『はだしのゲン』残酷だから隠せばいいの?
明日8月6日は広島の原爆の日ということで、『はだしのゲン』ドラマ版の話。
小学校の学級文庫には必ずあった『はだしのゲン』。自分が小学生だった頃は、マンガが学校においてあること自体奇跡だった。なので騙されて読んでしまうのだけれど、この作品は広島の原爆の物語。途中からは残酷な場面が連続して、自分はもうホラーマンガのごとく怖がって読んだものです。ただホラーと違うのは、この地獄絵図はニセモノではなく実際に起こったこと。それがもうショックだった。
数年前、この『はだしのゲン』を学校図書に置かないという動きがあった。原作者の中沢啓治氏が亡くなってすぐだったので、なんだか卑怯な感じがしたものです。小学図書からの撤去理由はさまざまだったが、やはりこの作品の根底には戦争への怒りがある。悲しみよりもはるかに大きな怒り。そして左寄りの思想へ向かっていく後半部分を危惧したのかも知れない。もちろん小学生の段階から偏った思想に向かうのは感心できないが、それならば右の本も読んでみたり、多角的に物事を見る目を養ってあげる方が正しい。蓋をするのはやましいことがあるからなのではと疑ってしまう。
この作品は2007年にテレビドラマ化された。残酷な表現もテレビ放映用にマイルドに演出されている。そうなることによって「ああこんな話だったのか」と、物語の骨格がしっかりとみえてきて、初見のような感想を持つトンチンカンな自分がいた。弟役の子がマンガ原作にそっくりなのね。中井貴一さんが演じるゲンのお父さんは、戦時中の管理の厳しい中でも自分の意見をしっかり通す立派な人。その時に自分の意思表示をハッキリさせるということはどれだけ勇気のいることか。もちろん周囲から心ない迫害にもあいます。なにが正しいのかわからなくなります。そんなお父さんも原爆のとき姉と弟と共に死んでしまう。どんなに立派な人でも死んでしまうという。子どもが怯えながら死んでいく場面はとてもかわいそう。戦争の理不尽さを伝える重要な悲しい場面です。これは海外の人でも共感できるはず。
まだ小さな自分の子ども達も、いずれは戦争の残酷さを伝える本や物語に触れることでしょう。自分も小学生低学年のときに原爆のことを知り、夜寝れなくなったことを覚えている。あのときの衝撃はいまでも鮮明に記憶している。ウチの上の子は感受性が強いから、きっとショックで泣くだろうな。気の毒だな。そのときせめて一緒に泣いてあげよう。そして落ち着いたら話し合おう。戦争のこと、人生のことについて。
関連記事
-
-
『高慢と偏見(1995年)』 婚活100年前、イギリスにて
ジェーン・オースティンの恋愛小説の古典『高慢と偏見』をイギリスのBBCテレビが制作したドラマ
-
-
夢物語じゃないリサーチ力『マイノリティ・リポート』
未来描写でディストピアとも ユートピアともとれる不思議な映画、 スピルバーグ
-
-
『ふがいない僕は空を見た』 他人の恋路になぜ厳しい?
デンマークの監督ラース・フォン・トリアーは ノルウェーでポルノの合法化の活動の際、発言して
-
-
『プリキュアシリーズ』 女児たちが憧れる厨二
この『プリキュアシリーズ』 今年は10周年との事。 ウチの幼稚園の娘も大好きで、 何度
-
-
『日本のいちばん長い日(1967年)』ミイラ取りがミイラにならない大器
1967年に公開された映画『日本のいちばん長い日』。原作はノンフィクション。戦後20年以上経
-
-
『怒り』 自己責任で世界がよどむ
正直自分は、最近の日本のメジャー映画を侮っていた。その日本の大手映画会社・東宝が製作した映画
-
-
『ペンタゴン・ペーパーズ』ガス抜きと発達障害
スティーヴン・スピルバーグ監督の『ペンタゴン・ペーパーズ』。ベトナム戦争は失策だったスクープ
-
-
『ブレードランナー』 その映画が好きな理由
『ブレードランナー』、 パート2の制作も最近決まった カルト中のカルトムービーのSF映画
-
-
『ベイマックス』 涙なんて明るく吹き飛ばせ!!
お正月に観るにふさわしい 明るく楽しい映画『ベイマックス』。 日本での宣伝のされかた
-
-
太宰治が放つ、なりすましブログのさきがけ『女生徒』
第二次大戦前に書かれたこの小説。 太宰治が、女の子が好きで好きで、 もう
- PREV
- 『ウォレスとグルミット』欽ちゃんはいずこ?
- NEXT
- 『風が吹くとき』こうして戦争が始まる