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『反社会学講座』萌えアニメも日本を救う!?

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 アニメ, ドラマ,

 

まじめなことにユーモアをもって切り込んでいくのは大切なことだ。パオロ・マッツァリーノ氏の考え方はまさにそれ。

大阪で中学生が殺された事件で、未成年者が巻き込まれる凶悪犯罪に日本中が震撼した。あるニュース番組では「凶悪犯罪の件数自体は減っている」と言っていた。最近では報道力の向上と、野次馬根性が相乗効果を成して、さも世の中物騒になったかのように感じてしまうが、実際の日本の凶悪犯罪の件数自体は減っていると感じる。この『反社会学講座』の著者パオロ・マッツァリーノ氏も同じことを言っている。

日本は子どもにとって危険な大人が多いということで、子どもの行動を規制したり、親や地域のボランティア活動も手厚くなった。これ以上規制を強めていったら、子どもが自由に生きていけない。親の負担もたまったものでない。今の地域の目は行き届いていて、少しでも不審者とおぼしき者が現れたら、町内放送や保護写メールが一斉に流れて注意を促している。規制規制、どんどん子どもが生きづらくなる。

よく昔は良かったと聞くが、そうなのだろうか? パオロ氏の資料では過去の方が治安が悪く、凶悪な性格の持ち主は今の老人世代に集中する。確かに今は若い人の方が協調性があって大人しい。こういった社会学者が打ち出すデータは、意図的にバイアスがかかったもので、ひとつの考えを通すためのプレゼンに過ぎない。データを出されると日本人は鵜呑みにする傾向がある。社会学者にとってチョロい存在なのだろう。コワいデータにはなぜか人は飛びつく、いわゆる『ホラーポルノ』というヤツ。パオロ氏のいうスーペーさんは少子化を闇雲に憂う。スーペーさんってなに? 『スーパーペシミスト』の略らしい。少子化が今後経済を大きく変えるのはすでに周知のこと。それでも「生めよ育てよ」では、このまま死を待つばかり。いま子どもを生み育てるのがこれほど困難な時代はないのではないだろうか? 「やってみればなんとかなる」と親世代にいわれて、家族をつくったはいいが、結局やっていけず家族崩壊や、最悪心中なんかに追い込まれたら本末転倒。子どもをつくるには覚悟と、相当のバックアップを準備しなければ路頭に迷うだけ。

何でも日本は、世界に誇るほど性犯罪が少ないらしい。これは風俗やアダルトビデオの普及した年から激減しはじめているとのこと。人間には本来、凶暴性が備わっている。どこかでガス抜きをしなければ、爆発してしまう。ポルノの発展は日本の社会の秩序を支える、影の力なのかも知れない。日本独特のボカシ文化。この規則を守るために、局部だけ映らなければと、いろいろ法にひっかからないエロ表現が日本は進化していった。萌えアニメやアイドル文化なんかもその現れだろう。自分はそういった文化に嫌悪感をいだいてましたが、なになに、それらは日本の治安に貢献していたのですね。

少年犯罪の凶暴性は、アニメやゲームの暴力描写のせいだと言われ、表現規制がどんどん厳しくなっています。一部の道を逸れた人間のために、全員が厳しい規制を受けなければならないことが多々あります。日本の集団責任という考え。それによってまっとうに生きている人が、どんどん生きづらくなるのは問題でもある。

本文中の引用の引用なのだが、アメリカのドラマ『ER』のなかで、ブーツ欲しさに友達を殺した8歳の少年の犯罪について語り合う場面。ゲームやらテレビが原因なのではと論議がすすみ、「原因が分からなければ防ぎようがない」とキャロルが嘆くと、ジョージ・クルーニー演じるロスが「できるだけ愛し、育て、教えて、幸せを祈るしかない」と言う。規制で機械的に封じ込めるのではなく、まずは子どもと向き合うことから始めなければいけない。

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