ『ファンタスティック・ビースト』の第二弾。邦題は『黒

記事を読む

『ウェンズデー』  モノトーンの10代

気になっていたNetflixのドラマシリーズ『ウェンズデー』を

『坂の上の雲』 明治時代から昭和を読み解く

NHKドラマ『坂の上の雲』の再放送が始まった。海外のドラマだと

『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!

『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自

『ボーはおそれている』 被害者意識の加害者

なんじゃこりゃ、と鑑賞後になるトンデモ映画。前作『ミッドサマー

『夜明けのすべて』 嫌な奴の理由

三宅唱監督の『夜明けのすべて』が、自分のSNSのTLでよく話題

→もっと見る

PAGE TOP ↑