『名探偵ホームズ』ストーリー以外の魅力とは?
最近、ジブリ作品が好きな自分の子どもと一緒に『名探偵ホームズ』を観た。
かつて『風の谷のナウシカ』の同時上映で公開された『名探偵ホームズ』。イタリアと共同制作のテレビシリーズで、お蔵入り寸前だったのを、『ナウシカ』と同じ宮崎駿監督作2本をピックアップして併映したらしい。
自分もこの作品を観るのは本当に久しぶり。小学生の頃、『風の谷のナウシカ』の初日に、新宿東急で一度だけ観たきり。えらく混んでいた。上映後、なかなか外にでれなかったっけ。あのときの観客の入れ替え整理は、パニック状態だったのではないだろうか。
『ナウシカ』の上映時間が2時間弱で、この『ホームズ』2話分が50分くらい。合計の上映時間は計3時間ほど。なんだかインド映画みたい。この長丁場がちっとも苦じゃなかったから、子どものころの集中力ってすごい。
いま観なおすと、音楽のセンスこそはやっつけだったけど、テレビシリーズにしてはよく絵が動く。日本のアニメはそもそも低予算前提で製作されており、いかに動かさずに時間をもたせるかに力点がおかれる。どうしても会話劇におちいり、理屈っぽくなる。アニメーションの語源のラテン語「アニマ」が、「不動のものに命を与え動かすこと」にもかかわらず、動かない。
『ホームズ』の絵が動くと言っても、もちろん動きを節約するところは極力おさえてる。演出の緩急が絶妙。カタルシスに達するところは、フルアニメーションになる気持ちよさ。ストーリーなんてあってないようなもの。やはりアクションが見せ場!
宮崎駿監督ののちの活躍を知って、若かりし日の作品をみると、後続する作品のエッセンスがチラホラ見受けられる。いちばん感じたのは声優さんの演技。本作で演じてる声優さんが、他の宮崎監督作品で、別のキャラクターで同じ芝居をしていたりする。
声優さんの芝居が面白かったのか、そのままを次回作で流用してる。別の作品で、違うキャラクターなのに、「またあの人でてきたよ」っていう既視感。昔のアニメにはよくあることだったらしい。
スタジオジブリが新作を作らなくなり、すっかりアニメといえばディズニーなどの海外のCG作品ばかり観るようになってしまった。日本は古典芸能のように、手描き2Dにこだわり続けている。2Dアニメは、今では海外でも珍しいので、これはこれでガラパゴスな文化。偏った客層なのもわからないでもない。
しかし、3DCGの滑らかなリアルな動きに慣れてしまうと、日本のアニメは紙芝居にも見えてしまう。
宮崎駿監督のジブリ作品は、わかりやすいエンタメ表現の中に、高尚なテーマをちょっぴり混じらせている。アニメ作品のワクを超えた理由だろう。それゆえ海外では、ジブリ作品は、一般作というよりは芸術作品として捉えられている。
ちなみに『ホームズ』はこの説教くささはまったくない。その脱力感が今となっては新鮮。
極端に言ってしまうと、日本のアニメがすごいというよりは、ジブリ作品がすごかっただけなのかも?と、最近は思えてしまう。きっと時代が変わったのだろう。
関連記事
-
-
『コクリコ坂から』 横浜はファンタジーの入口
横浜、とても魅力的な場所。都心からも交通が便利で、横浜駅はともかく桜木町へでてしまえば、開放
-
-
『もののけ姫』女性が創る社会、マッドマックスとアシタカの選択
先日、『マッドマックス/怒りのデスロード』が、地上波テレビ放送された。地上波放送用に、絶妙な
-
-
『王と鳥』パクリじゃなくてインスパイア
先日テレビで放送された 『ルパン三世・カリオストロの城』(以下『カリ城』)、
-
-
『間宮兄弟』とインテリア
江國香織さん原作の小説を、故・森田芳光監督で映画化された『間宮兄弟』。オタクの中
-
-
『風立ちぬ』 招かざる未来に備えて
なんとも不安な気分にさせる映画です。 悪夢から覚めて、夢の内容は忘れても、 ただただ不安
-
-
『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』 野心を燃やすは破滅への道
今年2023年の春、自分は『機動戦士ガンダム』シリーズの『水星の魔女』にハマっていた。そんな
-
-
『SLAM DUNK』クリエイターもケンカに強くないと
うちの子どもたちがバスケットボールを始めた。自分はバスケ未経験なので、すっかり親のスキルを超
-
-
映画づくりの新しいカタチ『この世界の片隅に』
クラウドファンディング。最近多くのクリエーター達がこのシステムを活用している。ネ
-
-
『時をかける少女』 永遠に続く人生の忘れ物
細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』が公開されるにあたり、彼の出世作である『時をかける少女
-
-
『団地ともお』で戦争を考える
小さなウチの子ども達も大好きな『団地ともお』。夏休み真っ最中の8月14日にNHK
- PREV
- 『ブラック・スワン』とキラーストレス
- NEXT
- 『ファインディング・ドリー』マイノリティへの応援歌