『かぐや姫の物語』 この不気味さはなぜ?
なんとも不気味な気分で劇場を後にした映画。
日本人なら、昔話で誰もが知っている
『竹取物語』の映像化。
アメリカのアカデミー賞にもノミネートされ
また話題になっている。
ただ競合相手が『ベイマックス』や
『ヒックとドラゴン2』だったりなので、
かなり苦戦でしょうね。
高畑勲監督は、アニメ作家というよりも
学者肌のような人と感じる。
この『かぐや姫の物語』は
映画を観たというよりも『竹取物語』を
研究した学術書を読んだような印象。
不気味な印象を与えるのは、
全篇に「死」の臭いが感じるから。
かぐや姫は死に向かってまっすぐに進んでいく。
美人薄命というが、とかく今も昔も
容姿端麗な女性は不幸な人生を送ることが多い。
政治や権力の道具として人生を送るからだ。
人間を不幸にさせる欲望。
「金(経済)」「権力」「美」の追求。
かつての昔、
この『竹取物語』を書いた作家は
どこまでこの教訓めいた主題を
意識していただろう?
きっと物語を書くのが
精一杯だったと推測できるので、
感覚的にこれらの欲が、
人を不幸にするものと
感じ取っていたのでしょう。
かぐや姫は幸せな人生を送りたかったという
シンプルな欲求で生きている。
ただ、人をまどわす程の美女。
オリジナルキャラクターの
幼なじみの青年ですら、
妻子ある身にも関わらず、
かぐやの美しさに翻弄される。
本当の幸せとはなんだろう?
クライマックスの月からのお迎えの場面。
劇場では観客のすすり泣く声が聞こえたが、
なんとも不気味な場面に、
自分は身の毛がよだった。
天から楽を奏でて、月の人たちがかぐやを迎えにくる。
なんともノーテンキな音楽に笑えちゃう。
天上人は観音像の容姿。あきらかに死の描写。
月に赤ん坊時代のかぐや姫の顔が
ぽっかり浮かぶのも気持ち悪い。
水墨画が動くというハイテクな絵作り。
日本人として誇りを感じてしまう程の様式美。
制作費が50億という、大ヒットしても元がとれない
クレージーな作品。
制作者は後世に何かを残したかったのかも知れません。
登場人物達の顔がデカいのに共感してしまった。
今のアニメとはひと味違った作品。
感動というよりは、静かな狂気を感じてしまう。
本来の『竹取物語』もそんな話だったのだろう。
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