*

自国の暗部もエンタメにする『ゼロ・ダーク・サーティ』

公開日: : 最終更新日:2019/06/15 映画:サ行

 

アメリカのビン・ラディン暗殺の様子を
スリリングに描いたリアリスティック作品。

冒頭から延々とアルカイダ党員の拷問の場面。
CIAの悪評も恐れない、イヤな場面の連続。
正義の名のもとの報復戦争。

よくもまあ、まだ熱も冷めぬ時期に
こんな作品を世界配給で公開したものだ。

主人公は若い女性の分析官。
男社会でバリバリ働く女性が主人公の話は、
本来は小気味好いものなのですが、
あまりに重い作品なので、
このキャラクター設定は潤滑剤程度の狙いでしょう。

演出をしているのが、
女流監督のキャスリン・ビグローで、
この人は男っぽい社会派作品や
アクション映画ばかり撮っている。

メガヒットメーカー、
ジェイムズ・キャメロンの元妻。

いつも男が主人公の映画ばかりなので、
今回は彼女自身とダブって見える。
タフで才女で美人……。

正義というのは、見る角度が違えば悪にもなる。
アメリカからみたらアルカイダはテロリスト。
だが相手から見れば、侵略の悪の帝国。

ビン・ラディンを追う主人公たちは、
逆にアルカイダからは命を狙われる。
きれいごとではすまされない。

ニュースで伝えられているとおり
ビン・ラディンの殺害は成功します。
彼とその側近たちは、
彼らの家族の目の前で殺されます。

暴力はさらに新たな暴力を生むでしょう。
恨みのスパイラル。

主人公の若き女性CIAは、
作戦終了後ひとりVIP待遇の迎えのヘリにのります。
アメリカの英雄の誕生です。

呆然とする彼女の表情で、映画は終わります。
そこにあるのは作戦成功の達成感だろうか?
間違いなくもう戻れないところにいる。
すでに彼女の手は血塗られているのだから。

政治的内容の本作。
力説することなく、淡々した作風には
センスを感じます。

関連記事

no image

『坂の上の雲』呪われたドラマ化

  今なお根強い人気がある司馬遼太郎氏著の『坂の上の雲』。秋山好古と真之兄弟と正岡子

記事を読む

no image

『ジュラシック・ワールド』スピルバーグの原点回帰へ

  映画『ジュラシック・ワールド』は、とても楽しいアトラクションムービーだった。大ヒ

記事を読む

no image

『スノーマン』ファンタジーは死の匂いと共に

4歳になる息子が観たいと選んだのが、レイモンド・ブリッグスの絵本が原作の短編アニメーション『スノーマ

記事を読む

『スター・ウォーズ・アイデンティティーズ』 パートナーがいることの失敗

寺田倉庫で開催されている『スターウォーズ・アイデンティティーズ・ザ・エキシビション』という催

記事を読む

no image

『ソーシャル・ネットワーク』ガキのケンカにカネが絡むと

  ご存知、巨大SNS・Facebookの創始者マーク・ザッカーバーグの自伝映画。

記事を読む

『すずめの戸締り』 結局自分を救えるのは自分でしかない

新海誠監督の最新作『すずめの戸締り』を配信でやっと観た。この映画は日本公開の時点で、世界19

記事を読む

『ソウルフル・ワールド』 今そこにある幸福

ディズニープラスを利用し始めた。小学生の息子は、毎日のように自分で作品を選んで楽しんでいる。

記事を読む

『SHOAH ショア』ホロコースト、それは証言か虚言か?

ホロコーストを調べている身内から借りたクロード・ランズマンのブルーレイ集。ランズマンの代表作

記事を読む

『スリー・ビルボード』 作品の意図を煙にまくユーモア

なんとも面白い映画だ。冒頭からグイグイ引き込まれてしまう。 主人公はフランシス・マクド

記事を読む

no image

『サクリファイス』日本に傾倒した核戦争の世界

旧ソ連出身のアンドレイ・タルコフスキー監督が、亡命して各国を流転しながら映画をつくっていた遺作となる

記事を読む

『哀れなるものたち』 やってみてわかること、やらないでもいいこと

ヨルゴス・ランティモス監督の最新作『哀れなるものたち』が日本で

『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』 長い話は聞いちゃダメ‼︎

2024年2月11日、Amazonプライム・ビデオで『うる星や

『ケイコ 目を澄ませて』 死を意識してこそ生きていける

『ケイコ 目を澄ませて』はちょっとすごい映画だった。 最

『SHOGUN 将軍』 アイデンティティを超えていけ

それとなしにチラッと観てしまったドラマ『将軍』。思いのほか面白

『アメリカン・フィクション』 高尚に生きたいだけなのに

日本では劇場公開されず、いきなりアマプラ配信となった『アメリカ

→もっと見る

PAGE TOP ↑