*

『フラガール』生きるための仕事

公開日: : 最終更新日:2019/06/16 映画:ハ行, 音楽

 

史実に基づいた作品。町おこしのために常磐ハワイアンセンターを設立せんとする側、新しいものを拒み、今までの町を守ろうとする側の対立を描きながら、フラガールという華やかなショービジネスが出来上がるまでの群像劇。

常磐ハワイアンセンターは今ではスパリゾートハワイアンズと改名している。福島にあるこの施設は東日本大震災の被害を受け、一時は休業を余儀なくされた。この映画『フラガール』のヒットのあとの出来事。いまではスパリゾートハワイアンズも再開して、自分の周りでも「最近行った」なんて声も聞こえてきます。

今年の夏、ジェイク・シマブクロのメインテーマがコンビニでかかっていたので、いい曲だな〜、懐かしいな〜とコンビニのカフェブースでよく聞いていました。

映画『フラガール』の物語は、東北のある街を支えていた炭坑の仕事がダメになり、起死回生のハワイアンリゾート地をつくろうと、そして女性たちはそこでのフラダンサーになるべく、特訓していきます。街には、保守的で新しい風を拒む派と二分化になり、主人公のひとり蒼井優の演じる新人ダンサーがいて、その母・富司純子は強烈な反対派のひとり。この親子の確執がドラマのひとつの見せ場でもあります。

その母が映画の後半、ふとしたことで、疎遠していた娘の練習風景を目にします。娘は意図的に、母に自分のダンスをみせます。このシーンに台詞はいっさいありません。踊る人とそれを見る人の姿だけです。自信にあふれた娘のダンスに、母の心が動きます。(これはイギリス映画「リトルダンサー」のオマージュでもありますが……)

そして母は、反対派の仲間たちに言うんです。この台詞が良い。「今まで仕事とは、暗い穴の中で歯くいしばって、死ぬか生きるかでやるもんだと思っていたんだ」東北人らしい我慢強い人の言葉。「でもあんなふうに踊って人様によろこんでもらえる仕事もあってもいいのではないかと思えてきた」と続く。

ただ耐えるだけが仕事ではない。仕事を選ぶ自由もあるし、覚悟さえあればなんだってできる。暗いご時世に希望を感じさせる、良い台詞。

クライマックスのフラガールとなった娘の勇士を母は目撃します。そして娘のソロで会場から割れんばかりの喝采を受けます。ここ、富司純子さん演じる母親と一緒に泣きましたよ。

迫力のダンスシーンもさながら、あらためて、ステキな映画だと感じました。

 

関連記事

『星の子』 愛情からの歪みについて

今、多くの日本中の人たちが気になるニュース、宗教と政治問題。その中でも宗教二世問題は、今まで

記事を読む

『男はつらいよ お帰り 寅さん』 渡世ばかりが悪いのか

パンデミック直前の2019年12月に、シリーズ50周年50作目にあたる『男はつらいよ』の新作

記事を読む

『DUNE デューン 砂の惑星』 時流を超えたオシャレなオタク映画

コロナ禍で何度も公開延期になっていたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSF超大作『DUNE』がやっと

記事を読む

『鑑定士と顔のない依頼人』 人生の忘れものは少ない方がいい

映画音楽家で有名なエンニオ・モリコーネが、先日引退表明した。御歳89歳。セルジオ・レオーネや

記事を読む

『ヴァチカンのエクソシスト』 悪魔は陽キャがお嫌い

SNSで評判だった『ヴァチカンのエクソシスト』を観た。自分は怖がりなので、ホラー映画が大の苦

記事を読む

no image

『うつヌケ』ゴーストの囁きに耳を傾けて

  春まっさかり。日々暖かくなってきて、気持ちがいい。でもこの春先の時季になると、ひ

記事を読む

『逃げるは恥だが役に立つ』 シアワセはめんどくさい?

「恋愛なんてめんどくさい」とは、最近よく聞く言葉。 日本は少子化が進むだけでなく、生涯

記事を読む

no image

『トロールズ』これって文化的鎖国の始まり?

  配信チャンネルの目玉コーナーから、うちの子どもたちが『トロールズ』を選んできた。

記事を読む

『戦場のメリークリスマス 4K修復版』 修復版で時間旅行

映画『戦場のメリークリスマス』の4K修復版の坂本龍一追悼上映を観に行った。そもそもこの映画の

記事を読む

no image

『METAFIVE』アンドロイド化する東京人

  自分は音楽ではテクノが好き。整理整頓された無機質な音にテンションがあがる。ロック

記事を読む

『ケイコ 目を澄ませて』 死を意識してこそ生きていける

『ケイコ 目を澄ませて』はちょっとすごい映画だった。 最

『SHOGUN 将軍』 アイデンティティを超えていけ

それとなしにチラッと観てしまったドラマ『将軍』。思いのほか面白

『アメリカン・フィクション』 高尚に生きたいだけなのに

日本では劇場公開されず、いきなりアマプラ配信となった『アメリカ

『不適切にもほどがある!』 断罪しちゃダメですか?

クドカンこと宮藤官九郎さん脚本によるドラマ『不適切にもほどがあ

『デューン 砂の惑星 PART2』 お山の大将になりたい!

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、ティモシー・シャラメ主演の『デューン

→もっと見る

PAGE TOP ↑