*

『かぐや姫の物語』 この不気味さはなぜ?

公開日: : 最終更新日:2021/05/20 アニメ, 映画:カ行

なんとも不気味な気分で劇場を後にした映画。

日本人なら、昔話で誰もが知っている
『竹取物語』の映像化。

アメリカのアカデミー賞にもノミネートされ
また話題になっている。
ただ競合相手が『ベイマックス』や
『ヒックとドラゴン2』だったりなので、
かなり苦戦でしょうね。

高畑勲監督は、アニメ作家というよりも
学者肌のような人と感じる。

この『かぐや姫の物語』は
映画を観たというよりも『竹取物語』を
研究した学術書を読んだような印象。

不気味な印象を与えるのは、
全篇に「死」の臭いが感じるから。

かぐや姫は死に向かってまっすぐに進んでいく。

美人薄命というが、とかく今も昔も
容姿端麗な女性は不幸な人生を送ることが多い。
政治や権力の道具として人生を送るからだ。

人間を不幸にさせる欲望。
「金(経済)」「権力」「美」の追求。

かつての昔、
この『竹取物語』を書いた作家は
どこまでこの教訓めいた主題を
意識していただろう?

きっと物語を書くのが
精一杯だったと推測できるので、
感覚的にこれらの欲が、
人を不幸にするものと
感じ取っていたのでしょう。

かぐや姫は幸せな人生を送りたかったという
シンプルな欲求で生きている。

ただ、人をまどわす程の美女。
オリジナルキャラクターの
幼なじみの青年ですら、
妻子ある身にも関わらず、
かぐやの美しさに翻弄される。

本当の幸せとはなんだろう?

クライマックスの月からのお迎えの場面。
劇場では観客のすすり泣く声が聞こえたが、
なんとも不気味な場面に、
自分は身の毛がよだった。

天から楽を奏でて、月の人たちがかぐやを迎えにくる。
なんともノーテンキな音楽に笑えちゃう。
天上人は観音像の容姿。あきらかに死の描写。

月に赤ん坊時代のかぐや姫の顔が
ぽっかり浮かぶのも気持ち悪い。

水墨画が動くというハイテクな絵作り。
日本人として誇りを感じてしまう程の様式美。
制作費が50億という、大ヒットしても元がとれない
クレージーな作品。

制作者は後世に何かを残したかったのかも知れません。

登場人物達の顔がデカいのに共感してしまった。
今のアニメとはひと味違った作品。

感動というよりは、静かな狂気を感じてしまう。
本来の『竹取物語』もそんな話だったのだろう。

 

&

関連記事

『気狂いピエロ』 カワイイのセレクトショップ映画版

ジャン=リュック・ゴダールが91歳で亡くなった。ゴダールの名前を知ったのは自分が10代になる

記事を読む

『トクサツガガガ』 みんなで普通の人のフリをする

ずっと気になっていたNHKドラマ『トクサツガガガ』を観た。今やNHKのお気に入り俳優の小芝風

記事を読む

『カメラを止めるな!』虚構と現実、貧しさと豊かさ

春先に日テレ『金曜ロードSHOW!』枠で放送された『カメラを止めるな!』をやっと観た。ずいぶ

記事を読む

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 僕だけが知らない

『エヴァンゲリオン』の新劇場版シリーズが完結してしばらく経つ。すっかりブームもおさまって、『

記事を読む

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』 長いものに巻かれて自分で決める

『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズの劇場版が話題となった。『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』というタイトルで

記事を読む

no image

『華氏911』アメリカは日本が進む反面教師?

  世界のパワーバランスが崩れ始めている。 平和ボケしている日本人にも とうとう

記事を読む

『マッドマックス フュリオサ』 深入りしない関係

自分は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が大好きだ。『マッドマックス フュリオサ』は、そ

記事を読む

『ベイマックス』 涙なんて明るく吹き飛ばせ!!

お正月に観るにふさわしい 明るく楽しい映画『ベイマックス』。 日本での宣伝のされかた

記事を読む

『枯れ葉』 無表情で生きていく

アキ・カウリスマキ監督の『枯れ葉』。この映画は日本公開されてだいぶ経つが、SNS上でもいまだ

記事を読む

no image

ロビン・ウィリアムズが若者に席を譲った『グッド・ウィル・ハンティング』

  ロビン・ウィリアムズの突然の訃報。 自殺だったと報道されました。 自殺は

記事を読む

『たかが世界の終わり』 さらに新しい恐るべき子ども

グザヴィエ・ドラン監督の名前は、よくクリエーターの中で名前が出

『動くな、死ね、甦れ!』 過去の自分と旅をする

ずっと知り合いから勧められていたロシア映画『動くな、死ね、甦れ

『チェンソーマン レゼ編』 いつしかマトモに惹かされて

〈本ブログはネタバレを含みます〉 アニメ版の『チ

『アバウト・タイム 愛おしい時間について』 普通に生きるという特殊能力

リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム』は、ときどき話

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラ

→もっと見る

PAGE TOP ↑