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『ブラック・クランズマン』明るい政治発言

公開日: : 映画:ハ行

アメリカではBlack Lives Matter運動が盛んになっている。警官による黒人男性に対する暴力的な職質で、死に至らしめたことが原因だ。コロナによる自粛や、白人至上主義のトランプ政権に息苦しさを覚えていた市民たちの怒りが爆発したのだろう。

Black Lives Matter運動がアメリカ中を駆け巡る前に、この映画『ブラック・クランズマン』が公開された。映画は『風と共に去りぬ』の南北戦争の場面から始まり、現代のBlack Lives Matter運動の場面で終わる。

そういえば『風と共に去りぬ』が、黒人差別にあたる描写があるといことで、配信中止になったのは、この『ブラック・クランズマン』と関係があるのだろうか?

監督のスパイク・リーといえば、『ドゥ・ザ・ライト・シング』や『マルコムX』など、黒人差別を取り上げた政治的なエンターテイメント作品で有名。この『ブラック・クランズマン』は、重く暗くなりそうなテーマを、明るく軽快に楽しい作品として描いている。

社会告発的な政治的映画は、どうしても肩肘張ったガチガチ映画になりがちだ。深刻な題材を、ときにコメディタッチに、ときにスリリングに描くスパイク・リーの演出には、大人っぽさを感じる。

黒人警官が、白人至上主義のレイシスト集団KKKに潜入操作をするという話。信じられないような実話が元になっている。原作はロン・ストールワースの実体験に基づいているのだろう。現実は小説より奇なり。このコロナ禍では、トンデモない出来事が、日常でもすぐ起こりかねなくなった。Black Lives Matterのデモがアメリカ中で起こる前に、この映画が発表されたことに先見の明を感じる。いや、海の向こうではすでに問題はくすぶっていたのかもしれない。

主人公のロンを演じるのはジョン・デヴィッド・ワシントン。スパイク・リーの『マルコムX』を演じたデンゼル・ワシントンのご子息。スパイク・リーとワシントン家は、家族ぐるみの交流があるのかしら?

劇中で、KKKの差別思想が蔓延したのは、映画などのエンターテイメントを通してのプロパガンダだと黒人の老人が語る。でも『ブラック・クランズマン』も映画。このパラドックスが興味深い。とかくエンターテイメントはプロパガンダに利用されやすい。スパイク・リーは劇中で自説を唱えながらも、「俺の言葉や、この映画をそのまま鵜呑みにするなよ。考えるのはあなた自身だよ」と声なき声で語っている。

いま、世界中に偏った思想が蔓延りつつある。いや、以前からもそうだったのかも知れないが、ネット社会になって顕著に現れるようになった。差別思想はアメリカだけの問題ではなく、ここ日本でも憂慮すべき問題だ。

差別思想、白人至上主義はどこから来るのか? 作中でも触れられている蔑称「レッドネック」と言われる人々。貧しい人々が、苦しい日々の生活の憂さを晴らすために、自分より下層な人々やマイノリティを攻撃する様がズバリそのもの。その縮図は、日本も同じ。

以前NHKで、若者の貧困を特集する番組の中、ひとりの女子高生がフューチャーされた。彼女がパソコンを所持していたり、1,000円のランチを食べたということで、「彼女は貧困ではない!」と大炎上したことがあった。まさに自分より弱い者への攻撃。

パソコンを持っていようが、1,000円のランチを食べようが、それでリッチだと判断するのは浅はかだ。現代では、日々帰る家がない人でもスマホだけは持っている時代。服だって、ファストファッションを駆使すれば、数百円で衣装持ちになれる。現代は一眼で貧困が判断しづらい。

日本の社会では、正規社員と非正規社員の構造などもそれにあたる。毎日残業や休日出勤で酷使されている正社員のはけ口に、非正規社員を導入している企業もある。現代の差別制度。士農工商えたひにん。

ただ、実際のところ「えたひにん」は、生活こそは貧しかったが、「士農工商」よりも人間らしい自由なところもあったらしい。ときの政府は、職業持ちの生活の苦しさを知った上で、「士農工商」よりも下の身分をつくったらしい。自分たちより下の身分がいるということで、己の尊厳をなんとか維持しようとさせようとするシビリアンコントロール。

そういえば、先のNHKの番組炎上の女子高生への攻撃には、一部の政治家も加担していたっけ。

ロンとバディになる白人のフィリップ役はアダム・ドライバー。『スターウォーズ』のカイロレン役から大好きな役者さんだ。

フィリップは白人だがユダヤ系。今のいままで、自分がユダヤ系だということはあまり意識していなかった。KKKに潜入することで、自分が差別される側だと実感する。差別というのは、されてみて初めて怒りを感じるもの。日本人みたいな黄色人種だって、白人至上主義からは差別の対象だ。海外旅行をすれば、すぐ差別に合うもの。だからこの映画は他人事ではない。

フィリップが理不尽な差別に合う姿がスリリング。ヌンっとしたアダム・ドライバーが怒りをこらえている姿が面白い。潜入操作をぶち壊しにするんじゃないかと、いろんな意味でハラハラする。コメディ要素がいっぱい。

差別主義は人道的に恥ずべき心理だ。そんな卑賤な行いの挑発にのるより、おちょくって恥をかかせてやる方がいい。「差別なんてダサいことやってるの? カッコ悪りぃ」って。

おそらく差別は永遠になくならないだろう。でも、それがクールじゃないってことを多くの人が認識することで世の中が変わっていく。不寛容な社会から、より良くなる方法はいくらでもあるはずだ。

いま起こっているBlack Lives matterデモも平和的に行われている。むしろトランプ政権の方が、暴力的な対応をしようとしている姿が世界に報道されている。海の向こうの我々日本人は、これをみてどう学ぶか? 誰がどう言ったからではなく、自分自身の考えはどうなのか?

日本人は、なんでもかんでも自己犠牲してしまうところがある。でも、それでは済まされない状況になりつつある。「自分で考える力」を身につけないと、次世代のグローバル社会は生きていけない。

映画はカタルシスも用意されているが、それだけでは終わらない。白黒はっきりしない問題の根深さ。

ただ、今回のコロナ禍で世界は大きな潮目にきている。さまざまな不正も露呈され、各国の雲泥がはっきりしてきた。良いところはどんどん伸びていく。逆に悪いところは、笑えるくらいに転がっていく可能性がある。

コロナが落ち着いたとき世界がどうなっているか? そのときこそ個々の「考える力」が試されるのかもしれない。いまはそのときに備えるしかない。

うだつが上がらないとき、責め立てる方向を間違えると、自分自身の首を絞めてしまう。下に強くでるのはカッコ悪い。

人事を尽くして天命を待つ。自分自身がベストを尽くしても、状況が好転しないときは、社会とかの大きなシステムが破たんしているから。そんな時はジタバタしても仕方がない。とりあえず、今日一日を頑張って生き抜くに限ります。

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