*

『ふがいない僕は空を見た』 他人の恋路になぜ厳しい?

公開日: : 最終更新日:2021/05/20 映画:ハ行,

デンマークの監督ラース・フォン・トリアーは
ノルウェーでポルノの合法化の活動の際、発言している。
「女性も人がセックスをしている様を見るのが好きだが、
物語を無視してそこばかりをみせられるのを嫌う」

本作の原作は「女による女のためのR18文学賞」をとった
窪美澄さん著の短編からなる連作。
同じ時間軸を各章、主人公をかえ、
すべて一人称で描かれている。

性に溺れて行く物語で、
ハッピーエンドになるはずもない。

「バカな恋愛をしたことのない奴がいるか」
と本編中の台詞でもあるが、その類いの恋愛像。

よく若い頃は「映画やドラマみたいな恋がしたい」
と言うが、本当の恋愛というものは
それほどドラマチックなものではない。
波瀾万丈でない方が幸せな恋愛なのだ。

シナリオ学校に通っていたとき、
講師が言っていました。

「ドラマは面白おかしくみせるために、
毎回ハプニングを考え、織り込んでいく。
日常でこんな事がいつも起こってしまっては、
普通の生活はできなくなる。
映画やドラマみたいな恋は反面教師にしてください」

現実世界と創作物語とは本来違うもの。
この違いは今までは誰もが了解済みで
映画やドラマを観ていたと思う。
いつからかその垣根がごちゃ混ぜになってしまったか。

現実の恋愛や結婚がどいったものか、
自分の頃は人生の先輩がそれとなく
教えてくれていたと思うが、
今はそんな先輩もいなくなっているかも知れない。

20代はじめの頃、勤めていた会社で、
同年代の子たちの社内恋愛が加熱して、
収集つかなくなったことがある。

自分はなんとなく遠目でみていた。
結局傷害事件みたいになってしまった。

「お前は映画や本をよく読んでいるから
おかしな事はしないんだな」と上司に言われた。
自分は単純に恐がりなだけだけど……。

この作品、映画と原作のブレはない。
原作だけ映画だけの場面もあるが、どちらも良かった。
映画化で作品の根幹が揺らぐ事はなかったのです。

テーマは「性と生」。

監督は女流のタナダユキさん。
原作も女性、監督も女性ということで
読後観賞後の印象を変える事なく、
ドロドロの世界観にもであっても、
女性らしい美しい作品に仕上がったのだと思います。

思うのは、いまやアニメとエロは
ほぼ同義語となってしまっているようです。

 

関連記事

『MEGザ・モンスター』 映画ビジネスなら世界は協調できるか

現在パート2が公開されている『MEGザ・モンスター』。このシリーズ第1弾を観てみた。それとい

記事を読む

no image

戦争は嫌い。でも戦争ごっこは好き!! 『THE NEXT GENERATION パトレイバー』

  1980年代にマンガを始めOVA、 テレビシリーズ、劇場版と メディアミック

記事を読む

no image

『リップヴァンウィンクルの花嫁』カワイくて陰惨、もしかしたら幸福も?

  岩井俊二監督の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』。なんともややこしいタイトル。

記事を読む

『ベイマックス』 涙なんて明るく吹き飛ばせ!!

お正月に観るにふさわしい 明るく楽しい映画『ベイマックス』。 日本での宣伝のされかた

記事を読む

『赤毛のアン』アーティストの弊害

アニメ監督の高畑勲監督が先日亡くなられた。紹介されるフィルモグラフィは、スタジオジブリのもの

記事を読む

『鬼滅の刃 遊郭編』 テレビの未来

2021年の初め、テレビアニメの『鬼滅の刃』の新作の放送が発表された。我が家では家族みんなで

記事を読む

『帝都物語』 混沌とした世にヤツは来る!!

9月1日といえば防災の日。1923年の同日に関東大震災で、東京でもたいへんな被害があったこと

記事を読む

『SHOGUN 将軍』 アイデンティティを超えていけ

それとなしにチラッと観てしまったドラマ『将軍』。思いのほか面白くて困っている。ディズニープラ

記事を読む

no image

『ブラック・スワン』とキラーストレス

  以前、子どもの幼稚園で、バレエ『白鳥の湖』を原作にしたミュージカルのだしものがあ

記事を読む

『ベニスに死す』美は身を滅ぼす?

今話題の映画『ミッドサマー』に、老人となったビョルン・アンドレセンが出演しているらしい。ビョ

記事を読む

『ケナは韓国が嫌いで』 幸せの青い鳥はどこ?

日本と韓国は似ているところが多い。反目しているような印象は、歴

『LAZARUS ラザロ』 The 外資系国産アニメ

この数年自分は、SNSでエンタメ情報を得ることが多くなってきた

『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』 みんな良い人でいて欲しい

『牯嶺街少年殺人事件』という台湾映画が公開されたのは90年初期

『パスト ライブス 再会』 歩んだ道を確かめる

なんとも行間の多い映画。24年にわたる話を2時間弱で描いていく

『ロボット・ドリームズ』 幸せは執着を越えて

『ロボット・ドリームズ』というアニメがSNSで評判だった。フラ

→もっと見る

PAGE TOP ↑