*

『インセプション』 自分が頭が良くなった錯覚に堕ちいる映画

公開日: : 最終更新日:2021/02/28 映画:ア行

クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』。公開当時、映画館で観たがさっぱり乗れなかった。なんで人気があるのかと、蚊帳の外に放り出された気分になったのを覚えている。ノーラン監督の新作『テネット』も公開されたし、いまブームの『鬼滅の刃 無限列車編』も『インセプション』の元ネタだし、あらためて観直してみた。前言撤回、面白かった!

映画は夢の中の情報を盗むスパイの話。荒唐無稽になりかねない設定を、ハードボイルドタッチで大真面目に観客を説得してくる。映画の中での設定を、上映時間の半分の一時間費やして説明してる。自分が前回乗れなかったのは、この理屈責めなところ。なんだか理数系の講義を聞いてるみたい。眠くなってしまった。この前半で飽きてしまうと、後半のアクション部分は何が起こっているのかさっぱりわからない。

クリストファー・ノーランは、ゴリゴリのオタク気質な監督。理数系で、人の心の機微には基本的には興味ない。ドラマがないエンターテイメント作品が、単純に当時の自分には受け付けられなかった。でも、理屈だけで進んでしまう大作映画があってもいい。「映画はこうあるべきである」というこだわりが、この映画の面白さを理解する弊害となった。

『インセプション』は、いまから10年前の2010年作品。出演してる役者さんたちは、今ではみんな主役格。トム・ハーディが若い!

硬派に決めてる『インセプション』だけど、唯一浮いてると感じたのはエレン・ペイジ。おじさんばかりのキャスティングの中での紅一点。それも萌えアニメのようなブリブリ感。同性には嫌われそう。いかにもオタクのおじさん好みのルックス。エロとは関係ない映画なはずなのに、ものすごくイヤらしい感じがしてくる。実は硬派になりきれていないところも、この映画のオタクっぽさでもある。

エレン・ペイジはこの映画の後に、自身が性的マイノリティであることをカミングアウトしている。ブリブリ萌えキャラを割り切って演じていることに、生きづらさを感じてしまう。エレン・ペイジは、おじさんの妄想を具現化するような役ばかりだった。10年たってこのセクハラみたいな役割は、どう見えてくるのだろうか。

クリストファー・ノーラン作品は、完全なるホモソーシャル世界のエンターテイメント。観賞後いろいろ講釈したくなる。オタク魂を疼かせる。でも人様の作ったものにぶら下がるのは、カッコ悪いからやめておこう。せめてウチウチで、「あーでもないこーでもない」と語り合う程度で留めておこう。

「カッコいい」という概念は、時代の流行に左右される。『インセプション』は、まだまだ「カッコいい」部類の映画だろうけど、あと10年経ったら、世の中の価値基準が変わってどうなっているかわからない。「あの頃はこんな感じだったんだね」と、古い価値観の標識みたいな映画にもなりかねない。ウェルメイドではない。

良く言えば「時代を象徴した映画」。「カッコいい」と「ダサい」は紙一重。何事もハマりすぎると、時代や世の流れを見落としてしまう。オタク気質はほどほどに。エンターテイメントとの距離感を考えさせられる映画でもあるのがとても皮肉で、笑えてしまう。

関連記事

『イカゲーム』 社会風刺と娯楽性

いま韓国サブカルチャーが世界を席巻している。ポン・ジュノ監督の『パラサイト』が韓国語で制作さ

記事を読む

no image

日本映画の時代を先行し、追い抜かれた『踊る大走査線』

  『踊る大走査線』はとても流行ったドラマ。 ドラマが映画化されて、国民的作品とな

記事を読む

no image

夢は必ず叶う!!『THE WINDS OF GOD』

  俳優の今井雅之さんが5月28日に亡くなりました。 ご自身の作演出主演のライ

記事を読む

no image

さよならロビン・ウィリアムズ = ジーニー『アラジン』

  ロビン・ウィリアムズが 8月11日に亡くなったそうです。 彼の作品には名

記事を読む

『犬ヶ島』オシャレという煙に巻かれて

ウェス・アンダーソン監督の作品は、必ず興味を惹くのだけれど、鑑賞後は必ず疲労と倦怠感がのしか

記事を読む

『推しの子』 キレイな嘘と地獄な現実

アニメ『推しの子』が2023年の春期のアニメで話題になっいるのは知っていた。我が子たちの学校

記事を読む

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』 それは子どもの頃から決まってる

岩井俊二監督の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を久しぶりに観た。この映画のパロ

記事を読む

no image

DT寅次郎がゆく『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場 』

  雑誌『映画秘宝』に現在も連載中の記事を再編集されたもの。普通の映画評論に飽きたら

記事を読む

『イニシェリン島の精霊』 人間関係の適切な距離感とは?

『イニシェリン島の精霊』という映画が、自分のSNSで話題になっていた。中年男性の友人同士、突

記事を読む

no image

『WOOD JOB!』そして人生は続いていく

  矢口史靖監督といえば、『ウォーターボーイズ』のような部活ものの作品や、『ハッピー

記事を読む

『新幹線大爆破(Netflix)』 企業がつくる虚構と現実

公開前から話題になっていたNetflixの『新幹線大爆破』。自

『ラストエンペラー オリジナル全長版」 渡る世間はカネ次第

『ラストエンペラー』の長尺版が配信されていた。この映画は坂本龍

『アドレセンス』 凶悪犯罪・ザ・ライド

Netflixの連続シリーズ『アドレセンス』の公開開始時、にわ

『HAPPYEND』 モヤモヤしながら生きていく

空音央監督の長編フィクション第1作『HAPPYEND』。空音央

『メダリスト』 障害と才能と

映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自

→もっと見る

PAGE TOP ↑