『映像研には手を出すな!』好きなことだけしてたい夢

NHKの深夜アニメ『映像研には手を出すな!』をなぜか観始めてしまった。
実のところなんとなく私自身、日本のアニメは避けているところがある。子どもが観てはいけないような暴力描写やポルノ的な内容が、無法地帯のように蔓延っているイメージが強い。絵が動く、本来なら子ども向けの媒体であったアニメーションなのに!
レンタルビデオ店のアニメコーナーで、子ども向け作品と一緒に、半裸の萌えアニメのジャケットが並んでいたりする。子連れで無防備にアニメコーナーへ行くのは、ちょっと危険。アニメのゾーニングは強く望む。
日本のアニメやマンガが好きだと言うと、偏った思想の持ち主か、心が病んでいるのではと思われてしまうのではないかと、ハナからガードしてしまうところがある。まあこれも偏見なのだが。
テレビアニメ『映像研には手を出すな!』の第1話のオンエアの録画予約ボタンを最初に押したのは妻だった。実写のサブカル的なコメディドラマだと思ったらしい。オタクの習性を描くようなドラマ。途中で「なんだ、アニメか!」と気がついて予約解除したらしい。
私も連続テレビアニメは観るのが面倒だと、さらさら観るつもりもなかった。夕方に放送していた番組宣伝で、我が家の子どもたちの方が観たいとのご所望。深夜アニメだし、子どもが観たらイケナイ内容だったらどうしようと一抹の不安。テレビアニメを観るのにここまで慎重にならなくてはいけないってどうゆうこと? まあそれも稀有に終わり、毎週家族でこのテレビアニメを予約録画で観ている。
『映像研には手を出すな!』は、アニメ作りを目指す三人の女学生の話。萌えアニメがニガテな私でも、このタッチなら大丈夫。日本のアニメの泥臭さを削いで、オシャレにやろうとしてる。人と人とがぶつかったり、人生の壁に立ち向かうようなドラマをメインに持ってこないのは、湯浅政明監督の特徴。カッコよければ、他に何もなくてもいいって。
アニメはアニメ作りをする女学生たちの空想と妄想を行き来する。SF作家の発想の起源を、ビジュアル的にわかりやすく観せてくれる。でもやっぱりこれって男脳。オタクおじさんたちが集まってこちょこちょアニメを作ってる姿が見えてくる。自分たちを女学生に転化してオブラートに包む。オタクはもっと意地悪だし。
テレビアニメとは思えないほど製作費がかかってる。なんでもこれから乃木坂46で実写映画化もされるとか。な〜んだ、大企業が絡んだメディアミクス企画だったのね。
劇中では身内が携わった作品も取り上げていたので、我が家ではそれも盛り上がった。製作した時間よりも、はるかに多くの時間を割いてオタクたちに語り継がれたであろう作品。
当時のスタッフたちは、アニメーションをこれからやってくる新しい芸術で、カッコいいものとして取り組んでいた。でもその頃の人たちが年老いてから口々に、「結局俺たちはダメな大人をつくってしまった」と言っている。最先端のアートを目指していたのに、社会はそれを別の方向へと持っていった。クリエーターが自分のファンを嫌うという構図。なにごとも蓋を開けて見なければわからない。とても皮肉だ。
そういえば私が高校に進学して部活探しをしていたとき、アニメ部の門扉をくぐろうとしたことがある。まだオタクなんて言葉がなかった時代。絵を動かせるなんて、単純に面白いと興味を抱いた。
部室へ見学に行くと、教室の隅っこで数人の男女の先輩たちが背を向けて談笑している。私が入ってきたら、全員が冷たい目で睨んできた。ここから出て行けと視線は語っている。あまりのノット・ウェルカムぶりに怯んだ。「しつれいしました〜」と、その教室から後ずさり。新入生を歓迎しない部活ってあるんだとカルチャーショック。そのあと普通に受け入れてくれたバドミントン部へ入部した。オタクの文化部から運動部への転進。人生の選択肢なんて、そんなもの。それが良かったか悪かったかはわからない。まあ視野が広がったから良かったのかな。
たとえ好きな作品があっても、それのファンが好きになれなかった場合、その作品自体も嫌いになってしまうこともある。どんなジャンルでも、熱狂的なファンというのは厄介だ。
でも誰にだって、闇雲に自分の好きなものだけにのめり込みたい願望というものもある。生活や人間関係もまったく忘れて、ただ好きなことだけに没頭したい。「しがらみ」なんて私たちの世界には存在しない。そんな夢を叶えてくれるファンタジーがこのアニメなのかもしれない。現実によく似た、でも現実にはありえないファンタジー。
「何かになる夢」に向かう物語ではなく、「夢を見ることに夢をみる」という、かなり乾いた現代的な視点だろう。夢を見ることすら難しい社会での、逃避系エンターテイメントだ。まあ、アニメは基本的には現実逃避なんだけど。
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