『ダイ・ハード』作品の格をあげちゃうアラン・リックマン
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最終更新日:2019/06/13
映画:タ行
去る1月14日に俳優のアラン・リックマンが亡くなった。今年に入って早々、訃報ばかりが続く。アラン・リックマンは69歳。先日亡くなったデヴィッド・ボウイと同い年。自分からはまさに親世代。自分もあと20年もすれば、同年代の著名人がバタバタ亡くなったり、自分もその仲間だったりするのだろう。これはかなり精神的ダメージがありそうだ。とても残念です。ご冥福を祈りします。
アラン・リックマンはあの鼻にかかった声が独特で、メジャー出演作品では悪役が多い。ホントは結構地味な文芸作品が多い役者さん。『ハリー・ポッター』シリーズのスネイプ先生なんかが最近では有名。第1作目の『賢者の石』の頃はまだ、J.K.ローリングは原作執筆の途中で未完結。自分も小説でイメージしていたスネイプはこんな人だったのねって、しっくりきた怪演ぶり。いや、スネイプはイメージ以上に面白いキャラクターになっていた。怖いけど笑えるスネイプ。J.K.ローリングも、リックマンのスネイプにだいぶ構想を引っ張られたんじゃないかしら? だからこそシリーズ後半では、ハリーを食っちゃうくらい重要なキャラクターになっていったのかも知れない。
スネイプも良かったけど、アラン・リックマンといえばやはり『ダイ・ハード』の悪役・ハンス‼︎ 80年代はハリウッドのブロックバスター映画の全盛期。明るく軽くノリがいい映画の名作がたくさん生まれた。で、ちょうどそろそろハリウッド映画も飽きてきたな〜という頃に、『ダイ・ハード』というカウンターパンチを食らった。ブロックバスター映画は内容が薄っぺらいものだったのに、この映画は脚本に仕掛けがいっぱいある。張り巡らされた伏線の数々。小さな脇役ですら、必ず本筋に絡んできて、無意味な登場人物は一人もいない。いままでのアクション映画は、アタマ空っぽにして観てればいいものだったのに、伏線が繋がったとき「そうきたか!」と、いちいち唸らされたものです。
この『ダイ・ハード』の一作目で占拠されるのは、架空の日系企業のナカトミビル。当時日本はバブル絶頂期。日本人はカネにものを言わせて、世界中でデカイ態度をとっていた。カネ払うんだから、何したっていいでしょ?って。そりゃ世界中から総スカン。いま、中国人の成金を『爆買い』とか揶揄してるけど、もしかしたらそれよりもっと品がなかったかも知れない。テロリストの最初の犠牲者は日本人社長。勇敢にアラン・リックマン演じる悪玉のボスに対峙するが、あっけなく頭を撃ち抜かれる。きっとその場面で、日本以外の映画館では喝采がおきたのでは? それくらい日本人は嫌われていたのだろう。あの場面は、世界における日本人の象徴だ。
『ダイ・ハード』の1作目は、いろんな意味で、いままでのアクション映画の概念を覆した。マッチョ対マッチョの筋肉祭りのイメージだったアクション映画を、ショボくれた冴えない中年刑事を主人公にした。ブルース・ウィリスの当たり役。悪役は知的な紳士風で逆に怖さが増す。リックマンあっての悪役。登場人物の過去の設定もしっかりしているので、観客が感情移入しやすい。シリーズ化される第1作目は、たいてい面白いものだ。
この『ダイ・ハード』。公開当時よりも、ビデオになって、後から人気が出てきたと思う。観客の映画館離れが深刻だった時代。映画は映画館じゃなく、レンタルで観るもののような、映画ファンとしてはダメな風潮だった。名画座の早稲田松竹では、やはり客の不入りで二週間で上映うちきりになった『グレート・ブルー』と併映していた。この『グレート・ブルー』は後に長尺版になり『グラン・ブルー』と改題されたリュック・ベッソンの名作。当時自分は、「なんちゅう豪華な二本立てだろう」と感動していたけど、ほとんど無名の二作品だったのね。『ダイ・ハード』やら『グレート・ブルー』の話したら、マニア扱いされたものです。こんなにわかりやすい映画なのになぜ?って感じ。ただ、本当に良いものは、後からジワジワ評価されて、気がついたらスタンダードになっていくものなんだと、後のこの二作品の評価で感じました。
映画に宣伝は不可欠だけど、やっぱり作品自体にパワーがなければ、一瞬にして忘れ去られてしまうのでしょうね。
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