『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』これからのハリウッド映画は?
マーベル・ユニバース映画の現時点での最新作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』をやっと観た。アベンジャーズシリーズの最終作『アベンジャーズ:エンド・ゲーム』の後日談ということで、正直「まだやるんだ〜」という気持ちは拭えない。それもそのはず、『アベンジャーズ:エンド・ゲーム』が、華々しくシリーズの有終の美を飾ってくれたから、ロスになる間も無く続編が発表されてもね。
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』の予告編でも、喪失感溢れるような印象づくりをしていた。だから本編が始まってからの、前作をおちょくったオープニングにはやられてしまった。おそらくマーベルシリーズの映画の中で、もっとも明るい作品かもしれない。
スパイダーマンは普段は高校生。この映画は、修学旅行でヨーロッパ旅行に行く生徒たちを描く青春映画。ヨーロッパ巡りなんて、なんてリッチな学校だろう。スパイダーマンは、私立校に通う優等生。当然友だちたちも優秀な生徒たち。それでも若者が集まれば、起こることはたいていの同じような出来事ばかり。そこに世界を守る任務を絡めてくるから、身近なことが壮大な世界へつながるファンタジー。世界の平和を守ることと、彼女に告白することは、個人では同レベルの重要性。
この映画はロードムービーの楽しさもある。スパイダーマンの撮影地になった土地の観客は、この映画をさらに楽しめたことだろう。普段見慣れた風景が、ハリウッド映画に登場して、破壊されてしまったらさぞかし嬉しい。それはエンターテイメントのなせる技。フィクションだから許される。
この映画の撮影で、ハリウッドの撮影隊と、現地の映画人が共同して製作したのは想像できる。ハリウッド映画の人気シリーズが撮影されることは、その土地にとって名誉なこと。そして撮影招致することは、その土地をアピールに留まらず、世界標準のエンターテイメント映画製作のノウハウを学ぶ機会にもなる。
そういえば以前読んだヒロ・マスダ氏の『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー』という本によると、莫大な製作費をかけたハリウッド映画を招致することで、その地域の雇用が大きく潤うらしい。エンターテイメントや芸術のソフトパワーは、日本人が想像する以上に大きい。その国の経済を動かすこともあるだろうし、国の知名度も上げることもできる。アメリカが世界の番長でいられるのも、ソフトパワーによるもの。それには中国も追随してる。映画ファンの視点から見ると、エンタメに力を入れている国は経済的に乗ってる国だ。
日本は昔から映画撮影の招致には非協力的。自国の作品ですら、なかなか撮影許可がおりない。『アベンジャーズ:エンド・ゲーム』の日本の場面は、他国にてのセット撮影だ。
さて、このコロナ禍でハリウッド自体が止まってしまった。アメリカではいまだに映画館の営業が通常状態に戻っていない。新作も滞り、マーベルシリーズの次回作も公開が待たれる。
でもなんだかこのペースダウンも悪くない。ブロックバスターな量産的なハリウッド映画のリリース本数が減ったところで、自分の生活にあまり困ることはない。むしろここのところの煽られるような新作映画ラッシュには疲れ果てていた。新しい映画の話題に振り回されすぎて、一本一本の映画に丁寧に向き合えていない。なんとなく寂しかった。
映画は観た本数よりも、いかに何かを感じたかが大事。思い入れもなく過ぎ去っていく無数の映画に流されるのは、なんだか物足りない。気に入った映画を何度も観直す余裕すら奪われている。
映画は自分の人生とシンクロする。あの時あの頃、あの場所であの映画を観たっけなという記憶は、かけがえのないものだ。映画の量産消費社会では、そんな思い出もつくりにくい。
まあどんなに世の中が「話題の映画を観ろ!」と煽ってきても、それに流されることもなく、本当に観たい映画だけを観ていくという自制力も、今の時代には必要なのかもしれない。多すぎる映画の中から、気に入りそうな一本を選んでいくセンス。映画を観るリテラシー。
新作映画リリースが鈍くなったコロナ時代。このゆっくりなペース、自分は案外好きだ。見逃した映画を振り返るのにもいい。つくづく趣味は自分でコントロールしてこそ楽しむものなのだと実感する。
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