*

宿命も、運命も、優しく包み込む『夕凪の街 桜の国』

公開日: : 最終更新日:2019/06/15 映画:ヤ行,

 

広島の原爆がテーマのマンガ。
こうの史代氏著『夕凪の街 桜の国』。

戦争や原爆をテーマにすると
どぎつい絵柄を想像しがちだが、
この作品のタッチは優しい。

終戦の傷跡の残る時代から現代まで、
三世代に渡る壮大な構想。

こうの史代さんは自分と同世代。
戦争を知らない世代が、
戦争に真摯に向き合います。

作品は原爆症に苦しむ人々を描き、
原爆スラムに住む差別も描いている。

被爆者に対する差別は
当時ものすごくあったと聞きます。

自分にも遠縁に被爆者の方がいたそうです。
会った事もない方です。
その方は自分が被爆者である事を秘密にし、
死ぬまで被爆者手帳も隠していたそうです。

原爆症で体がつらく、
寝たきりで働けなかったそうです。
近所から「怠け者」と
悪く言われていたそうです。

それでも被爆者の差別を受けるより
マシだったということです。

このマンガは、
こういった差別もきちんと触れています。
素晴らしいのは、声高に扇動したり、
過激な描写に走っていない事です。

この作品は映画化もされました。
映画版、同じ物語なのですが、
どうも好きになれません。

映画版は原爆症で死んで行く
登場人物たちを同情的に描き、
お涙頂戴のメロドラマに
成り下がってしまっています。

被爆者差別の要素も薄まっています。

映画版はどう死んで行ったかを
描くかわいそうな物語。
原作は逆境の中どう生きて行ったかを
描く希望の物語。

同じ物語なのにテーマがすり替わっている。

現代の主人公が、
もうこの世にいない母を想い、
「私は確実にこの人たちを
選んで生まれてきた」
自分のルーツを誇る場面は、優しく力強い。

人生、長生きすれば良いような
風潮があるけれど、
もっと大切な事があると
感じさせる作品です。

関連記事

no image

『ジュブナイル』インスパイア・フロム・ドラえもん

  『ALWAYS』シリーズや『永遠の0』の 山崎貴監督の処女作『ジュブナイル』。

記事を読む

no image

『NHKニッポン戦後サブカルチャー史』90年代以降から日本文化は鎖国ガラパゴス化しはじめた!!

  NHKで放送していた 『ニッポン戦後サブカルチャー史』の書籍版。 テレビ

記事を読む

no image

高田純次さんに学ぶ処世術『適当教典』

  日本人は「きまじめ」だけど「ふまじめ」。 決められたことや、過酷な仕事でも

記事を読む

『イニシェリン島の精霊』 人間関係の適切な距離感とは?

『イニシェリン島の精霊』という映画が、自分のSNSで話題になっていた。中年男性の友人同士、突

記事を読む

『デューン/砂の惑星(1984年)』 呪われた作品か失敗作か?

コロナ禍で映画業界は、すっかり先行きが見えなくなってしまった。ハリウッド映画の公開は延期に次

記事を読む

no image

育児ママを励ます詩『今日』

  今SNSで拡散されている 『今日』という詩をご存知でしょうか。 10年程

記事を読む

『薔薇の名前』難解な語り口の理由

あまりテレビを観ない自分でも、Eテレの『100分de名著』は面白くて、毎回録画してチェックし

記事を読む

『龍の歯医者』 坂の上のエヴァ

コロナ禍緊急事態宣言中、ゴールデンウィーク中の昼間、NHK総合でアニメ『龍の歯医者』が放送さ

記事を読む

『東京卍リベンジャーズ』 天才の生い立ちと取り巻く社会

子どもたちの間で人気沸騰中の『東京卍リベンジャーズ』、通称『東リベ』。面白いと評判。でもヤン

記事を読む

『わたしを離さないで』 自分だけ良ければいい世界

今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ原作の映画『わたしを離さないで』。ラブストーリ

記事を読む

『Ryuichi Sakamoto | Opus』 グリーフケア終章と芸術表現新章

坂本龍一さんが亡くなって、1年が過ぎた。自分は小学生の頃、YM

『SAND LAND』 自分がやりたいことと世が求めるもの

漫画家の鳥山明さんが亡くなった。この数年、自分が子どものころに

『ハイキュー‼︎』 勝ち負けよりも大事なこと

アニメ『ハイキュー‼︎』の存在を初めて意識したのは、くら寿司で

『オッペンハイマー』 自己憐憫が世界を壊す

クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』を、日本公開

『哀れなるものたち』 やってみてわかること、やらないでもいいこと

ヨルゴス・ランティモス監督の最新作『哀れなるものたち』が日本で

→もっと見る

PAGE TOP ↑