*

『リアリティのダンス』ホドロフスキーとトラウマ

公開日: : 最終更新日:2021/07/17 アニメ, 映画:ラ行, , 音楽

アレハンドロ・ホドロフスキーの23年ぶりの新作『リアリティのダンス』。ホドロフスキーと言えば、70年代に発表したカルトムービー『エル・トポ』が有名。なんでもジョン・レノンが心酔して、映画の権利を独占したため、しばらく一般公開ができなくなったとか。自分もそういった逸話ばかりが先に耳に入って、伝説の映画なんだな〜と、よくわかりもしないで高校生のとき観たきり。いま『エル・トポ』を観直したら、どう感じるだろうか。

ホドロフスキーは23年間なにをしていたのかというと、タロット占いだとか、セラピストだとか、スピリチャル方面の仕事をしていたらしい。漫画原作者として、フランスでも活躍していた。日本の『風の谷のナウシカ』や『AKIRA』の実写映画化をしてみたいなんて話もよくしていたような。

スピリチャルな仕事をしていたこともあるからか、作品もかなり抹香臭いところがあるし、本作公開時に来日したときのインタビューの様子はまさに高僧のようだった。狂気に満ちた作品を作る人は、本当に頭のおかしな人もいるが、たいていは道理をわきまえた知的な人物だったりする。ホドロフスキーはまちがいなく後者だろう。

この『リアリティのダンス』は、自身の少年時代を描いている。子どもの視点からみた親たちの様子。ホドロフスキーの少年時代は、本当に悲惨な経験ばかり。厳格な共産主義者の父親からの厳しい教育。これは虐待と言っていい。映画の舞台はチリ、ホドロフスキー一家は移民のユダヤ系。ホドロフスキー少年は、友だちからもいじめられている。

この辛い現実から、空想だか妄想だか区別もつかない、生と性と死の世界が交錯する。田舎町の建物の配色がかわいらしい。それもあってか、悲惨な物語なのになぜか明るい印象。お母さんはオペラ口調で、暇さえあればオペラで心情を歌い出す。まさにエログロナンセンスな悲喜劇。でもホドロフスキー曰く、実際のお母さんはオペラ歌手になりたかったが道半ばで諦めたので、この映画で夢を叶えさせてあげたかったらしい。

アーティスティックだけど、根幹はとてもシンプルで、スジが一本通っている映画。

この映画からみると、ホドロフスキーの父親はかなりラディカルで危なっかしい人。波乱の人生をおくるのも自業自得な感じがする。本人はそれで本望だろうが、その家族はたまったものでない。ホドロフスキー少年も、何度も死にたくなっただろう。それは映画でも伺えるように、悲劇を喜劇にもっていける、明るい前向きな性格が、生命力となっていたのだろう。

ホドロフスキー少年の父親役を彼の息子ブロンティス・ホドロフスキーが演じている。『エル・トポ』で素っ裸の子役だった人だ。おっさんになってもまた全裸にされて拷問されてる。ヘンなの。音楽もホドロフスキー監督の息子、大統領暗殺の共謀者役もやっている。まさにファミリービジネス。

ホドロフスキー監督はインタビューで、映画を通してやっと父と和解できたような気がすると言っている。パーソナルな理由で映画の企画が始まったのだろう。生命力の強いホドロフスキーでさえも、少年期のトラウマにはずっと苦しめられていたことになる。老人となったいま、人生の締めくくりに、その頃の気持ちを清算しようと、やっと向き合えたのかもしれない。皮肉にもこのトラウマが、彼の創作の原動力でもあったはず。子どもの頃の心の傷は、それほどしぶとい。死ぬ前にこれだけはケリをつけなければという、ホドロフスキーの強い意志を感じさせる映画だ。

関連記事

『ヒックとドラゴン/聖地への冒険』 変わっていく主人公

いまEテレで、テレビシリーズの『ヒックとドラゴン』が放送されている。小学生の息子が毎週それを

記事を読む

no image

『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』夢を現実にした最低で最高の男

芸能界は怖いところだよ。よく聞く言葉。 本書は『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサーで、実質的な生みの

記事を読む

『嫌われ松子の一生』 道から逸れると人生終わり?

中島哲也監督の名作である。映画公開当時、とかく中島監督と主演の中谷美紀さんとが喧嘩しながら作

記事を読む

『メダリスト』 障害と才能と

映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自分は萌えアニメが苦手なので、絶

記事を読む

『ゲゲゲの女房』本当に怖いマンガとは?

水木しげるさんの奥さんである武良布枝さんの自伝エッセイ『ゲゲゲの女房』。NHKの朝ドラでも有

記事を読む

『愛の渦』ガマンしっぱなしの日本人に

乱交パーティの風俗店での一夜を描いた『愛の渦』。センセーショナルな内容が先走る。ガラは悪い。

記事を読む

『シン・ウルトラマン』 こじらせのあとさき

『シン・ウルトラマン』がAmazon primeでの配信が始まった。自分はこの話題作を劇場で

記事を読む

no image

『マイティ・ソー バトルロイヤル』儲け主義時代を楽しむには?

ポップコーン・ムービーの王道、今ノリにノってるディズニー・マーベルの人気キャラクター・ソーの最新作『

記事を読む

no image

『花とアリス』男が描く少女マンガの世界

  岩井俊二監督作品『花とアリス』が アニメ化されるというニュースが来ましたね。

記事を読む

no image

『東京ディズニーランド』お客様第一主義の行方

  自分はディズニーランドは大好きです。 子どもたちも喜ぶし、 自分も子どもみた

記事を読む

『フランケンシュタイン(2025年)』 生きることを生きること

2025年、ギレルモ・デル・トロ監督によって『フランケンシュタ

『劇場版 呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』 イベントムービーの心得

我が家では自分よりも家族の方が『呪術廻戦』が好き。その『呪術廻

『ウィキッド ふたりの魔女』 陰惨な世界を軽やかに歌い上げよう

観るべきかやめるべきか迷っていた映画『ウィキッド ふたりの魔女

『ひらやすみ』 とがって、たたかれ、まるくなり。

2025年の冬、自分のSNSのタイムラインでは『ひらやすみ』と

『プレデター バッドランド』 こんなかわいいSFアクション映画が観たかった

『プレデター』の最新作が公開される。近年日本では洋画が不人気。

→もっと見る

PAGE TOP ↑