*

『世界の中心で、愛をさけぶ』 フラグ付きで安定の涙

公開日: : 最終更新日:2022/04/24 映画:サ行, 映画館,

 

新作『海街diary』も好調の長澤まさみさんの出世作『世界の中心で、愛をさけぶ』、通称『セカチュー』。公開から既に10年以上経つこの映画。もう話題にするのも恥ずかしいくらいの大ヒット作。片山恭一氏の原作小説も売れ、当時人気若手監督だった行定勲監督作。これが遺作となる篠田昇氏のカメラワーク。スタッフも豪華。原作が売れれば映画もヒットするのでは? という幻想が未だに続くきっかけとなった作品でもある。

この作品で特徴なのは長澤まさみさんが演じる主人公が病によって死ぬということをあらかじめ観客に伝えているということ。「この人、この後死ぬからね」の約束のもとに映画が進んでいくのです。本作後、パートナーの片方が病で倒れていくのが見せ場となった恋愛ものの如何に多いことか!? これらの「難病恋愛もの」も、あらかじめ死ぬことを約束された登場人物の話。

人生、いつ死がやってくるかわからない。そして必ずすべての人に死はやってくる。死をあらかじめ予告されることで、死の葛藤から逃げているよう。なんでも今、「人の死」をふくめて、人生の困難をネガティブとみる傾向がある。本当はその困難を越えていくことが最大のドラマのはず。ネガティブと思しき題材を扱ったことで起こるクレームが怖いばかりに、表現のわくを制作側で勝手に閉じてしまっているのだ。

軽はずみにクレームを発することの問題。いま作り手に簡単に文句を言えすぎるのかも知れない。イヤなら観なければいいだけなのに。ちょっとやそっとのクレームに動じないくらいの信念も制作者側に持って欲しい。人の心を動かすのには、それなりの覚悟が必要。それに、「死」はネガティブなものではない。

人は死を意識するからこそ一生懸命生きる。死ぬことと対峙することは、自分の人生を大切に考えることのきっかけにもなる。いま長寿ばかりが善かれとされている風潮がある。長いばかりの人生が果たして意味のあるものなのだろうか? 生ける屍となって、ネット漬けや金に縛られて体が動かなくなるよりももっと実感のある生き方もあるのではないだろうか?

むやみやたらに「生き残る」ことに執着するのは、一生懸命生きていない証拠。物語で「死」を扱うのは勇気のいること。だからこそ触れていかなければいけない題材。「死」はネガティブだから扱えないという頭の固いことを言っているようじゃ、今後日本で良質な作品は生まれてこないでしょう。さらに、「死」を茶化すのは、もっとも不真面目なこと。とはいえ難病ものでお涙頂戴は、鉄板なのだろうけど。

関連記事

『進撃の巨人』 残酷な世界もユーモアで乗り越える

今更ながらアニメ『進撃の巨人』を観始めている。自分はホラー作品が苦手なので、『進撃の巨人』は

記事を読む

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』 カワイイガンダムの積年の呪い

アニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が面白い。初期の『機動戦士ガンダム』は、自分は超どスト

記事を読む

no image

映画化までの長い道のり『のぼうの城』

  鳥取市のマスコットキャラクター 『かつ江(渇え)さん』が批判を受けて非公開にな

記事を読む

『映画大好きポンポさん』 いざ狂気と破滅の世界へ!

アニメーション映画『映画大好きポンポさん』。どう転んでも自分からは見つけることのないタイプの

記事を読む

『スターウォーズ展』 新作公開というお祭り

いよいよ『スターウォーズ』の新作公開まで一週間! 街に出れば、どこもかしこもスターウォーズの

記事を読む

『トクサツガガガ』 みんなで普通の人のフリをする

ずっと気になっていたNHKドラマ『トクサツガガガ』を観た。今やNHKのお気に入り俳優の小芝風

記事を読む

no image

『それでもボクはやってない』隠そうとしてもでてくるのが個性

  満員電車で痴漢と疑われた男性が、駅のホームから飛び降りて逃走するというニュースが

記事を読む

no image

『坂本龍一×東京新聞』目先の利益を優先しない工夫

  「二つの意見があったら、 人は信じたい方を選ぶ」 これは本書の中で坂本龍

記事を読む

no image

『ファイト・クラブ』とミニマリスト

最近はやりのミニマリスト。自分の持ちものはできる限り最小限にして、部屋も殺風景。でも数少ない持ちもの

記事を読む

『アナと雪の女王2』百聞は一見にしかずの旅

コロナ禍で映画館は閉鎖され、映画ファンはストレスを抱えていることだろう。 自分はどうか

記事を読む

『アバウト・タイム 愛おしい時間について』 普通に生きるという特殊能力

リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム』は、ときどき話

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラ

『世にも怪奇な物語』 怪奇現象と幻覚

『世にも怪奇な物語』と聞くと、フジテレビで不定期に放送している

『大長編 タローマン 万博大爆発』 脳がバグる本気の厨二病悪夢

『タローマン』の映画を観に行ってしまった。そもそも『タローマン

『cocoon』 くだらなくてかわいくてきれいなもの

自分は電子音楽が好き。最近では牛尾憲輔さんの音楽をよく聴いてい

→もっと見る

PAGE TOP ↑