『虹色のトロツキー』男社会だと戦が始まる
アニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGINE』を観た後、作者安彦良和氏の作品でずっと気になっていた『虹色のトロツキー』を読んでみた。満州事変後から第二次大戦前までの話というのが興味をひいた。この時代を描いている作品はきわめて少なく、ましてや漫画で扱うなんて想像すらできなかった。主人公は蒙古人と日本人のハーフのウムボルト青年。満州の時代を扱うというだけで日本人は普通に考えて悪役になる。ウムボルトは頭がよく行動力もあり武術の達人。著者の画力もあり、きな臭いだけの狂気の時代が舞台なのに、この青年が活躍する姿はこのカタルシスを作る。
男ばかりが集まった社会では戦が始まり、女ばかりが集まった世界では諍いが始まる。世の中は男ばかりや女ばかり、偏った年齢の者ばかりが集まるとロクなことにはならない。老若男女入り交じって様々な意見が交わされていくことで、より良い社会が生まれてくる。この作品では男(軍人)たちが自分の私利私欲虚栄のために戦争を進めていく。戦争はゲームであり、その下で多くの若者が死のうがそんなことは知ったことではない。開戦の発端はたいてい領土問題。今の日本も領土でもめているが、こんなものは戦争をしたい連中の因縁付けの理由に過ぎない。この漫画『虹色のトロツキー』が連載されている中、尖閣問題が勃発しているわけだが、著者の静かな憤りを作中からも伺える。
作品には実在する人物が多勢出てくる。映画『ラストエンペラー』で坂本龍一氏が演じた甘粕正彦や、川島芳子や李香蘭、大本教の出口王仁三郎まで登場する。関東軍や旧ソ連、中国赤軍と様々な思想が交錯するので、ある意味日本ではタブーに近い内容だろう。よくもまあ書き上げたものです。もしかしてこれからの日本では発禁書になるかもしれませんね。
この作品、漫画とはいえども歴史文学としてもかなりパワーのある作品だと思います。著者は『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナーとして有名ですが、当初のアニメ作家や漫画家という人は才人が多く、なにか新しい表現を探してたどり着いたのがアニメだったりします。なので学者肌、天才肌の人物がカッコいいと思って作っていた感があります。今のアニメや漫画に携わる人たちの殆どは、アニメや漫画しか興味のない人たち。そもそもアニメや漫画は目指すべき道であってはいけないのです。いまは堕落したイメージの方が強い。
とにかく男ばかりのホモソーシャルというのはこの『虹色のトロツキー』にせよ、『機動戦士ガンダム』にせよ同じこと。女性は殆ど活躍せず、足手まといかイヤなヤツとして描かれている。女性を見下しているからこそ戦争になってしまうのかも知れない。これからまた戦争に向かっていくかも知れない日本、かなりビビットな漫画であることは言い切れそうだ。
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