『いだてん』近代日本史エンタメ求む!

大河ドラマの『いだてん 〜東京オリムピック噺〜』の視聴率が伸び悩んでいるとよく聞く。こちらとしては「単純に面白いよ」と、毎週楽しみに観ている。他人の評価はあまり関係ない。
大河ドラマといえば毎回、戦国時代や幕末時代の血なまぐさい争い事が描かれているもの。以前の『真田丸』なんかは、コメディタッチで知的に遊んでいたが、基本的には重く暗い。だからこの『いだてん』のように近代史が舞台になるのも新鮮だし、コメディというのが特に良い。
我が家の小学生の子どもたちも、『いだてん』なら観たいと、日曜の夜にはテレビの前に集まってくる。まさか大河ドラマを子どもたちとゲラゲラ笑いながら観ることがあるなんて夢にも思っていなかった。
とかく視聴率云々と言われがちの『いだてん』だが、振り返れば、クドカンこと宮藤官九郎さんの作品はいつも後評判の方がいい。社会現象にもなった朝ドラ『あまちゃん』だって、さほど視聴率は良くなかったらしい。ちょっと早すぎるセンスなのかも。
オリンピックが題材ということで、なにやら思想的な内容なのではと懸念した人が意外と多かったらしい。オリンピックはどうしても政治的なイベントとなってしまう。
来年の東京オリンピックを前にして、東京の主要な街では、ここ数年大工事が進んでいる。オリンピックで世界中に、近代的に栄えている日本のイメージをアピールするためだろうが、どこへ行っても工事中で、不便で汚らしい街になっているのは確か。ドラマで描かれる前回の東京オリンピックの準備工事の姿も、現代のそれよりもカオスな雰囲気だ。
自分の住んでいる国で世界的祭典が行われるのだから、もっとワクワクするものだと思っていた。オリンピック招致すれば景気が良くなると言われていたが、そんな実感もない。もしかしたらこれからピークが来るのかしら? いくら自分自身がオリンピックに興味がないとはいえ、物事を悲観的にとらえないようにはしたいものだ。果たして来年のオリンピック、どうなっているだろう?
大河ドラマ『いだてん』は、当初に懸念されていたような、オリンピック礼賛の妄信的なドラマではなかった。政治やジェンダー、人種差別など、昨今でも問題になっていることを扱っている。いや、100年前の問題が未だに解決していないのかと、がっかりもしてしまう。歴史に残る戦争や災害が、普通の生活を送っている市井の人々に、どんな風に忍び寄ってきて壊れていくのか、ドラマを通して追体験できる。
日常描写がコメディタッチで、歴史上の人物たちも実際より子どもっぽく描かれているので、視聴者は親近感を覚えずにいられない。そんな人たちが突然歴史の大波に飲み込まれてしまう姿には恐怖さえ感じる。
歴史というのは突然動き出す。ついこないだまで「自分には関係がない」と思っていたことが、いきなり当事者に駆り出されてしまうこともある。
そういえば自分がまだ2歳くらいの頃、当時近所だった井の頭公園に、片方の手や足のない軍服を着たおじさんが、ハモニカを吹いていて、道行く人から施しを受けていたのを思い出した。自分が生まれた頃はまだ戦後30年くらいしか経っていない。戦争の傷跡は、まだ世の中に生々しく残っていた。
大河ドラマというと、いつからか戦国時代か幕末時代のドラマという印象がある。以前、大河ドラマのシナリオブレーンの人の話を聞いたことがあるが、戦国時代ともなると資料が残っていないこともあるらしい。とくに女性に関しては、よほど有名な人でない限り、ほとんど記録は見つからない。だからどうしても記録とフィクションを交えないとドラマにならない。しかも伝えられている記録だって、果たしてどこまで真実なのかは確かめようがない。元を辿ればただの伝説なのかもしれない。
歴史モノの執筆は、実はファンタジーモノのそれと近い。事実を元に描くフィクションと、現実にはない世界を描くファンタジーが似ているのは皮肉だ。物事を掘り下げて描いていく世界。自分が住んでいない時代や世界に思いを運んでいくのはロマンがある。
大河ドラマが戦国時代と幕末時代ばかり行ったり来たりするのは、お茶の間向けには描きづらい時代が多いとのこと。もしかしたら近代史もそれに当たるのかもしれない。
歴史に翻弄されていくドラマの登場人物たち。彼らが特別な人間にならないように、気をつけているのがわかる。今でこそ明治大正昭和は激動の時代のように感じるが、果たして当時の人々が、今激流の真っ只中にいると感じていたかはわからない。
そうなると現代を生きる我々も、後世から見れば激動の時代を生きた人となるのかもしれない。とかく当事者は実感がないもの。海外から見た方が、自分の国の様子がわかりやすいのも然り。
近代史は学校の授業でも、足早に済ませてしまわれがち。本来は現代と直につながる歴史なので、重点を置いて学んでいかなければいけない。ドラマを通して、自分の祖父母の時代をイメージするのは、そう難しいことではない。
『いだてん』では主人公が途中で交代する。これもひとりの人生だけでは1年間面白く見せるのに無理があるからだろう。人が活躍できるのは、一生のうちでもひととき。様々な視点から、ひとつの事象を見つめていくのは面白い。思えば昔のロボットアニメも、一年の放送の半分で、主役機が変更されたものだ。そちらは大人の事情からだけど、視聴者はそれくらいの変化にはついていける。
自分は勝地涼さん演じる「美川」というキャラクターがお気に入り。近くにいたら絶対迷惑な、どーしよーもない人物。そんな大河ドラマらしからぬ登場人物がいるのも、クドカン作品の魅力。
クドカン作品は、いつも構成がしっかりしている。あの時のあれはここの伏線で、こうつながるのかと驚くこともある。これからドラマは最終段階に向かっていく。学校で駆け足で習った近代日本史と、ドラマの登場人物たちの運命と、自分自身の実体験の記憶がどうつながっていくかとても楽しみだ。
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